第4話

第四話 いい加減だけど、優しい手
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2025/02/09 13:55 更新
妖魔界の夜風が、ほんのりと酔いを冷ましていく。

けれど、あなたの胸の内は
まだぐちゃぐちゃのままだった。

エンマの腕の中で泣き続け、気づけば夜も更けていた。

——このまま帰りたくなかった。

家に帰れば、また「お前は怠けてる」と言われる。
家族はあなたの心の傷を見ようともしない。
一人きりで布団に潜って、泣いても、誰も気づかない。

それが、たまらなく嫌だった。

だから、酔った勢いのまま、エンマの手をそっと握った。

「……ねぇ」

熱のこもった声で、囁く。

「……どこか、泊まれるとこ……行かない?」

エンマは、少し驚いたようにあなたを見つめた。

金色の瞳が、まるで本心を見透かすように揺れる。

けれど、拒みはしなかった。

「……いいぜ」

短くそう答えて、あなたの手を取った。

そのまま、妖魔界のとあるホテルへと足を踏み入れる。

——熱に浮かされるように、ここまで来た。

部屋に入ると、ほどよく暗い照明が、
今の気持ちを映すようにぼんやりと灯っていた。

今だけは、何もかも忘れたかった。

傷ついた心も、積み重なった言葉の棘も、全部。

エンマがいてくれる、この時間だけは。

あなたは、ぎゅっとエンマの袖を握った。

「……エンマ」

そう名前を呼びながら、彼の胸に顔を寄せる。

少しだけ、期待していた。

このまま、全部を忘れられるほどの熱に
溺れさせてくれたら。

けれど——

エンマは、当然のようにあなたをそっと抱き締めたまま、
ベッドに座り込んだ。

「……今日はもう、寝るぞ」

「……」

その言葉に、あなたは驚いて顔を上げる。

エンマの瞳は、まっすぐだった。

あなたがどんな気持ちで誘ったのか、
きっと分かっていたはずなのに。

「……っ、期待外れ」

思わず、そんな言葉がこぼれた。

「……ああ、そうかもな」

エンマは、くすっと笑って、
あなたの頭をやさしく撫でる。

「でも、お前が求めてんのは、
 本当はこんなことじゃねぇだろ」

「……っ」

図星だった。

あなたは、本当はただ——

「抱きしめてほしかっただけだろ」

——その言葉に、もう何も言えなかった。

また、ぽろりと涙がこぼれる。

けれど、今度は静かに、ただ温かく。

エンマは、何も言わずにあなたを抱き寄せ、
心地よい体温に包み込んでくれる。

「……こうしてるから、安心して寝ろ」

ぽんぽんと背中を軽く叩かれるその感覚に、
あなたの心は溶けていった。

「……エンマ…」

彼の胸に抱きついたまま、涙の跡を残したまま、
あなたはいつの間にか眠りに落ちていった。


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