前の話
一覧へ
次の話

第1話

第8章 終わらない物語
58
2025/05/18 11:01 更新


 午後の喫茶店。


樋山美風
樋山美風
君が気に入ったらまた連れて来るよ。


 居心地の良い二人席には月の形の照明が灯っている。

 2階のこの店のお洒落な小さい窓から、下道を人が行き交うのが見える。

 学校帰り、あなたの下の名前は美風と一緒に小さなテーブルについてアイスティーを飲んでいた。




樋山美風
樋山美風
僕の隠れ家。
樋山美風
樋山美風
引っ越してきてから見つけたんだ。
樋山美風
樋山美風
ちょっと良いでしょ?
(なまえ)
あなた
カフェってなんか大人になった気がする。
樋山美風
樋山美風
そう?。
樋山美風
樋山美風
前から来る。
樋山美風
樋山美風
僕はそんな事はないけど。
(なまえ)
あなた
2人でお茶飲んでると、ちょっと不思議な気分になる。


 あなたの下の名前は物珍し気に照明を見上げた。

 店内には小さな音で音楽が掛かっている。

樋山美風
樋山美風
さっき言ってた事だけど、僕キミと上野が万一付き合いだしたら黙ってないからね。


 アイスティーを一口飲んだ美風が、口を開いて言った。

(なまえ)
あなた
どういう意味で?
樋山美風
樋山美風
だってあなたの名字さんは僕のだもん。
樋山美風
樋山美風
幼なじみを振りかざして、上野が言ってくるから腹立つ。
(なまえ)
あなた
樋山くん、そういう事普通に言うのって変だよ。
樋山美風
樋山美風
何が?。
樋山美風
樋山美風
本当の事を言ってるだけじゃない。


 美風は済まし顔で、銀のスプーンで氷をかき混ぜた。

 美風は色々な場所にあなたの下の名前を連れていきたがった。

 自宅や、自分のピアノのレッスンにあなたの下の名前を同伴しようとすることもあれは、今日の様にお洒落な喫茶店に、あなたの下の名前を誘って行くこともあった。



樋山美風
樋山美風
思うに一番好きな人って、滅多に変わらないから、手に入るまで、譲っちゃいけないんだ。
(なまえ)
あなた
もし一番好きなものがいつでも手に入るとしたら楽しくない?
樋山美風
樋山美風
話を逸らさないで。
樋山美風
樋山美風
まったくもう。
樋山美風
樋山美風
いっつもそういう風に、僕の好意を受け流すんだから。


 美風はあなたの下の名前を叱る時の調子でそう言って、コップをテーブルに戻した。

 あなたの下の名前はこの店のアイスティーを、今まで飲んだ中で一番大人の味かもしれない、と思っていた。

樋山美風
樋山美風
あなたの名字さん、僕が一生譲らなかったら、僕のものになってくれる?


 美風が聞いた。

(なまえ)
あなた
僕のものって……
樋山美風
樋山美風
その言い方がそのまま。
樋山美風
樋山美風
恋人はお互いがお互いのものだよ。
樋山美風
樋山美風
どうせ幼なじみだからって言って上野に流れようとするんじゃないかって心配。
樋山美風
樋山美風
それか二股か。
樋山美風
樋山美風
言っとくけど、あなたの名字さんのしようとしてるズルなんて全部お見通しだからね。
(なまえ)
あなた
……。


 頬杖をついた美風が言った。

樋山美風
樋山美風
僕の大好きな人は、僕を多分二番目に好きだ。
樋山美風
樋山美風
でも僕は好きな人の二番目じゃ我慢できない。
樋山美風
樋山美風
一番じゃなきゃ。
(なまえ)
あなた
……
樋山美風
樋山美風
僕には好きな人を幸せにできる自信があるし、その義務もある。
樋山美風
樋山美風
一生可愛がって楽しく生活する知恵もある。
(なまえ)
あなた
……うーん
樋山美風
樋山美風
何が言いたいかっていうとね、


 あなたの下の名前が唸ると、美風は顔をあげてにこ、と笑った。

樋山美風
樋山美風
キミは一生僕から逃げられない、って事だよ


 そんなのは当たり前の事、とばかりに、済まし顔でアイスティーに口を付けた美風に、あなたの下の名前なすすべがなく、そっと目を逸らすと、足元に窓枠が明るい影を作っている。











 翌朝。

 あなたの下の名前が登校すると、教室の真ん中に輪になって、クラスメート達ががやがやと話をしていた。

駒井理央
駒井理央
あなたの下の名前!


