第7話

六話・旅立ち🕊 𓈒 𓂂𓏸
23
2022/10/22 09:22
ドンドン
万作
起きろ!明日人!
稲森明日奈
稲森明日奈
ふわぁ〜、誰??
明日人
明日人
んっ?
ガチャ
万作
行くぞ明日人
明日人
明日人
う、うん
万作に導かれて、俺は、校長室ヘやって来た。姉さんは、家でお留守番。 
校長室には、他の部員たちも集まっていた。
冬海校長
みなさんにお伝えしておきます。
伊那国中サッカー部に、廃部を逃れる道が出来ました
部員達は、息をのんだ。だが、明日人は、表情が冴えないままだ。
のりか
廃部にならないんですか?
冬海校長
条件ついでスポンサーになっても、いいと言ってくれる方が現れたのです
道成キャプテン
その条件とは?
冬海校長
フットボールフロンティアに出場して、一勝を挙げること
貴利名
貴利名
サッカー日本一を決める、あのフットボールフロンティアですか?
冬海校長
そうです。到底無理なので断ろうと思っていますがね
冬海は手のひらを上に向ける「お手上げ」のポーズで部員達に目をやった。
剛陣先輩
おい待てよ!
剛陣は必死に食い下がってみたものの、
冬海校長
考えるだけ、時間の無駄でしょう
と言われると、自分がその大会のすごさを何も知らないことに、思い至った。
剛陣先輩
そんなに大変なのか?
奥入君
そりゃもう
剛陣先輩
一回勝つだけだろ?
道成キャプテン
出場するだけでも相当の実力を要求される。ましてやそこで勝つなんて……
剛陣の素朴な質問に、頭脳派プレイヤーの奥入ひろ、そしてキャプテンの道成が、悔しさを噛み殺すように答えていた。
「サッカーを続けられるかもしれない」という部員たちのほのかな期待は、一瞬にして色あせた。
ただ一人を除いて……。
明日人
明日人
やります!フットボールフロンティアでの一勝、挙げてみせます!
それまで黙っていた明日人が、すっくと顔を上げて力強く行った。
道成キャプテン
簡単に言うな。俺たちには、出場資格もないんだぞ
すぐさま道成が諭す
だか……
冬海校長
出場資格ならありますよ
冬海は、とんでもないことを言い出した。
冬海校長
あなたたちには、東京のサッカー強豪校『雷門中』に編入していただきます。
雷門の一員となることで、フットボールフロンティアへの出場権が得られます
奥入君
雷門って、あの雷門中……
奥入が驚く。
謎は、残るが、冬海は、話を進める。
冬海校長
君たちなら『やりたい』なんて無謀ムボウを言い出すかもしれないと思ってね。前もって手配しておきましたよ
奥入君
つまり、僕たちはこの島を出て、東京に行くということですか?
冬海校長
そうなりますねぇ。それしかサッカーを続ける道はありません。まぁ、それを決断したところで、勝利の可能性はほぼゼロです
それを聞いて、明日人は顔を上げ、一歩前に出た。
明日人
明日人
ありがとうございます!俺、絶対にやります!サッカーを続けるために、フットボールフロンティアに出場します!
あすとが宣言すると、部員たちの間には喜びと不安が入り混じった空気が漂った。
しかし、それもほんの一瞬。冬海が対戦チームの名を告げたとたん、すべては不安に変わった。
明日人
明日人
みんな、迷うことないだろ!俺たち東京に行くんだ。東京に出てサッカーを取り戻すんだ!
部員たちは校庭の木陰に集まっていた。明日人は熱く語りかけたが、みんな元気がない。
伊那国中のメンバーに課された条件はたった一勝。それなのに……。
奥入君
相手は、あの星章学園……
奥入がメガネを押し上げながら口にした星章学園とは、強豪の中の強豪、全国ランキング一位のチームだったのだ。
ゴーレム(岩戸)
勝ち目ないでゴス(小声)
二年生の岩戸高志が、小さな声で言う。
体つきはとても大柄で、チームメイトからは神話に登場する、巨大な人形に、なぞらえ「ゴーレム」と呼ばれるほど。だが心は優しい。



