注意
・嘔吐描写あり
・自傷行為描写あり(軽く)
・キャラ崩壊あるかも
・作者の妄想の塊
・ゆえにクオリティ保証なし
・長い
あなたside
まだ朝の寒さが厳しい1月の終わりごろ、カリスマたちがバタバタと何かの準備を始めていた。どうしたのかと尋ねると、みなやらねばならぬことがあるのだと答えた。
「ちょっと実家の用事があって。」と天彦さん。テラさんは「仕事が今までにないくらい忙しくなって。」と毎日おしゃれな携帯とにらめっこしている。理解さんは毎年恒例のパトロール強化月間らしく、猿川さんにはどうしても許せない人たちがいるのだそうでしょっちゅう怪我をして帰って来る。大瀬さんは創作活動に熱が入っているようで、なかなか部屋から顔を出してくれない。依央利さんはバレンタインの準備と毎日の家事に追われている。あまりにもつかれた顔をしているから、少しでも私が手伝おうとすると全部自分でやろうとしてしまう。ふみやさんは……「チョコスイーツを食べまくって来る、依央利には内緒な。」だって。
かくいう僕も人のことは言えなくて、テストから解放されたと同時にレポートとバイトの方が忙しくなりつつある。今日も、朝から夜まで接客やら作業やらをしてへとへとになって帰宅した。「ただいま戻りました。」といって玄関の扉を開けるが、リビングには誰の姿も見えない。ただ冷蔵庫に人数分の食事が置いてあるだけだった。料理を温めなおすといい匂いが漂うが僕の食欲を掻き立てるには至らなかった。それでも残すのは悪い、と飲み物で流し込むようにして食べて眠りについた。
いつの間にか時刻は朝の五時半になっていた。強化月間だけあっていつもよりも大きな理解さんの声が響き渡っている。とはいえ、各々用事があったり家を空けたりしていたため、その挨拶にこたえるのは自分だけだった。
私はそう頷いてバイトへ行く支度を始めた。心臓が嫌にドキドキしている。憂鬱の一言に尽きる。忙しいし、あまり好ましくないお客さんもいるし、職場の人たちとの関係も難しい。……最近、バイトとか学校のことを考えると気持ちが暗くなる。でも私のなんて大したことじゃない。みんな忙しいから弱音なんて、弱音なんて吐いていられない。溜息をつくたびに罪悪感にかられ、自分を傷つけてしまうようになった。
また一日が終わる。バイト終わりに調べ物をするために図書館へ行った。帰り道、立っていられなくてふらふらと土手に座り込んだ。誰にも聞かれていないと思って、何度も溜息をついた。夕焼けが僕のことを慰めるように照らしてくれていた。
「よっこいしょ。」
と気合を入れて立ち上がり、ゆっくりと歩き始める。少しすると、後ろから肩を叩かれた。
「あなた?あなただよね?久しぶり~!!」
「!!」
馴れ馴れしく話しかけてきたこの女は中学の同級生だった。正直言ってあまり得意な子じゃなくて、碌な思い出が無い。僕はこの子にされたことを、一生忘れることはできない。でも、人を憎めば自分にもかかって来る。だから、極力冷静でいようとしたが、
「あんた、変わってないね~。ダサいまんま。今もクソ真面目そうな感じ。私さ、今ね…………でさ。こんなことしてるんだ、すごくない?」
と以前の調子で自慢げに自分のことをのたまう彼女に、「変わってないのはお前もだよ。」と思わざるを得なかった。腹の内は外には出さないでおいて、当たり障りのない返答をする。香水の匂いがキツくて、ますます気分が悪くなりそうだった。
「じゃあね。」
とだけ言ってその場を離れた。僕の努力も、今までのことも、今のことも一ミリも分からないくせに言ってくれるよな。…………なんとなく惨めな気持ちになって涙が止まらなくなった。日が暮れてきて、誰にも泣き顔を見られなかったことが幸いだった。
ぼやぼやとした気持ちのまま家に帰ると、キッチンで調理していた依央利さんが出迎えに来てくれた。今日の夕飯は何だろうか、肉が焼けるあたたかい匂いがしていた。依央利さんは半分泣いている僕を見て少し驚いていたが、何も聞いてこなかった。
意図しているのかしてないのかわからないけれど、詮索してこないところが有難かった。
夕飯後自室に戻ると、すぐにベッドに倒れこんだ。枕に顔をうずめると、また自然に涙が零れてくる。その日は何もする気になれなくて、ずっと横になっていた。……頭がガンガンと痛み、心臓が破れそうなほどに鼓動している。だるくて、少しも動けなくて、でもどうしようも出来なくて。どうすればいいのかなんて今の私には判断できない。
その日は泣き腫らしたまま寝落ちてしまった。
翌日
とご機嫌な声がする。実家の用事を終えた天彦さんが意気揚々と帰宅した。紙袋をごそごそしてお土産を手渡してくれた。その日のうちに「ただいま。」とふみやさんもいつもの調子でスイーツ巡りから戻ってきた。依央利さんに詰問されないか不安だけど、まあ、何とかなるでしょう。他の人たちもそろそろやることに目途が付き始めているようだった。