 窓際から理央が来て声をかけた。

駒井理央
駒井理央
今日は早かったね。
駒井理央
駒井理央
ねえねえ、学芸会の出し物、何が良いと思う?
(なまえ)
あなた
学芸会って?
駒井理央
駒井理央
昨日先生が言ってたでしょ。
駒井理央
駒井理央
演劇か演奏か合唱か。
駒井理央
駒井理央
それとも他のものか。
(なまえ)
あなた
ああ


 あなたの下の名前は合点して頷いた。

 昨日、ホームルームで、学校の学芸会の出し物を考えてくる様言われた。


駒井理央
駒井理央
そうやって言うって事は、あなたの下の名前は出し物を考えてこなかったんだね。


 理央は分かったというように頷いた。

駒井理央
駒井理央
私は演劇が良いと思うな。
駒井理央
駒井理央
普段ありえないから。


 理央はそう言うと、クラスメート達の輪の中に入って、ねえ、演劇やらない?と明るく声をかけた。


生徒1
生徒1
演劇?
生徒1
生徒1
演技するのは難しそうだよ。
生徒1
生徒1
やり方がよく分からないし。
生徒2
生徒2
小道具に凝ったら面白そうじゃない?。
生徒2
生徒2
小物を作るのは楽しそうだよね。
生徒4
生徒4
演技って何か気後れするよ。
生徒4
生徒4
俳優数人だけに絞ったら、楽できるかな





 ────今年は何をする事になるんだろう。





 鞄をしまって席についたあなたの下の名前は、頬杖をついて、今年の学芸会について考え始めた。












 朝のホームルームと1時間目は、学芸会の出し物を考えるのにあてられた。


駒井理央
駒井理央
先生、今年の学芸会の出し物は、演劇が良いと思います。


 手を挙げて理央が言うと、先生は頷いた。

先生
先生
駒井さん、ありがとう。
先生
先生
先生も演劇でも良いと思いますよ。
先生
先生
後は演奏か合唱か。
駒井理央
駒井理央
みんな、演技って普段絶対にしないし、いい記念になると思うよ。


 クラスメート達が面白がって投票したので、学芸会の出し物は演劇に決まった。


先生
先生
それでは演劇ですが


 先生が言った。

先生
先生
次は演目です。


 生徒たちは口々に意見を出し始めた。

生徒2
生徒2
ラブストーリーが良い。キュンキュンな。
生徒2
生徒2
胸に来るやつ。
生徒3
生徒3
わくわくする筋のやつが良いよ。ハラハラドキドキ。
生徒3
生徒3
サスペンスな。
生徒1
生徒1
冒険ものはどう?。楽しそうじゃない?
生徒4
生徒4
俳優が沢山出てくる方が面白いよ。
生徒4
生徒4
派手だもん。


 生徒の一人が立ち上がって言った。

生徒5
生徒5
じゃあ、『姫と王子の休日』はどうでしょう?
先生
先生
静かに。



 先生が言って、教室が静かになる。

先生
先生
先生も聞いた事があるな、それは。
先生
先生
お姫様と王子様が家来達を出し抜いて自由になるという筋の話でしょう。
生徒5
生徒5
はい。


 生徒が言った。

生徒5
生徒5
あのシナリオ、山場のシーンで、クラスメート全員で演技することができるんですよ。
生徒1
生徒1
全員!
先生
先生
それは面白いな。



 演目はすぐに『姫と王子の休日』に決定した。

先生
先生
それでは次は俳優などの役どころ決めです。


 黒板を背に先生が言うと、教室から黄色い声があがった。


生徒2
生徒2
先生!王子様役には、上野くんが良いと思います!。


 宗介は自分の席で頬杖をついたまま怒り笑いをした。

上野宗介
上野宗介
冗談。
上野宗介
上野宗介
誰が演技なんか。
生徒1
生徒1
先生!王子様役は樋山くんで決定ですよ!