そこへ、輪の外から聞き覚えのない声が浴びせられた。
???
???
やる前から負けムードかよ
そこには、おデブで背の低い少年が居た
その人の名前は、小僧丸サスケ
万作が転校生が来ると言うのを思い出した。
小僧丸
田舎島の自然の技の特訓でもしようと来てみたが…
腰抜けの集まりとはな
小僧丸
お前らは、サッカーを続ける事以前に、戦う事ですら、ビビってる
そんなヤツらが、勝てるわけ……
小僧丸
必殺技の一つも使えず、島出る勇気もないお前達が勝てるわけねぇよ…
明日人
明日人
俺は、やる
みんなが反対でも俺はやるよ!
東京でサッカーを取り戻すんだ!
明日人の決意を目のあたりにした部員たちは、自分の心の中で何かが変わったのを感じた。 そして、その日のうちに、彼らはそれぞれの行動に出た。
海辺では……
剛陣先輩
フンス(   ´ ꒳ ` )=3( *¯ ꒳¯*)フンスッ!
剛陣がドデカい丸太をロープで束ね、引きずって足腰を鍛えている。
その横で休みながら、見守る日和が、声をかける。
日和
剛陣さん、あんなやつの挑発にのるなんて
剛陣先輩
挑発に乗ったわけじゃねぇ。俺やってみたくなったんだよ。マジで
日和
だからって……
剛陣先輩
生み出すんだ、必殺技を。
必殺技があれば勝てるかもしんねぇだろうが!
日和
(これが必殺技の特訓?)
日和は、少し呆れてるようだった。
しかし剛陣は大まじめだ。
これが限界だという表情で日和に尋ねる。
剛陣先輩
おまえ、聞いたことあるか……ファイアレモネードって……
日和
……トルネード……ですよね
ドン引きする日和に、ドッパーンと砕け散った波のしぶきがかかった。
強い日差しが、氷浦家の縁側に照りつけている。
縁台に腰見かけた、貴利名が、姉さんと祖母と目を合わさずに、切り出した。
貴利名
貴利名
姉さん、ばあちゃん
俺さ、東京に行く……。東京で勝てたら、俺たちまだサッカーできるらしくてさ…………
ばあちゃん
そうかい……さびしくなるねぇ
氷浦紫苑
氷浦紫苑
そうか、さびしくなるな……
貴利名
貴利名
ごめん
ばあちゃん
だけど、きーちゃんなら勝てるよ
氷浦紫苑
氷浦紫苑
だが、貴利名なら、勝てる
そう信じてるからな!( ´•̥̥̥ω•̥̥̥`)
貴利名
貴利名
うん、勝てるよね
って、姉さん!?
ヨシヨシ(。´・ω・)ノ゙
氷浦紫苑
氷浦紫苑
ありがとう貴利名
まぁ、俺もついてくけどな!
貴利名
貴利名
えぇ!!
撫でて損した……
氷浦紫苑
氷浦紫苑
ハハッ
貴利名が立ち上がり、振り向く。
ばあちゃんには、微笑み
姉さんには、怒り?が返ってきた…
氷浦紫苑
氷浦紫苑
(俺、なんか悪いことしたか??)
坂道を自転車が下っていく
ハンドルを握るのは『ゴーレム』こと岩戸だ。その大きな大きな岩戸の頭にひときわ小柄な2年生、服部半太、通称『はんちゃん』がしがみついていた!
はんちゃん
東京はさ、メシはうめぇのかな?
ゴーレム(岩戸)
はんちゃんはもう行くって、決めたでゴスか?
はんちゃん
島は、離れたくはねぇけど俺やっぱサッカーしたい!
ゴーレム(岩戸)
そうかー
はんちゃん
ゴーレムはまだ迷ってんのか?
ゴーレム(岩戸)
うん……はんちゃんはやっぱりすげぇなー
万平と看板に書かれた寿司店のカウンターに、万作が座っていた。
他に客はいない。
何か言いたげな、彼に仕込み作業中の父・一平が聞いた。
一平
どうした?
万作
……親父、俺、東京に行こうと思うんだ…
万作が帽子を脱いで、申し訳なさそうに、言った、一平は背を向けたままだ。
一平
ほう、半人前のお前が東京な
万作
半人前だから行くんだよ。サッカーでくらい一人前にならねぇと
一平
そうか
そこで会話が途切れた。包丁の音だけが、親子の耳に響く。父の気持ちを察して万作は、
万作
ごめん
と一言ささやいた。
また少し沈黙があったあと、一平がカウンターに皿を差し出した中トロが2貫。
一平
食え。俺の餞別せんべつだ。向こうに行っても、他の奴らに負けんなよ
万作
親父……
万作は寿司を口に運び、たっぷりと噛み締めた。
鼻の奥がツンとしたのは、わさびのせいだけではなかった…
道成父
そうか、東京か。さびしくなるが、おまえが決めたことなら、父さんは、何も言わない
夕暮れの中、道成とその父が並んで歩いている。町役場で働く父の仕事の帰り道だ。
道成キャプテン
でも、母さんにはきっと反対される
道成父
心配するな、父さんから話しておこう
父は立ち止まり、息子の肩に手を置いた。
道成キャプテン
ありがとう
再び歩き始める。
道成父
母さんには手紙を書けよ
道成キャプテン
うん、わかってる。
道成は、母のことを思い出すと、少しさびしい気持ちになった。

