夜の帳が下りる頃、街のシンボルである時計塔に、ひらりと影が舞い降りる。
髪をなびかせ、森亜るるかは手に持った高級カップアイスを銀のスプーンで掬った。彼女の胸元には、ネックレスとして小さくなったティアアルカナロッドがある。
るるかは無垢な瞳で、盗み出したばかりの宝石を見つめた。彼女にとって、正義も悪も関係ない。ただ、美味しいアイスクリームと、放課後の静かな時間が欲しかっただけ。
背後から響いた低い声に、るるかはゆっくりと振り返った。そこには、発明家が着るような白衣のポケットに手を突っ込み、不機嫌そうにキャンディを噛み砕く少年――ジェットが立っていた。
るるかは当然のように、食べかけのアイスを差し出した。
ジェットは溜息をつき、口の中のキャンディを転がした。彼は知っている。このミステリアスでクールな少女が、実はとてつもない天然で、自分の立場すら理解していないことを。
るるかは少しだけ頬を膨らませ、ジェットを見つめた。その視線に、ジェットは一瞬だけ言葉を詰まらせる。彼はプリキュアのサポート役として、この街を守る義務がある。だが、目の前の少女を「敵」として突き放すことなど、到底できなかった。
その時、時計塔の下で爆発音が響いた。ウソノワールが差し向けた怪物「ナゾラー」が暴れ始めたのだ。
ジェットは手元の端末を操作し、るるかの前に立ちはだかった。
るるかはアイスを一口飲み込むと、無造作にスプーンを置いた。彼女の心に、理由のない衝動が走る。ジェットを傷つけたくない。その想いが、彼女の中に眠る「アルカナ」の力を呼び覚ました。
漆黒の光が彼女を包み込む。
現れたのは、闇を纏いながらも気高く輝くプリキュア、キュアアルカナ・シャドウ。
絶句するジェットを余所に、彼女は華麗な身のこなしでナゾラーを圧倒していく。
事件を解決し、変身を解いたるるかは、少し眠そうにジェットの隣に戻ってきた。
ジェットは呆れ果てながらも、どこか安心したように新しいキャンディを口に放り込んだ。
ジェットはぶっきらぼうにるるかの頭を軽く叩くと、先に歩き出した。
月明かりの下、銀色のキャンディが転がる音と、スプーンがカップを叩く音。運命が狂い始めたことにも気づかず、二人の奇妙な関係は、この夜から幕を開けた。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。