 次に美風のファン達の歓声があがると、美風も自分の席でうんざりした顔をした。

樋山美風
樋山美風
僕だって。
樋山美風
樋山美風
何が悲しくて演技なんか。
生徒1
生徒1
えーどうして、似合うのに。絶対かっこいいって!
生徒3
生徒3
だって樋山は金髪だろ。
生徒3
生徒3
そのものになっちゃうよ。
生徒2
生徒2
樋山くんの王子様姿超見たい。
生徒2
生徒2
超ときめく!
先生
先生
先生も樋山くんは王子役が似合うと思います。


 ついには先生まで本音を言ったので、教室はてんやわんや。

樋山美風
樋山美風
ちょっと待って。
樋山美風
樋山美風
どうしても僕を王子役にするつもり?


 わあわあ言ってるクラスメートに、美風が心底迷惑そうに尋ねた。


生徒3
生徒3
だってお前そのままじゃん。
生徒3
生徒3
恨むなら自分のルックスを恨めよ。
生徒2
生徒2
樋山くん絶対似合うよ。
生徒2
生徒2
かっこいいって。保証する。
生徒1
生徒1
青い目じゃないのがちょっと惜しいけど金髪だし。
生徒1
生徒1
グレーの瞳のプリンス、なんて逆にいかしてない?。美麗!。
生徒4
生徒4
ってかルックス王子じゃん

 どうしても自分を王子役に据えようとするクラスメート達に、美風はしかめっ面で口を開いた。

樋山美風
樋山美風
じゃあ良い。
樋山美風
樋山美風
やれっていうならやるけど、条件がある。
生徒1
生徒1
条件?


 美風が口を開いた。

樋山美風
樋山美風
新田さんをお姫様役にしてくれるならやります。



 教室は盛り上がった。

生徒2
生徒2
きゃー!急展開!
生徒1
生徒1
それは愛の告白?。樋山くん。
生徒2
生徒2
えっじゃあちょっと待って。
生徒2
生徒2
上野くんはどうするの?
生徒1
生徒1
知らない知らない。
生徒1
生徒1
上野くん怖い顔で恋の事見てるよ。
(なまえ)
あなた
えええ……


 話が急に自分に向いてきたので、あなたの下の名前は狼狽えて上を見上げた。

樋山美風
樋山美風
やるよね?あなたの名字さん。
先生
先生
どうしますか?。
先生
先生
先生も、あなたの名字さんはお姫様役が似合うと思いますよ。


 あなたの下の名前の否定の言葉は、クラスメート達にかき消され、あなたの下の名前は姫役、美風は王子役に決定した。











 学校から家に帰って、あなたの下の名前は宗介の家に行った。

 リビングに入っていくと宗介はダイニングに立ってあなたの下の名前と自分の分のお茶を淹れているところだった。



(なまえ)
あなた
学芸会の出し物、決まったね


 あなたの下の名前が呟くと、宗介があなたの下の名前を睨んだ。

 宗介はあなたの下の名前が美風のペアである姫役になったことを、まだ許しては居なかった。
上野宗介
上野宗介
いい加減。
上野宗介
上野宗介
お調子者って笑われて。
上野宗介
上野宗介
それでも良いなんて。
上野宗介
上野宗介
ちゃんときっぱり断らないのが悪いの。
上野宗介
上野宗介
馬鹿なんだから。


 宗介は宣言した。 


上野宗介
上野宗介
言っとくけど、僕はお前たちが王子と姫だなんて認めない。
(なまえ)
あなた
何で。


 あなたの下の名前が聞いた。

(なまえ)
あなた
樋山くんハマり役だよ。
上野宗介
上野宗介
……。


 大道具の係になった宗介は、作るお城の見本のパンフレットを今日貰ってきていた。
 クラスメート達はインターネットで検索した『姫と王子の休日』の台本に沸き立っていたが、宗介はそれをちらりと一瞥しただけだった。


 あなたの下の名前は、ダイニングの壁に寄りかかって、ため息をついた。

(なまえ)
あなた
姫役、なりたくなかったな
上野宗介
上野宗介
断れば良かったんだよ。
上野宗介
上野宗介
ったくお人好し。
上野宗介
上野宗介
そういう所がお前はいい加減なんだよ。
(なまえ)
あなた
演技、どうやってやるんだろう
上野宗介
上野宗介
別に。知らない。
上野宗介
上野宗介
適当にやれば?。


 宗介はぼすりとソファに座り込むと、不機嫌な顔でお茶を一口飲んだ。











 学芸会の準備は賑やかに始まった。
駒井理央
駒井理央
魔法使いのマント、青色の方が良いよね?


