第47話

特別なのは、お前だけ
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2025/10/05 04:45 更新
その夜、ベッドの上でスマホを見つめていた。
 何度も画面を開いては閉じ、ため息ばかりが増えていく。

 碧と心葉のあのやり取りが、頭の中でぐるぐるして離れなかった。

 ――「また一緒に頑張ろうな!」

 優しくて、あたたかくて。

 その声を、私も大好きなはずなのに。

 (……なんで、モヤモヤするんだろ)

悠翔くんの
 “ちゃんと言わなきゃ分からない” “頑張ろうな”
と言う言葉も。

(わかってる…でも、勇気が…)

 その瞬間、通知音が鳴った。
 ディスプレイに映る名前に、心臓が跳ねる。

『碧』

通話ボタンを押すと、いつもの明るい声が耳に届いた。

「美咲〜、寝てた?」

「……ううん」

「なんか声暗くね? 疲れた?」

 あっけらかんとした碧の声に、少しだけ救われる。
 でも、今日はどうしても黙っていられなかった。

「ねぇ、碧」

「ん?」

「……今日、心葉に言ってたでしょ。
『一緒に頑張ろうな』って」

「ああ、言ったな。なんか落ち込んでたからさ」

「……優しいね」 

「え?」

「誰にでも」

 口に出した瞬間、自分でも驚くほど小さな声だった。
 それでも、碧はすぐに気づく。

「……もしかして、ヤキモチ?」

「っ、違っ……!」

「はは、図星だ」 

「うるさい」

 布団を頭までかぶって、顔が熱くなる。
 電話越しなのに、彼の笑顔が浮かぶ気がした。

「美咲」

「なに」

「俺が誰にでも優しいのは、たぶん昔からだろ? 
 でも――ちゃんと特別なのはお前だけだよ」

「……え」


「今日も、心葉を励ましながら、心の中で思ってた。
 “美咲だったら、こんな時どう言うかな”って」

 胸がぎゅっと締めつけられる。
 照れくさいのに、泣きそうなくらい嬉しい。

「……そんなの、反則」

「じゃあ減点?」

「バカ」

 小さく笑って、頬を枕に埋めた。
 電話の向こうで碧も笑う。

「なぁ、美咲」

「ん?」

「ちゃんと会いたい。
 勉強ばっかで全然会えてないから」

「……うん。私も」

 しばらく沈黙が流れる。
 その静けさすら心地よくて、胸の奥がぽかぽかした。

「おやすみ、美咲」

「……おやすみ、碧」

 通話を切ったあとも、耳の奥に彼の声が残っていた。

 “特別なのはお前だけ”

 その言葉が、何度も何度も心の中でリピートされる。

 冬の夜は、いつもより少しだけあたたかかった。

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