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本当は、兄ちゃんが一番、夢見てたんだと思う。
幻想を抱いて、叶いもしない夢を手にしたいと、思っていた。
でも、たとえすべてを知ったとしても、逃げるという選択肢は有り得ないのは分かっていた。
なぜなら、君が、君だから
君が、あなた・あなたの名字だからーーー
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side Hange
「エレンの…声?」
「ああ。聞こえなかったかい?」
「…はい……」
暫く経って、あなたは目を覚ました。
腫れぼったい目はそのままで、まだ赤く充血していた。
荷馬車の修理をしながら、あなたと言葉を交わす。
どうやらあなたは、私達が聞こえたエレンの声が聞こえなかったらしい。
代わりに、お兄さんの言葉が聞こえてきたという。
「その…地鳴らしというのに、巻き込まれたのかもしれません。とにかく兄はもう、この世にはいないのかと」
ポツリと呟くあなたの声は悲しげで、ただ、涙が溢れていないけれど声は泣いているようだった。
「私達の……あなたの名字の血を受け継ぐ人は、私が最後だそうです。」
「お兄さんがそう言ったのか?」
「…はい。あと……」
続く言葉はなかなか聞こえてこなくて、思わず振り返った。木片を大きさごとに分けていたあなたの手が止まった。
「うん?」
「継承者…らしいです、私。」
「え?でも、違うって…」
「私もいまいちよくわかってないんですけど、王家に仕えていた時の人の生まれ変わり……?みたいな…」
「……えぇと…?」
「同じ血筋の人たちは、私がそれを知ることがないようにってしていたみたいです。ずっと、どこにいても、誰かに守られてるなんて、すごく贅沢ですよね」
あなた自身も、よくわかっていないことだろう。だからこそ、少し他人事のように聞こえる。
「お兄さんのことは無念だろうけど、まだそうと決まったわけじゃないから…」
「いえ…わかるんです。さっきは取り乱してしまいましたが、ここに、いるような気がするんです。」
あなたは自分の胸に手を当てて、そっと呟いた。
「それがなにより、兄がこの世にいないことを現しているように思います。……少し、心強いんです。これからはずっと一緒だと思うと。」
「そうか……うん、あなたのその表情が見れて良かった。」
とても穏やかな、笑みだった。
実際、複雑な心境にいるとは思う。だけど、嘘ではない本音がそこに隠されているのもまた事実だろう。
「私もーーあなたの名字に相応しい最強の盾になってみせます。」
あなたは手にした木片をすっと私に手渡す。
芯のあるあなたの瞳を久し振りに見た気がした。
「ーー頼もしいね、あなた。さあ、荷馬車を完成させてしまおう。」
あなたの更に後ろにいるリヴァイは、安心したように眠ったままだ。
苦楽を共にしてきた彼らとあとどれだけ一緒にいられるだろうか。
あなたの未来に、私もいるだろうか。
いれたらいい。心からそう思う。
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ーーー君だから
君がそう知ってしまったのであればきっと変わると思う
一度は逃げようとした弱い兄ちゃんとは違う
きっと、未来を手にする日が来る
悲しいことも、辛いことも、嬉しいことも、なんだってやってくる
だけど、あなたの描く未来を、
兄ちゃんは、応援する
強く願って
どれだけ離れていても、きっと大丈夫。
その願いは、なによりも力になるーーー
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!