 小道具の係になった理央が、ミシンを前に聞いた。



駒井理央
駒井理央
ちゃんと魔法使いらしくね。
駒井理央
駒井理央
簡単なものは作らないと。
生徒2
生徒2
家来役の服、中等部の制服借りるって。
生徒2
生徒2
大体ぴったりだったって。
駒井理央
駒井理央
良いね良いねえ。
駒井理央
駒井理央
あなたの下の名前のドレスはピアノの発表会用のを借りるんでしょう?
生徒3
生徒3
こっち段ボールがなーい
生徒4
生徒4
こっちスプレーがなーい
生徒1
生徒1
こっち絵の具がなーい
生徒5
生徒5
こっちマーカーがなーい
上野宗介
上野宗介
めんど。僕先生と近所の量販店行ってスプレーとか買ってくる。

 教室の窓際でお城の柵になる板と板を釘で付けていた宗介が口を開いた。

上野宗介
上野宗介
あなたの下の名前は?。あなたの下の名前も連れてくから。


 黒板の前に固まって発声練習をしていた俳優達の一団から、美風が顔を上げた。

 美風は椅子の背もたれをお腹に座ってシナリオを開いていた。

上野宗介
上野宗介
あなたの下の名前!スプレー買い行くぞ。
上野宗介
上野宗介
手が空いてるのは俳優たちだけだろ。
上野宗介
上野宗介
樋山は来なくて良いけど。
樋山美風
樋山美風
こっちは台詞の練習中。
樋山美風
樋山美風
一人で行ってよ。


 美風がつんと澄まして言った。

樋山美風
樋山美風
あなたの名字さんは僕と大事な掛け合いをしなくちゃならないんだ。
上野宗介
上野宗介
真面目にやる気もない癖に、適当言ってんなよね。あなたの下の名前!。


 宗介が嫌な顔をした所で、今まで教室を空けていたクラスメート達が、ガラガラと戸を開けて入って来た。

生徒1
生徒1
俳優達、今練習に体育館空いてるって。


 それを聞いた美風は、立ち上がってあなたの下の名前の手を取った。

樋山美風
樋山美風
あなたの名字さん、行こう。


 美風が言った。

樋山美風
樋山美風
体育館の方がやりやすいよ。
樋山美風
樋山美風
ドレスも多分準備してもらえる。


 宗介にちらりと目をやると言った。


樋山美風
樋山美風
僕達忙しいんだ。


 美風はあなたの下の名前の手を引くと教室を出て歩き出した。












樋山美風
樋山美風
あなたの名字さんは僕のお姫様だ


 窓の開いた廊下を大股で歩きながら、美風が言った。


樋山美風
樋山美風
上野なんかに渡すもんか。


 体育館の重い大きな扉を開けると、中には誰も居なかった。

 歩いていって体育館の真ん中に美風が座ったので、あなたの下の名前もその場にしゃがみ込んだ。

(なまえ)
あなた
演技は講堂でするんじゃなかったっけ?


 体育館を見回しながらあなたの下の名前が言った。

(なまえ)
あなた
舞台がないと映えないもんね。


 広い広い体育館。
 高い高い天井

樋山美風
樋山美風
あなたの名字さんと一緒に居られるのが嬉しい。
樋山美風
樋山美風
台詞ださいけど。
樋山美風
樋山美風
演技するとか微妙だけど。
樋山美風
樋山美風
舞台なんて興味ないけど。


 美風が口を開いた。

樋山美風
樋山美風
ねえあなたの名字さん


 美風があなたの下の名前の手を取った。


樋山美風
樋山美風
僕が王子様で良かったでしょ?



