第17話

歩く
508
2021/03/29 11:00
モブ
お姉さ〜ん、可愛いね〜!ねぇ俺と飲み行かない?
あなた
すいません、
モブ
あ?なに?
あなた
す、すいません…き、きえ、ます……
とりあえず家に帰って靴を持ってこよう
あなた
…………あ、
モブ
なに?飲み行く気なった?
家の鍵、拓也の家だ
あなた
いえ、友人の家に、忘れ物を、しただけです…………
モブ
靴履いてないし大丈夫?俺の家くる?
あなた
大丈夫です、すいません、失礼します……
あなた
(どこへいこう……)
正直ノープランだった
少し遠回りをして家に帰るつもりだったが、家の鍵がなければ帰ることさえもできない
現実から逃れるようにただ歩いて、歩いて、歩き続けた








どれほど歩いただろうか
一軒の本屋さんを見つけた
不思議な雰囲気を纏っていてあなたの一人称は呑み込まれるように入った
店内もその雰囲気を壊すことなく、落ち着いた洋楽がかかっていた
あなた
(都会にもこんなところあるんだ……)
「いらっしゃいませ」、という落ち着いた声が聞こえたのであなたの一人称は少し会釈をした
あなた
(いい本ないかな……)
小説が好きなのだが好きな作品は見尽くした
新しい出会いを探したくてここに入ったのかもしれない





店内で本を読んでいる人もいた
皆落ち着いている三十代後半、といったような人が数名、木の匂いのするベンチに座って読んでいた
一人、明らかに二十代前半、というような青年がいた
あなた
(小説が好きなんだろうな、)
本の好きな人なんだろうな、きっと頭がいいだろうな
あなたの一人称も本を探そう











ここに居るといくらでも時間を潰せそう、そう思うくらい素敵な雰囲気だった
ベンチに座っていた人が一人、また一人、と帰って行った
だけど、その青年だけは熱心に本を読んでいた読み終わったと思ったらまた最初から読み直していた
あなたの一人称も本を読もう
あなた
……!?
似てる。確かに彼は本が好きだし(二十代後半だが)二十代前半のような顔つきはしている
だが、都心から少し離れているし壮馬はいないはず、
???
……、
青年はあなたの一人称に反応してこちらを向いた
斉藤壮馬
あなたちゃん…?
あなた
そ、壮馬…?
斉藤壮馬
わ!あなたちゃんなんですね…!ここで会えるなんて光栄です…!
よかった、壮馬は事情を知らないようだ
あなた
フラっと入ってみたんだけど素敵な雰囲気のお店だね笑
斉藤壮馬
そうですよね、僕もたまたま入ったんですけど今じゃこの雰囲気に魅せられて時間があれば来てます笑
斉藤壮馬
………………あなたちゃん、靴は、?
そうだった、あなたの一人称は今裸足、不思議にも思うだろう
あなた
えっ、と……
あなたの一人称の心情を見透かしたように壮馬が口を開いた
斉藤壮馬
言いづらいならいいですよ笑…ただこのまま帰らせられないので送ります
あなた
…壮馬は車で来た、の、?
斉藤壮馬
界人くんに乗せてもらったんです笑帰る時連絡したら来てくれるので笑
あなた
界人くんに迷惑じゃ、ない…?
『迷惑なんだよ』
拓也の声がフラッシュバックする
斉藤壮馬
大丈夫ですよ、界人くん優しいのでっ笑

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