第6話

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2025/02/16 04:39 更新
夏へと本格的に入った八月、箱根学園自転車競技部の合宿の手伝いを無事に終えた結衣は文芸部で参加しようとしているコンクールに向けて書き上げた小説の最終調整を行っていた。誤字脱字や文の言い回しなどを確認し合い、顧問の確認を貰い無事にコンクールの募集に間に合わせることが出来た中旬。
そして迎えた自転車競技部が優勝を目指してキツイ練習に取り組んでいたインターハイの日を迎え、朝早くから会場には沢山の選手が集まっていた。
そんな中を掻き分けながら私立箱根学園のジャージを探している結衣は、合宿終わりに連絡先を交換した荒北から電話を貰っていた。
合宿後、お互いの目標に向かって過ごしていた二人はなかなか顔を見合わせることも無く、ただ交換したメールで近況を報告する日々を過ごしていた。
とある日の夜、自室で勉強をしていた結衣の携帯は着信を知らせ画面を見ると思ってもみなかった荒北からの電話に少し緊張しながらボタンを押した。
朝霞結衣 (あさか ゆい)
もしもし
荒北靖友
荒北靖友
おう、朝霞チャンか
朝霞結衣 (あさか ゆい)
はい、朝霞ですよ
荒北靖友
荒北靖友
あのさァ、インターハイの試合に見に来てくんねぇか?
朝霞結衣 (あさか ゆい)
インターハイって見に行っても良いんですか?
荒北靖友
荒北靖友
当たりめぇだろ、観客は毎年多いし
荒北靖友
荒北靖友
試合前にお前の顔を見ときたい、つーか
荒北靖友
荒北靖友
とにかく、絶対に来いよ!!
じゃあな!!!
朝霞結衣 (あさか ゆい)
あっ、荒北さん??
思い出すと何とも強引で勝手な誘いだと思うがそんな所が荒北らしくて結衣はクスッと笑みを浮かべた、漸く各学校ごとのテントが置かれている場所に辿り着きキョロキョロとしていると突然に肩を叩かれた。
朝霞結衣 (あさか ゆい)
っ!?
真波山岳
真波山岳
朝霞さん、応援に来てくれたんだね
朝霞結衣 (あさか ゆい)
真波くん、うん。
荒北さんに誘われて来てみたんだけど、箱根学園のテントが分からなくて
真波山岳
真波山岳
着いてきて
自転車を押しながら歩き出す真波の後ろを着いていくと、一つのテントの前に足を止め中を覗くと福富を始めとしたレギュラー陣が準備を進めていた。
福富寿一
福富寿一
朝霞か、朝早くから応援に来てくれてありがとう
朝霞結衣 (あさか ゆい)
いえ、皆さんの試合を見たくて来ちゃいました!
泉田塔一郎
泉田塔一郎
朝霞さん、今日は暑いから水分補給を忘れずにだよ
東堂尽八
東堂尽八
俺の活躍を見に来るなんて、ラッキーだよ君
朝霞結衣 (あさか ゆい)
あはは・・・
新開隼人
新開隼人
荒北なら、今外に出てるからもうすぐで帰ってくるぞ
朝霞結衣 (あさか ゆい)
そうなんですね、ありがとうございます
福富寿一
福富寿一
試合が始まるまで此処で待つといい
朝霞結衣 (あさか ゆい)
えーっと、邪魔になっちゃいますから
真波山岳
真波山岳
大丈夫だよ、朝霞さん。
寧ろ居てくれた方が助かるんだ
朝霞結衣 (あさか ゆい)
な、何で?
真波山岳
真波山岳
このピリピリした空気を和やかにしくれるのは君だけだからね
朝霞結衣 (あさか ゆい)
(はっ・・・)
朝霞結衣 (あさか ゆい)
(そうだ、皆さん試合前だから気が立ってるはず)