 チュ、と手のひらに落とされたキスに、あなたの下の名前は困惑顔をしている。












 学芸会の準備は順調だった。

 小道具も大道具もそれらしく出来上がって、俳優達の練習もピークを迎えていた。

 学校から帰ったあなたの下の名前は、自分の家のソファに寝そべって、学芸会の事を考えていた。

 大道具の係の宗介は、今日も買い物に駆り出されて、二人は一緒に帰ってきていなかった。







 
 ────宗介が帰って来たら何を話そうか。






 
 連日の練習で疲れていたあなたの下の名前は微睡んで、やがてそのまま眠ってしまった。
















 そしていよいよ学芸会当日。

 飾り付けられた門の前に、プログラムが積んである。
 舞台となる講堂は人でごった返していた。



 
 講堂の舞台袖では、俳優達が演技を待っていた。

駒井理央
駒井理央
あなたの下の名前、ドレスぴったりだね!


 小道具の確認をしていた理央が言った。

 あなたの下の名前は水色のドレスを着ていた。


(なまえ)
あなた
理央、小道具間に合って良かったね。
駒井理央
駒井理央
ギリギリだったけどね。
駒井理央
駒井理央
ちょっと雑だけど、良いでしょう。


 通路から着替えた美風がシナリオを片手にやってきた。

 美風の正装には、学年中の女子が湧いた。真っ白いフリルのシャツを着て紺の上着を羽織った美風は、女の子が夢見る王子様そのものだった。

樋山美風
樋山美風
あなたの名字さん、いよいよだね。演技。
(なまえ)
あなた
樋山くん
樋山美風
樋山美風
リラックスできてる?。
樋山美風
樋山美風
僕アドリブ入れるから。
樋山美風
樋山美風
ちゃんと応えてよね。
(なまえ)
あなた
ええっ困るよ……
樋山美風
樋山美風
嘘嘘冗談。
樋山美風
樋山美風
あなたの名字さんを困らせないようにするって。


 小道具の確認をしていた理央が言った。
 
駒井理央
駒井理央
式服似合うね、樋山くん
樋山美風
樋山美風
着心地悪いけどね。
樋山美風
樋山美風
なんかゴワゴワしてる。
駒井理央
駒井理央
男子は後で教室で着替えれるから、それまで頑張って。
樋山美風
樋山美風
分かった。
樋山美風
樋山美風
そうしようかな。
駒井理央
駒井理央
今日は終わったら家庭科室でパーティーだよ。
駒井理央
駒井理央
俳優達を労うからね。


 理央は他の小道具の確認のため慌ただしく通路へ消えた。


 公演が近づくにつれ舞台袖は緊張してきた。

 次が他のクラスの合唱で、その次があなたの下の名前達の演劇だった。

 時間が来て照明担当の多紀がライトを持って二階へ上がった。


駒井理央
駒井理央
よし、みんな頑張ろう


 合唱の終わる頃理央が小声で言ったが、舞台袖に控えて緊張していたあなたの下の名前にはよく聞こえなかった。
 











 舞台の重たい赤い幕が上がる。

 ポーズを取ったあなたの下の名前をライトが照らす。

 怒濤の様な拍手に包まれて、あなたの下の名前達の演技が始まった。











 演劇は大好評だった。
 あなたの下の名前の一生懸命な演技も、やる気を見せない美風のおどけた演技も逆に個性になって魅力になった。

 山場のシーンでは、大道具の係も小道具の係も舞台に上がって大太刀回りの華やかな演技を披露した。




駒井理央
駒井理央
グッジョブ!。
駒井理央
駒井理央
お疲れさま!。
 演劇を終えて舞台袖に戻ってきたあなたの下の名前に理央が言った。
駒井理央
駒井理央
大変だったけど終わるとなんか切ないね。
駒井理央
駒井理央
これ役者にだって。


 花束を手渡されたあなたの下の名前に遅れて、美風も舞台から戻ってきた。

樋山美風
樋山美風
お疲れさま、あなたの名字さん
駒井理央
駒井理央
樋山くんもブラヴォー!いいキャラ出てたよ。
駒井理央
駒井理央
はい、花束。
樋山美風
樋山美風
ありがとう
(なまえ)
あなた
なんか呆気なく終わった気がする
樋山美風
樋山美風
滅多にない体験だから、記憶には残りそう。
樋山美風
樋山美風
緊張はしなかったけど、大声出し疲れた。あー、終わった。


 理央が言った。

駒井理央
駒井理央
あなたの下の名前、あなたの下の名前は先生が用事あるからまだ居てだって。
駒井理央
駒井理央
あ、樋山くんは、着替えるんじゃなかったっけ?
樋山美風
樋山美風
そうそう。教室行ってくる。
樋山美風
樋山美風
すぐ戻ってくるよ。


