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『恋する人には愛する人がいました』
その映画を見つけたのは本当に偶然だった
街に買い物に行って、その帰りに偶々映画館の前を通った
雨の背景に、くっきり浮かび上がる白い文字
そのキャッチコピーに、目を奪われた
スマホを取りだして、検索エンジンに打ち込む
すると、雨が降っている外の景色を窓から頬ずえ着いて見ている女の人が出てきた
〈ある日突然、雷に打たれたみたいに恋に落ちた。〉
〈好きで好きでたまらない人には忘れられない愛する人がいました〉
〈貴方なら、この恋を貫けますか?_〉
心をわしずかみにされたような、頭を殴られたような、そんな衝撃を受けた
ほとんど無意識にチケットを購入し、シアターに入った
映画は雨のシーンで始まった
男女2人が向き合っている
雨が強くなる
『ごめん、忘れられない人がいるんだ』
『…亡くなった人には勝てっこねぇよ』
男は彼女の返事を受け入れた
『貴方の事は本当に好きだけど、今このまま付き合ったら、あなたを困らせるだけだと思う』
彼女は雨なのか涙なのか分からない雫を垂らした
男自身も、それを知っていたようだ
ショックを受ける
死んだ人間に勝てるわけが無い
諦めるしかないその恋心が嫌になる
でも好きで好きでたまらない相手を簡単に諦めることは出来ない
他に愛する人がいる彼女を、僕は愛せるのか
そして、何処まで思いを貫き通せるか
「ごめん、無理だ…」
いつかの記憶が戻ってくる
もう何年も経ったのに、鼓膜にこびりついてるその言葉
誰かに首を絞められたような気がして、
苦しくなって
口を抑えながらシアターを出た
本能的に、「この映画の結末は見たくない」と感じたのだ
いつの間にか、頬は涙に濡れていた
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。