太陽は水平線に沈もうとしている。

のりか、日和、奥入の3人は崖の淵から海を眺めていた。
のりか
東京に行くか、島に残るか。選ばなくちゃいけないなんて……
そういったのりかの横で、日和も涙ぐんだ。
のりか
結構ちゃんと練習してきたから、本土のチームにだって負けない自信はあるけど……島を離れるのはつらいよ。
のりか
好きなサッカーをなんで自由にやっちゃいけないの
奥入君
だからさ、スポンサードされていないチームがいきがっても、どうにもなんないわけ
奥入がのりかの横顔に話しかけた。
のりか
そんなのおかしいよ
サッカーか、島の生活か。どちらかを選びとるためには、どちらかを失わなければならない。いくら悩んでも
のりか
どっちも
は不可能なのだから。
奥入君
のりかだって、気持ちは決まってたんだろ?
のりかは答える代わりに、奥入から視線を外し、うつむいた。
日和
のりかさんも島、はなれたくないんですよね?
代わりに日和が答えた。でもそれは、彼女の気持ちを代弁したというより、日和自身の気持ちに同意してほしくて、口からこぼしたようだった。
のりかは再び顔を上げ、ひとり言のように話し始めた。
のりか
サッカーを続けるには、この島を離れなきゃならない。それはわかってる。私だってそうしたい……。だけど私がいなくなると母さんが……
そこまで言うと、だいぶ離れた崖の下から声が届く。
のりかの母
のりかー!あたしゃ元気なんだからねー。ここで逃げたら、海の女じゃないよーっ!
海女さん姿の、のりかの母が、そこにいた。
のりか
母さん……
奥入君
まさかここまでの会話、あそこまで聞こえてないですよね
奥入は、驚きをそのまま口にした。
のりかは、力強く手を振る母の心を受け止めた。

そして、夜が明けた。昇る朝日が海を照らしている。
のりかたちとは別の場所、「てっぺん崖」の高みから、明日人は海を見ていた。
明日人
明日人
母ちゃん、俺、この島を出て、サッカーに会いに行くよ。母ちゃんは言ったよね。サッカーはいなくならない、俺が必要とする限りサッカーはそこにある……だよね
明日人は右手の親指と人差し指を立て、銃を撃つように構えて言った。
明日人
明日人
俺はサッカーをこの島に連れ戻してみせる!母ちゃん見守っててくれ!
船。
剛陣先輩
達者でナァァァ(泣)
明日人
明日人
行って来んぞ〜
日和
行ってきますー
船の中
氷浦紫苑
氷浦紫苑
貴利名
貴利名
貴利名
姉さん
二人
東京楽しみだな!
氷浦紫苑
氷浦紫苑
そういや、明日奈は……
明日人
明日人
姉さんなら、やることがあるからって…島に残りましたよ。
氷浦紫苑
氷浦紫苑
そ、そうか
てことは、俺だけってこと!?
明日人
明日人
そうですね…
貴利名
貴利名
そうだな!
氷浦紫苑
氷浦紫苑
えぇ〜〜
明日人
明日人
海と空きれいだったなぁ……
今、ここからは見えないけど_
明日人が見つめた空と海は、東京につながっている。
自分たちの力でサッカーを取り戻す未来につながってる___。

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