辺りを見回すと無心に自転車の点検をしている者や試合用のジャージを着て目を輝かせている者、それぞれの想いを胸にこのインターハイに臨んでいるんだと思うと「夢に向かって一生懸命な人達」なんだろうと思わされる。
この空気感は一度結衣も味わっている、目標は違っても何かに一生懸命に取り組む空気感は文芸部でも感じ取っていた。
朝霞結衣 (あさか ゆい)
(この空気感を二度も味わえるなんて・・・私は贅沢だなぁ)
そんな事を思いながら福富達の邪魔にならないように隅っこで待っていると、荒北がテントの中に入ると結衣を見付け大股で歩み寄ってきた、しかも眉間に皺を寄せた表情でだ。
朝霞結衣 (あさか ゆい)
(えっえ、何か怒ってる??)
荒北靖友
荒北靖友
よォ、朝霞チャン
朝霞結衣 (あさか ゆい)
お、おはようございます
荒北靖友
荒北靖友
ちょっと顔貸せや
朝霞結衣 (あさか ゆい)
(ひぃぃぃ)
朝霞結衣 (あさか ゆい)
私、真波くんと話す事がありましたー
荒北靖友
荒北靖友
逃がすかよ?
朝霞結衣 (あさか ゆい)
いやぁぁぁぁ、誰かぁぁぁぁ!!!
真波山岳
真波山岳
行ってらっしゃい〜
真波の所に逃げようとした結衣の首根っこを掴みズルズルと引き摺るようにテントを後にする荒北、悲痛な悲鳴を上げる結衣の助けを呼ぶ声は誰にも届かなかった。
各学校ごとのテントや人だかりから離れた場所に連れてこられた結衣、未だに表情が怖い荒北に何をされるのか分からなく肩を震わせながら言葉を待っていた。
すると首根っこを掴んでいた手が離れ自由にされた結衣は一歩離れて、荒北を見上げると片手を伸ばされた事に恐怖心を煽られた彼女は目を閉じて言葉を言い放った。
朝霞結衣 (あさか ゆい)
もう暴力は嫌ですが、煮るなり焼くなり好きにしてください!!
荒北靖友
荒北靖友
っ!?
荒北靖友
荒北靖友
ブッ、くははははっ
荒北靖友
荒北靖友
お前、煮るなり焼くなりって・・・んな事はしねーよ
朝霞結衣 (あさか ゆい)
じゃ、じゃあ何でそんなに怖い表情をしているのですか!?
荒北靖友
荒北靖友
あー、試合前になると感情が高ぶってよォ
荒北靖友
荒北靖友
オレが満面の笑みを浮かべたら気持ちわりぃだろ?
朝霞結衣 (あさか ゆい)
(それはそれで、怖い)
怒ってる訳じゃなかったと分かった結衣は肩の力を抜き、ホッとしていると荒北は一歩踏み出し華奢な身体を抱き締める。
朝霞結衣 (あさか ゆい)
ん"!?////
荒北靖友
荒北靖友
少し、このままで居させろ
朝霞結衣 (あさか ゆい)
これをしたくて呼んだんですか?
荒北靖友
荒北靖友
まぁ、お前の顔を見ると落ち着くしな
朝霞結衣 (あさか ゆい)
そ、そうですか////
優しく締め付けてくる逞しい腕の感触と鼻に香る荒北の匂いに胸がドキドキと鼓動を鳴らし始め、この緊張感が彼にも伝わればいいのにと思いながら背中に腕を回した。
抱き締めたのは二回目だが、どちらも嫌がられず寧ろ受け入れてくれる結衣の姿に愛おしさが募る荒北は目を閉じた。
どれぐらいこの状態で居たのか、数分が長く思えて身体を離す時は名残惜しさも胸に覚えた。
荒北靖友
荒北靖友
見とけよォ、オレたち箱根学園が優勝する時を
朝霞結衣 (あさか ゆい)
ちゃんと見届けますから
荒北の言葉にそう返事をすると、いつもの勝気な笑みを浮かべて髪を乱暴に撫でてくる手つきに結衣は願わずにはいられない。


「箱根学園が優勝しますように」


そして、荒北にとって最後となるインターハイの試合が始まるのだった。

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