第23話

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2025/01/28 15:00 更新
Tsubasa   side
瑞希
瑞希
好きな人から友達に戻るには、
どうしたらいいか、知ってたりする?
翼
真っ暗なリビングの窓際。
親の出張を利用して、夜更かしをする。

半透明なカーテンを少しだけ開けて、
その隙間に二人ぎゅっと肩を寄せ合い、座り込む。

満天の星空を見つめたまま発された言葉に、
手に持っていたコップを思わず落としそうになった。

月明かりを一身に浴びるヒョンの姿は、
今日も息を飲むほど綺麗で儚く、消えてしまいそうだ。

梅雨特有の湿気を含んだ風は気持ち悪くて嫌いだけど、
そんな事、今はどうでもよくなってしまった。

僕がその問いかけに何も答えられずにいると、
ヒョンはそれに気付いて僕の顔を見つめた。
そうして、可愛らしく笑った。
瑞希
瑞希
俺ね、好きな人がいたんだ。
翼
…………。
好きな人が、いた。
そんなの知らないぞ、僕は。聞いてない。

ヒョンの友人関係に女はいなかったはず。
ヒョンは人見知りだから自分から声をかける事はない。
ましてや女なんて、この人はすぐ緊張するから。

とはいえこのビジュアルを見過ごせない女も多い。
友人関係に至る前にヒョンに告白して、勝手に砕けて
いった女を何人も知ってる。

そんなヒョンが、好きな人?
僕以外に?好きな人がいた?

僕にヒョンの知らない事があるってだけで許せなくて、
気がおかしくなってしまいそうだけど、それでもまだ
良い弟の立場を守ろうとする僕は、真剣に耳を傾ける。
瑞希
瑞希
でもね、失恋したんだ。
もう叶わないって、分かったんだ。
翼
……どうして。
瑞希
瑞希
…告白、したから。で、振られたから。
堂々と。
浮気をしたと、言われている気分だった。

溢れ出てしまいそうになる涙を必死にごかまして、
コップに注がれたソーダが映す夜空をじっと見つめた。
瑞希
瑞希
でもね、その人。
俺と友達でいたいって、言うの。
瑞希
瑞希
俺も関わりを無くしたくないから、
いいよって、言っちゃったんだけど。
瑞希
瑞希
じゃあ…、
どうしたらいいんだよって感じでさ。
瑞希
瑞希
…翼は、どう思うかなって。
どう、思うか。

ヒョン。

僕は、まず貴方に怒らないといけないです。
どんな所でも、僕がいるって言いましたよね。
貴方はそれに対して、可愛く笑いましたよね。

全部を僕に捧げてくれるって、言いましたよね。
僕も全部を貴方に捧げるって約束、守ってるのに。

ずっとずっと、我慢してるのに。
ずっとずっと、隠してるのに。

いつまでも思い出さないまま。
いつまでも眠ったまま。

僕の事、ひとりぼっちにしてきたくせに。
他に好きな人がいるって、そんな話。
聞かされる僕の気持ちが分かるんですか。

ずっと、ずっと貴方だけを見てるのに。
翼
…………。
翼
そんな自分勝手な奴、
放っておけばいいじゃん。
翼
一度好きになった人と、
友達に戻れる方が珍しいよ。
僕は、自然に振る舞えずにいた。

酷く冷たく聞こえたであろうその回答には、
ヒョンを僕の顔をちらりと横目で見るなり、
黙り込ませてしまうほどの威力があった。

ここで自然に振る舞えるほど、
まだ自分はしっかりしていない。

内側から溢れ出てくる憎悪やら怒りやらを鎮めるのに
八割の意識を集中させているので、二割程度の集中力
でしか、今のヒョンには相手ができない。

その内のほんの少しは。
今は、ヒョンと話したくないという、僕の私情だ。
瑞希
瑞希
……や、やっぱそうだよね。あはは…。
難しいよね、うんうん…分かってた…。
翼
……分かってたなら聞かないでよ。
瑞希
瑞希
…ご、ごめん。
母さんが出張で家に帰ってこない日は。
決まってこうして、ヒョンと夜更かしをした。

窓際に座って、晴れた日なら窓も開けて。
季節ごとに違う空と星を見つめながら、
簡単に近況報告し合ったりして、過ごす。

その何気ない時間が、僕の人生の癒しだった。
沢山の闇から逃げ回って逃げ込んだあの家で、
毎晩一緒に過ごしていた日々を思い出させるから。

その時は、ヒョンもより一層、ヒョンに近付き、
僕もまたあの頃に戻ったような感覚がしていた。

この日々があったから、僕は我慢出来ていた。
ヒョンがヒョンではなく、"瑞希"である事を。

そんな、僕の大切な時間だったのに。

まんまとまた、この世界に潰されてしまった。
今度は、ヒョン自らの手で潰されてしまった。
僕の心は、もうズタズタだった。修復不可能なくらい。

いっそ、もう全部。
翼
…ヒョンは。
瑞希
瑞希
…?あ、韓国語ね。
はい、ヒョンです。
翼
……………。
翼
約束、覚えてませんか?
瑞希
瑞希
………なんの約束?
なんの、約束。

