第53話

またねの約束
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2026/02/04 05:09 更新



朝、目が覚めた瞬間に思った。



「今日で終わる」って。



カーテンの隙間から差し込む光が、いつもと同じなのに、



それだけで泣きそうになった。



制服に袖を通すと、少しだけ腕が重い。



最近、ボタンを留めるのに時間がかかるようになった。



指先が、思うように動かない。



――これも、病気のせい。



鏡に映る私は、ちゃんと笑ってるのに、



目の奥だけが怯えていた。



ドアを開けると、いつものざわめき。



椅子を引く音、黒板を消す音、誰かの笑い声。



「おはよ、あなた!」



ゆずが一番に気づいて、いつもより大きな声で言った。



あっきぃも、わざとらしく手を振る。



「おはよー!花嵐大学病院に行っても忘れないでねー!?」



忘れるかもしれない、って言葉が喉まで出かかって、



でも飲み込んだ。



その時



「……おはよ」



少し遅れて、低い声。



ぷりっつ。



視線がぶつかって、心臓が一気にうるさくなる。



制服の袖からのぞく手首、少し寝癖のついた髪。



――全部、記憶に刻みたい。



「おはよ」



声が裏返らなかっただけ、今日は合格。



黒板の文字を追ってるはずなのに、



内容が頭に入ってこない。



いつ、忘れるんだろう。



何から、消えるんだろう。



ふと横を見ると、ぷりっつがノートを取っている。



私がペンを落とした音に気づいて、すぐ拾ってくれた。



指が触れた。



ほんの一瞬。



なのに、全身に電気が走ったみたいだった。



「……ありがとう」



「うん」



それだけなのに、



胸の奥がぎゅっと締めつけられる。



風が強くて、フェンスがカタカタ鳴る。



空はやけに高い。



「あなた、向こうでもちゃんと食べなよ」



「リハビリとか、無理しないでね?」


ゆずとあっきぃが、交互に言う。



「大丈夫だってば」



そう言いながら、



本当は全然、大丈夫じゃない。



少し離れたところで、ぷりっつが空を見てる。



話しかけたいのに、怖くてできない。



――もし、今日が最後の“普通”なら。



教室が空っぽになるまで、私は席を立てなかった。



机に刻まれた小さな傷。



ロッカーに貼ったままのシール。



全部、置いていかなきゃいけない。



「あなた」



振り返ると、ぷりっつが立っていた。



「一緒に、帰ろ」



その一言で、胸がいっぱいになる。



並んで歩く廊下



靴音が重なるたびに、時間が減っていく気がした。



「……花嵐、遠いな」



「うん」



「でも、ちゃんと治療受けてこいよ」



優しい声



でも、その奥に、寂しさが隠れてるのが分かる。



校門の前で、みんなが待っていた。



「元気でね!」



「連絡しろよ!」



笑顔と涙が混ざった中で、



ぷりっつだけが、黙って私を見ていた。



「あなた」



近づいてきて、周りが自然と離れる。



「これ、渡したかった」



小さなノート。



少し角が折れてる。



開いた瞬間、視界が滲んだ。



そこには、



私の癖、好きなもの、笑い方、弱いところ――



全部。



最後のページ。



『俺はあなたが好き』



「……ずるいよ」



声が震える。



「こんなの、忘れられないじゃん」



「忘れてもいい」



ぷりっつは、まっすぐ私を見た。



「その時は、また好きにさせる」



涙が溢れて、止まらない。



「私も、好き」



「忘れても、思い出せなくても……絶対」



彼は一瞬だけ迷ってから、



そっと、強く抱きしめてくれた。



心臓の音が聞こえる。



体温が伝わる。



――この感覚だけは、失いたくない。



バスに乗る直前、振り返る。



ぷりっつくんが、口だけ動かした。



「待ってる」



私は、ノートを胸に抱いて、うなずいた。



花嵐は遠い。



病気は怖い。



でも――



私は、ひとりじゃない。










ちょぉぉぉー、久しぶりの投稿!!



やっと準備が整ったので、今日から再開します✨



久しぶりすぎて忘れちゃったって子は、10話に戻って読み直そっ!!



一章はもう、無視しちゃっていいよ!!



どうですか、久しぶりの更新。


待っててくれてた子、ほんとにありがとう🤭

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