とりあえず家に帰って靴を持ってこよう
家の鍵、拓也の家だ
正直ノープランだった
少し遠回りをして家に帰るつもりだったが、家の鍵がなければ帰ることさえもできない
現実から逃れるようにただ歩いて、歩いて、歩き続けた
どれほど歩いただろうか
一軒の本屋さんを見つけた
不思議な雰囲気を纏っていてあなたの一人称は呑み込まれるように入った
店内もその雰囲気を壊すことなく、落ち着いた洋楽がかかっていた
「いらっしゃいませ」、という落ち着いた声が聞こえたのであなたの一人称は少し会釈をした
小説が好きなのだが好きな作品は見尽くした
新しい出会いを探したくてここに入ったのかもしれない
店内で本を読んでいる人もいた
皆落ち着いている三十代後半、といったような人が数名、木の匂いのするベンチに座って読んでいた
一人、明らかに二十代前半、というような青年がいた
本の好きな人なんだろうな、きっと頭がいいだろうな
あなたの一人称も本を探そう
ここに居るといくらでも時間を潰せそう、そう思うくらい素敵な雰囲気だった
ベンチに座っていた人が一人、また一人、と帰って行った
だけど、その青年だけは熱心に本を読んでいた読み終わったと思ったらまた最初から読み直していた
あなたの一人称も本を読もう
似てる。確かに彼は本が好きだし(二十代後半だが)二十代前半のような顔つきはしている
だが、都心から少し離れているし壮馬はいないはず、
青年はあなたの一人称に反応してこちらを向いた
よかった、壮馬は事情を知らないようだ
そうだった、あなたの一人称は今裸足、不思議にも思うだろう
あなたの一人称の心情を見透かしたように壮馬が口を開いた
『迷惑なんだよ』
拓也の声がフラッシュバックする
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。