そう言われるとわかっていたはずなのに。
ヒョンの口からそれを実際に言わせて、傷付くなんて。
僕まで馬鹿になってしまったみたいだ。

でも、もう。もういいんだ。
分かった。僕はこの一瞬で、ヒョンの言葉で。

ヒョンが、僕の傍から離れるかもしれない、って。

分かったから。
翼
ううん、やっぱりなんでもない。
翼
とりあえず、友達には戻れないだろうね。
相手が善良な人間であればあるほど。
翼
自分に好意があると分かっていて
遊んだりするのは、誑かすような感覚に
なる人が多いんじゃないかと思うし。
瑞希
瑞希
あー…そっか。でも、友達でいたいって
言ったのは向こうだよ?その場合は?
翼
じゃあキープだね。
瑞希
瑞希
きっ…?!
翼
いざって時に付き合えばいいやって
感じでしょ。兄さん、遊ばれてるね。
瑞希
瑞希
そ、そんな事する人じゃないもん!
翼
さぁ?人間いくらでも繕えるから。
瑞希
瑞希
………や、やな事言うな…お前…。
もう自然と、戻れないなら。
無理矢理、"あの時"に戻すしかない。
翼
それより、兄さん。
もっと初めから、
こうしておけばよかったと、思うよ。
瑞希
瑞希
んー??




" 瑞希兄さん" なんて、最初からいらないんだ。




翼
僕もね、好きな人がいるんだ。



瑞希
瑞希
あ、え、あれ?
お前彼女いなかったっけ?
翼
え?そんな話した?
瑞希
瑞希
したよー!なんだっけ、練習?の…
彼女できたって、言ってたじゃん!
翼
………あー…あれ嘘。
瑞希
瑞希
嘘ぉ?!嘘ついたのお前!
翼
うん。
兄さんは頭を抱えた。
それでもどこか楽しそうに笑っていた。

この人、人の色恋の話は本当に好きだな。
聞き専ってやつなんだろう。ケタケタ笑ってさ。

ずっと、見てきてもんな。この笑顔も。
瑞希
瑞希
え、え、じゃ好きな人も嘘?
翼
ううん、それは本当。
瑞希
瑞希
なに、誰?俺知ってる?
同学年?クラスは?どんな子?
翼
兄さんはもちろん知ってる。
翼
三年上の代。大学生だよ。
ちょっと馬鹿で、目が離せない人。
瑞希
瑞希
えぇ?!俺と同期?!
おま、年上が好きなのかよ〜!
翼
まぁ…そうだね。
瑞希
瑞希
はぁ〜?お前一丁前にさぁ〜。
俺と同期なんてどう出会う訳?
この人は本当に面白いな。
ここまで来ると逆に笑えてくる。
翼
出会うも何も、
翼
産まれた時から、横にいるからね。

僕が必要なのは、最初から。

" ボムギュヒョン " だけだ。
Mizuki  side
瑞希
瑞希
……………へ?
産まれた時から、お前の横にいて。
お前の三つ上の代で。俺がよく知ってる人。
馬鹿で、目が離せないって言ってた。

そんなの、よく考えても。
誰も、いない気がするんだけど…。

近所に女の子の幼馴染って居たっけ?
いなかったよな?ましてや翼だぞ?
この顔だから好きになる女の子は多かったけど。

この顔にしてこの性格だからなぁ。
冷たくて嫌になったとか、相手にされないとか。
酷い時は話してもらえないなんて言ってる子もいた。
のに、女の子の幼馴染が、いる?俺が知らないだけ?
瑞希
瑞希
………?…??…????
翼
…………はぁ…。
翼
ここまで言っても、
気付いてもらえないのか。
翼
なら、思い出してもらうなんて。
尚更、無謀だったんだろうね。
瑞希
瑞希
…へ??ちょ、待って、何が?
ふわぁっと、柔らかい風が吹いた。
含まれる湿気の量が多くて、肌が少しベタつく。

少し目を伏せたまま感覚だけで俺の方を向く翼の髪が、
その風でふわふわと揺らされてまるでアニメみたいだ。
はっきりした目鼻立ちも相まって、幻想的だった。

翼は、しばらく何も言わなくなってしまった。
ただ黙って手に持ったコップの中のソーダを退屈そうに
ボーッと見つめて、時折それを口の中に運ぶだけだ。

何かまずいことを言ってしまったような空気だった。
だから俺も何も言えなかった。ただ同じように黙って
デタラメに空なんか見上げたりして、星に意識を注ぐ。
翼
僕にはね。
瑞希
瑞希
ビクッ
コトンと、翼がコップを置いた。

