第43話

真実の幕開け
67
2023/12/17 12:23
Latte
………
最初に感じたのは、濃いコーヒーの匂いだった
次に、まばゆい光が目を貫く
思わず目を閉じた


光が収まり、目を開く

そこには、あの時の景色がそのまま待ち構えていた
ロッジハウス風のバーのような内装の、暖かい電灯の光が満ちた空間だった

前と同じ、整理整頓が行き届いている清潔感を感じた
Latte
いますか?
部屋全体に聞こえるようになるべく大きい声で言ったつもりだが、帰ってくる声はない
どうやら誰もいないようだ
そのまま奥にある作業机に足を進める

自分の今のブルーな心情と、部屋のお洒落な雰囲気がアンマッチしていた
少し居心地の悪さも感じていた

まるで部屋自体が私を拒んでいるかのような感覚だ

この先に進めば、お前はきっと真実の一端を掴むことになるだろう
だから戻れ、と
そう言われているようにかんじた
Latte
………
私は若干の苛立ちと確固たる信念を持って、前へと進んだ
そして彼女、レイラーさんの机が近づく

前はかなり散らかっていた机の上だが、今回はしっかり片付いている
不要な書類やコーヒーに注いだであろうシュガーのゴミも、今では見る影もない

だからこそ、「それ」が目立った



机の上に置かれていたのは、一冊の本
それは、少なくとも私が生きている間には見たことのない本だった
紫色を基調とした不思議な模様を施された2cmくらいの厚さ
表紙にははっきりと

「疾患薬精」

と書かれていた
普通に考えるなら、「しっかんやくせい」と読むのだろうか
名前から推察するに、病気や薬のことについてだろうか



だとするなら、何故これがここにおいてあるのだろうか?
レイラーさんは見たところ病気に罹っているような素ぶりはなかった

なら……何故?

誰も答えてくれない問いと、嫌な考えが同時に膨れ上がっていく








Latte
…死神って、病気にかかるのかな?
よくよくその本を観察してみると、それには付箋が一つ、挟まっていた

だいぶ昔につけたもののようで、それはすでに色褪せ、ほぼ破れかけていた
だから、そこに書かれているであろう文字も読めなかった
ただ、レイラーさんの字に似ているなと思った

確かに、人のものを勝手に触るのはとても行為だ
まして人の読んでいる本をいじると言うプライバシーを踏み躙る行為はもってのほかだろう

だが、いや、だからこそ

私は欲望に抗えなかった
「触るな」と言われているものに、人はつい触ってしまいたくなるものだ

それに、私は真実を知りたかった
この時すでに私は、この本の中に「真実」が書かれているだろうことを確信していた

真実を知れば、この気持ちも幾分か楽になるのかもしれない
たとえそうならなくとも、めめさんとしっかり話し合えるはずだ
Latte
ごめんなさい……レイラーさん
空中に向けた謝罪を済ませ、本に手を伸ばす

本に触れた時、一気に緊張感が増す
そのまま上質な素材で作られた本の表紙をなぞり、自分の胸に引き寄せる



きっと、真実を知って仕舞えば後戻りは出来ない
少なくとも知らないふりなんてことはできないし、そもそも真実を隠す気もない
今ならまだ引き返せる

だが、私の心の中の何かが、本を手放すことを拒否する
どこかで、真実を知りたいと言う気持ちが私の中にあるのだろう

なら、それに従わない理由はなかった


思い切って、栞が挟んであるページを開いた
Latte
……これ…は…?
「摩耗」
そこには、大きな文字でそう書いてあった
その下に小さな文字で、この説明が記されている


……主に永い時をかける魂に極稀に表れる症状。厳密には病気ではなく、魂が永い時を存在しすぎたため、主に外部からの影響により魂が濁ってしまうことを言う。人間で言う「老化」。基本的な症状としては性格が急変したり、物事を少し忘れやすくなってしまう。重度の症状としては基本的な症状がさらに悪化するほか、周りを受け入れず、塞ぎ込んでしまうことが多い。

