第8話

熱帯夜
95
2018/08/23 08:40
私(榎本 さやか)
…あ、もしもし?
東條くん
もしもーし
私(榎本 さやか)
あ、部活お疲れ!ごめんね、電話なんか付き合わせちゃって…
東條くん
いや全然。そんなことより、どうした?
電話越しでも東條くんの心配そうな顔が見える。
私(榎本 さやか)
いや、ただ誰かに話聞いてほしいなって思っただけ。
東條くん
大丈夫?話して楽になるなら何でも聞くよ。
私(榎本 さやか)
あの…わたし、もう一年以上も先輩の顔みてないし声も聞いてないんだよね。
うんうん、と合間で相槌を打ってくれる東條くん。
私(榎本 さやか)
でもね、なんか、忘れられないの。たぶん、好きなの。
私(榎本 さやか)
このままずっとこうだったら、私一生幸せになれないのかなって。先輩のことなんか忘れられればいいのに…
うーん、と少し考えながら東條くんが話し始めてくれた。
東條くん
忘れようと思わなくて、いいんじゃない?
目からウロコだった。今まで仲のいい友達数人に相談したけれど、みんか「はやく忘れなよ」としか言わなかったから。
ベランダにでて、蒸し暑い夏の空気の中で携帯を握りしめる私。
東條くん
おれはそんなに「好き」って気持ち味わったことないから、それってすごい素敵なことだと思うよ?
私(榎本 さやか)
素敵なこと…
東條くん
まあ、叶わない恋と分かってたらそりゃ、辛いだろうけどなぁ…
あーやっぱりそうだなぁ、違うか、うーん…と、悩む東條くん。
でも私には、東條くんのその言葉がとても胸に響いていた。
私(榎本 さやか)
ありがとう、たしかにそうかも…
東條くん
ごめん、おれなんの役にも立ってないけど…
私(榎本 さやか)
そんなことないよ!
私への返事で真剣に悩んでくれているだけで嬉しかった。
なんて照れくさくていえないけれど。

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