みんなのやるべきことがひと段落し始めたこのタイミングで、依央利さんがごちそうを作ってくれた。
と光のない目で冗談を言ってくる。うん、とても冗談には思えない。
猿川さんと大瀬さんにそう言われて自分の皿を見ると、ちっとも減っていなかった。
みんなに心配されたくなくて半分を食べきったのだが、本当に無理だと思った。一足先に食器を下げて部屋に籠っていると、さっき無理したのが祟ってめちゃくちゃに気持ちが悪くなった。
真夜中にこっそり部屋を抜け出して、音もなく冷たい廊下をかけていく。そしてそのままトイレに駆け込んですべて吐き出した。
喉が痛い、苦しい……と思いつつ、ちょっと楽になると明日のバイトのことを考えていた。水を流したあと、ふらふらと自室に戻って再び眠りについた。
ぱっと目が覚めた。時計を見ると朝の8時で、もう家を出ていないといけない時間だった。だるい体を無理やり起こし、慌てて支度をして部屋を飛び出した。
なんだかおかしいと思ってもう一度時計を見ると、まだ4時だった。なんだか一気に力が抜けてきた。喉が渇いていたので水を飲んだ後リビングのソファの上でブランケットを被り、夜が明けるのを待っていた。張りつめていた緊張が解けたからなのか頭がじくじくとなって、ぼーっとしてきた。
ソファに寝転ぶ私を見下ろしていたのは理解さんだった。他のみんなもぞろぞろとリビングに入って来る。
掠れた声で返事をする。
その言葉を最後にとろとろと微睡んでいると、「朝ごはん、できましたよ。食べましょ。」と遠くに依央利さんの声がする。いつの間にかみんなが食卓に着いていたので、私も行かなきゃとゆっくりと立ち上がった。その拍子につきり、と頭が痛む。それに視界がぐにゃりと歪んで、くらくらする。すぐに立っていられなくなった。でも、空っぽの頭では何も考えられなくて。
がたっ、ばたっ。
次に気がつくと、私の体は床の上にあった。
……打ち付けたところの痛みと嫌な寒気があって、思わず身を屈める。
熱い吐息を零しながらなんとか起き上がろうとするけど、ちっとも体がいうことを聞かない。ぼやけた視界の中に、皆の顔が映っている。するとおでこにひやりとした感触がして、薄い掌が当てられたのだとわかる。
その声にどこか禍々しさを感じて背筋が凍りそうだと思いながら僕は意識を手放した。
ふみやside
朝飯を食べようとしたタイミングであなたが倒れた。ひどい顔色で荒い息をしている。部屋へ連れて行こうと天彦がその体を抱えあげた拍子に服の袖から腕が見えた。赤茶けた線がいくつも走っている腕が。
あなたは依央利によって部屋着に着替えさせられて寝息を立てている。しばらくすると体温計の音が鳴り、液晶に41.2の数字がうつる。
結局ある程度様子見をすることにした。時々うわ言で謝罪の言葉と自己を否定する言葉を呟いている。腕に残る深い傷ととめどなく溢れている涙からも、あなたが心身共に苦しい状態にあるということが明白だった。
ねぇ、なんで。
依央利に部屋を追い出されたが、何か差し入れでもしようと思って夕方になった頃にあなたの元に行くと
みんなも同じことを考えていたみたいで部屋の前で鉢合わせた。そっとドアを開けるとまだ眠っているあなたと側に座っている依央利の姿があった。
「どう?」と俺が尋ねると、
依央利がそういって部屋を出ようとした時、あなたの瞼がピク、と動いた。
あなたside
目を覚ますと、視界には窓から差し込むオレンジの光が広がっていた。いつの間にか汗をかいていて、服とか髪がべっしょりと肌に張り付いていた。
「あ、起きた。」と依央利さんの声。徐々に視界がはっきりしてくると、全員が僕の周りにいるんだと分かった。……なんでこんな時間まで?なんでみんながここに?……僕何してたんだっけ。回らない頭で考えていた。
天彦さんの言葉が甘く低く響いた。
と大瀬さんが顔をほころばせる。
温かい言葉を貰えて、僕が起きて安堵の表情を浮かべているみんなを見られて、心の底からここにいられてよかったと思った。なんだか嬉しくて、心がぽかぽかしていつの間にか涙を流していた。あまりにも現実的でない感じがして、これが熱に浮かされながら見ている夢でないことを祈るほどだった。
テラさんが僕の頭を撫でてくれて、ああ、これが本当なんだと実感した。……みんなの前で泣くなんて、かっこ悪……と思いながらも、抑えていた気持ちが溢れ出して、ますます涙が止まらなくなった。
まだ元気になるまでは当分の時間がかかることは何となくわかっているけど
……きっと何とかなる。
これほどまでに号泣したのはいつぶりだっただろうか。熱に浮かされて人恋しくなっていたからか、皆の言葉が嬉しかったからか、苦しみから解放される糸口が見つかったからか。今までに流してきたどの涙よりも熱くて、甘くて、透明な涙だった。
2024年2月12日












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!