そして末期になると、自分が誰かすらわからなくなってしまう。しかし、メカニズムは判明していないものの、末期状態になると不思議なことに自分の過去、生きていた時のことは鮮明に蘇る。現在研究中だが、現時点の推測では、あくまで非現実的な観測に過ぎないが、魂の寿命とも言えるこの症状は、魂が輪廻転生する前の最終段階であり、その魂が現実世界に戻ろうとしているため、昔の記憶が蘇るのではないかと言われている……




震えが止まらなかった
覚えがあった
その症状に

私は、おそらくこれの疾患者を見たことがあるだろう
それも、最も身近な存在である

でも、認めたくない
そんなの嫌だ
どうして、どうして……

Latte
こんなの……
受け入れられるはずがない


でも、これがもし、本当だとするならば………

説明がつくところが多い………














何も、考えれなかった
頭の中が真っ白だ

自分の気持ちと現実が衝突して、押し潰されちまいそうだ

私、どうすべきなんだろう
これを知ったからといって、私に何かできることはない

この残酷な真実を知ってしまったからこそ、私は何かしてあげなければいけないのに

「真実」と言うものは、時に残酷だ
人のエゴや気持ちを簡単に破壊し、現実を突きつける

そして、真実には責任を負わなければならない
それを知ってしまったからこそ、やるべきことが
常に虚偽と責任に埋もれ、顔を出した瞬間に自分に取り憑く
まるで疫病神だ
Latte
私……どうしたら……





レイラー
彼女のところに、行けばいいと思いますよ
Latte
!?
なんの気配も感じなかった
いつの間に、私の後ろに立っていた

人の本を勝手に読んでいた罪悪感と、彼女が発した言葉の重みを同時に感じる
Latte
あっ、あの—————
レイラー
詭弁も質問も要りません。
Latte
……
怒っているのかな…やっぱり…
でも、あんなことを見てしまっては、どうしたらいいかわからない
レイラー
あなたが今抱えている疑問も分かります。でも、今は現世に…いや、彼女のところに行ってあげなさい。
今までに聞いたことのない冷たく、しかし凛とした声が響いた
その声を聞いてわかった

今すぐ、彼女の元に行かなければならないと

何か大変なことななっているようだ
レイラー
私も後で行きます。先に行きなさい。
Latte
は、はい!
そう言い残して、私は逃げ去った
後ろに残されていたポータルに、一目散に入った

現世では、何かただならぬことが起こっているようだ

ならば、早く行かなければ



私は、めめんともりの弟子なのだから
レイラー
………
もう、いったかな

彼女が開いていたページを見る
やはり「あの」ページだ

これを見るたびに苦しくなる

もうすぐ、あの人と会えなくなってしまう



気付けば、ページがポツポツと濡れていく
気づかないうちに、煌めく流星が、紙を濡らす

そして、Latte

彼女とも、いつの日か会えなくなってしまう
彼女も行き着く先は同じだ

部屋の中に、悲しみの沈黙が流れる

ただ、ひたすらに悲しくて


でも、今は

今だけは

前を向かなきゃ行けない
まだ果たすべき責務がある



私も、責任を負わなければいけないのだから
イヤホン少年
ふーっ、やっと作り終わった……
鈴蘭 琴音
鈴蘭 琴音
もう土日が終わっちゃいましたね…
イヤホン少年
あーあ、また明日から学校か〜
鈴蘭 琴音
鈴蘭 琴音
頑張りましょうね!
イヤホン少年
はい(泣)




イヤホン少年
最近はひたすらに寒いですね〜
イヤホン少年
僕はあまり雪が降らない地域に住んでいるのですが、代わりに冬風がエグすぎてもうやばいです
イヤホン少年
今年は雪が降るといいなぁと思いながら年末年始の準備をしています
イヤホン少年
今年はガキ使やるのかなぁ……
鈴蘭 琴音
鈴蘭 琴音
ま、そんなことより小説更新しましょうね!
イヤホン少年
はい(泣)
鈴蘭 琴音
鈴蘭 琴音
それでは!

プリ小説オーディオドラマ