そのコップに入っていたソーダは、
もうすっかり全て飲み干されていた。

翼は、真っ直ぐ俺の顔を見つめて。
ゆっくりゆっくり、言葉を紡いでいく。

あ、この子今すごく緊張してる。
そう伝わってきてしまうくらい。
翼
前世の記憶があるんだ。
瑞希
瑞希
…………前世…?
翼
僕は、ここに産まれる前は、韓国の…
真ん中より少し外れた場所に住んでた。
翼
公立の高校に通ってたんだ。
逆らえない先輩が一人いた。
瑞希
瑞希
…つ、翼…待って、本当の話?
翼
逆らえなかったのは、三年生の先輩。
すごくお金持ちで外面の良い人だった。
翼
僕の母の入院費を肩代わりしてくれてた。
だからその先輩の頼みは断れなかった。
瑞希
瑞希
僕の母って…母さん別に病気じゃ…
ザザザッ
瑞希
瑞希
…っ…?
頭に、ノイズがかかる。

奥の方がグッと痛くなってきて。
寒くもないのに、鳥肌がたち始める。
翼
その先輩には好きな人がいた。
同性が故に、本人には嫌われてた。
翼
加えて、先輩は愛情表現がとにかく
めちゃくちゃだった。愛を知らなかった。
瑞希
瑞希
つ、翼…。
翼
先輩の好きな人もまた恋をしてたんだ。
それもまた同性に。先輩は怒った。
翼
その好きな人とそいつを突き放してこい
と、先輩は僕に言った。僕は従った。
瑞希
瑞希
ま、…っ……
頭が、痛い。割れそう。

翼の話、普通なら信じないだろう話。
でも、その光景が容易に頭に浮かぶ。

まるで、俺もその場いたかのように。
翼
先輩は好きな人を家に閉じ込めた。
悪趣味な部屋だった。最悪だったよ。
……………なんか………知ってる。

子供部屋みたいなところだ。
本棚が扉になってた。小さい窓しか無かった。
翼
僕はその人を出してあげるって約束した。
その時はもちろん嘘だった。面倒だし。
……………………覚えてる。

結局来てくれる前に自分で出たから、
あんまりその約束、意味なかったんだけど。
翼
……僕は邪魔だった人を好きになった。
無理矢理抱いてもらったりもした。
…………そうだ、そうだった。

あの日だよね。俺が抜け出した日。
走って家に行ったら、何故かいたんだ。
翼
でもその人もだんだんおかしくなった。
だから、先輩の好きな人と逃げたんだ。
翼
全部、嫌だねって話して。
……うん、逃げたね。

全部置き去りにして、2人であの家に。
傷だらけの君の手を、しっかり握って。
翼
僕はその時ボロボロだったから、
その人が手当てしてくれたんだ。
…した。その子の家の治療箱で。

綺麗な顔だから、跡が残らないといいねって話して。
あの人変だよねって話しながら…誰だったっけ。
翼
でも僕は誘拐で警察に捕まってしまって。
結局その人を家に一人にしてしまった。
翼
僕はその人に恋に落ちていたから、
離れたくなくて、涙が出た。















……………。

















瑞希
瑞希
…俺も、沢山泣いたな。
離れたくなかったから。
翼
……!!!!
瑞希
瑞希
その後、少年院に入ってたね。
会いに行くのが遅くなって凹んだ。
翼
………そう、です。少し遠かった。
でも、貴方も別の場所に戻された。
瑞希
瑞希
うん。我慢出来なくて、抜け出したけど。
月が、ゆらゆらと揺れる。
丁度、今日のこの綺麗な月みたいな日だった。

隣の、弟が涙を流していた。
その顔はあの頃と何にも変わらない。

可愛くて、愛おしくて、大切なまま。
翼
でも、…っ…会いに来てくれました。
瑞希
瑞希
その後、またおいてっちゃったけど。
翼
ほんと、ですよ…っ…寂しかったです。
でも、僕にはやるべき事があったから。
瑞希
瑞希
うん。見てた。待ってたんだよ。
暖かくて、綺麗な海の浅瀬で。
翼
……っ…………ぅぅ……っ…




あぁ、俺はまた、一人にしてしまっていた。

こんなに愛おしくて、仕方がない人を。
この世界に、置き去りにしてしまっていた。

愛おしい人は、声を殺して泣いていた。
弱りきったみたいに、小さく縮こまって。
あの頃と何も変わらない、耐えてきた泣き方だ。

でももう、大丈夫だ。
俺はまた、君に出会うことが出来た。
神様はきっといる。

前世では仲良く出来なかったけど。
今世では、全部を思い出して一番に。
この子に会わせてくれる程度には。

まだ、マシになってると思う。








ボムギュ
ボムギュ
おはよう、テヒョナ。
テヒョン
テヒョン
おはようございます、ボムギュヒョン。

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