 花束を片手に美風が通路へ消えた。

 続けて舞台袖から理央を呼ぶ声がした。


生徒5
生徒5
駒井ーこれどうすんのー?
駒井理央
駒井理央
あ、はいはーい。
駒井理央
駒井理央
じゃ、あなたの下の名前、ちょっと行ってくる


 あなたの下の名前は花束を持ったまま、舞台袖の壁に寄りかかって劇の余韻に浸っていた。

 と、そこへ宗介が歩いて来た。


上野宗介
上野宗介
あなたの下の名前

 
 宗介はあなたの下の名前の目の前まで来ると、トン、と拳をあなたの下の名前の後ろの壁に当てた。














(なまえ)
あなた
どうしたの?。宗介。



 あなたの下の名前が聞くと、宗介は真っ直ぐな目であなたの下の名前を見つめた。

 揺るがない黒い瞳、この目はあなたの下の名前に懐かしい。


上野宗介
上野宗介
お前が好き。
(なまえ)
あなた
へ?


 囁く様な声に、あなたの下の名前は目をパチクリした。

(なまえ)
あなた
なんて言った?
上野宗介
上野宗介
だから


 宗介は怒り笑いした。

上野宗介
上野宗介
樋山とお前の演技腹立つし、お前がそういう風に何にも気付かないでぼけっとしてるのも嫌。
上野宗介
上野宗介
苛々すんだよ。
(なまえ)
あなた
どういう事?
上野宗介
上野宗介
しつこい。
上野宗介
上野宗介
分からない振りをしてるんじゃないだろうね。
(なまえ)
あなた
……?。


 宗介は苛立った顔で一呼吸置くと言った。

上野宗介
上野宗介
やっぱり訂正。
上野宗介
上野宗介
僕お前大っ嫌い。
(なまえ)
あなた
……え、


 困惑した顔をしたあなたの下の名前に、宗介は今度は呆れ顔をした。

上野宗介
上野宗介
あのさ、意味分かれよ。


 宗介は黒髪をくしゃくしゃ毟った。

上野宗介
上野宗介
ああ、もう。
上野宗介
上野宗介
言うの出遅れて、超面倒くさい。
上野宗介
上野宗介
お前が悪いんだからな。


 宗介は苛立った表情で腕組みした。

上野宗介
上野宗介
これからずーっと、僕がお前を守る。
上野宗介
上野宗介
何があっても。
上野宗介
上野宗介
大昔からお前を守ってやってきたのは僕なんだから。
上野宗介
上野宗介
一生そうする。
上野宗介
上野宗介
僕と付き合って。
上野宗介
上野宗介
意味分かった?
(なまえ)
あなた
……。
上野宗介
上野宗介
……。
(なまえ)
あなた
……えっ宗介私を好きなの?


 驚いた声を出したあなたの下の名前に宗介は怒り笑いした。


上野宗介
上野宗介
演技一緒にいちゃいちゃされるの、超イラッと来んだよ。
上野宗介
上野宗介
今日で終わってほっとした。


 意思に満ちた優しい声。

 この声も、あなたの下の名前には懐かしい。

上野宗介
上野宗介
お前は樋山のお姫様なんかじゃない。


 宗介は微かに首を傾げた。

上野宗介
上野宗介
樋山に言えよ、恋人居るって。
上野宗介
上野宗介
僕浮気は許さないから。
上野宗介
上野宗介
二股かけて楽しもうっていったってそうは行かないからね。
(なまえ)
あなた
それは……。
上野宗介
上野宗介
なあに?。











 着替えを済ませた美風は通路を戻ってきていた。



 ────演劇は大成功。わざとふざけたら観客を楽しませることができた。まあまあかな、本気ではやっていないけど。



 そこで、美風はあなたの下の名前と宗介を見つける。

 
 宗介の手のひらを壁にしたあなたの下の名前。
 照れくさそうな笑い。


 むっとした美風は口を開いた。



樋山美風
樋山美風
あなたの名字さん



 宗介が美風に気付いた。


樋山美風
樋山美風
僕が居ない間に、一体何をやっているのかな?




 三角関係は永遠に続いた、と書いてこの話を終わる。
















おわり

プリ小説オーディオドラマ