第17話

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2025/08/02 12:03 更新














桑島
 帰ったぞ〜 

 玄関の引き戸が音を立てると同時に、桑島さんの
 声が屋敷中に響き
獪岳
 先生!おかえりなさい 

 という獪岳の健気な声も聞こえてきた。


 私も一応顔を出した方がいいのかと思ったのだが、
 肌着のまま出る訳にもいかず自分一人で着られる
 上、湯汲みをしたあとの清潔な体という点を活か
 して、たまにしか着ない外行きの洋服に着替える
 ことにした。

 袖を通したそのブラウスはやはり室内で着るには
 相応しくないようなつくりになっていて、これな
 ら肌着で出ていった方がマシなのではと思ってし
 まうくらいだった…



あなた
 …桑島さん、おかえりなさいませ 

 服装を隠すように顔をひょっこり覗かせる。そん
 な私に桑島さんは大層不思議そうな眼差しを向け
 てきた。

 一方で獪岳はというと、彼の方からだと私の服装
 は丸見えらしく、案の定嫌そうな表情を浮かべ私
 のガラスメンタルを容赦なく粉々にしてきた。
桑島
 獪岳にあなたも出迎えありがとな 
 …してあなた、お主はどうしてそ
 んな格好をしておるのじゃ?

 それに追い打ちをかけるように桑島さんが核心を
 突いてくる。私は返す言葉に困りつつも今説明し
 なきゃ今後の生活に支障が出ることは目に見えて
 いたため、何かに縋るように経緯を話す
あなた
 実は自分一人で着物を着たことがな 
 く、着方が分からないのです… 
 実家では使用人がいたものですから
 身の回りのことは任せっきりで…
あなた
 申し訳ございません、、 
桑島
 そうじゃったのか、むしろ配慮に 
 欠けていてすまなかったのう…
あなた
 いえ、桑島さんが謝られることでは 
 ありませんの…!私がいけないので
 すから
桑島
 まぁまぁそう言うでない!
 これから知っていけば良い話じゃ 

 そんな優しい言葉に粉々だったガラスのハートが
 くっついていくような気がした。
桑島
 しばらくの間、身の回りのことは 
 獪岳に頼るといい!

 前言撤回だ。
 オーバーキルもいいとこで獪岳によって砕かれた
 ガラスのハートは、桑島さんの言葉によって修復
 不可能レベルに破壊された。

 名指しされた獪岳は当然私と桑島さんの顔を交互
 に見てから、先ほどの百倍嫌な表情を浮かべてい
 た。恐らくここに桑島さんがいなかったら暴言と
 舌打ちのパレードだったろう…
あなた
 で、でも…獪岳さんは稽古や屋敷の 
 ことで手一杯では?
桑島
 そこはお主が心配することでない! 
 こんなことを同時にこなせないような
 軟弱者の弟子をとった覚えはないぞ
桑島
 獪岳、頼めるか? 
獪岳
 はい、先生!必ず先生の期待に応え 
 ます!

 私の遠回しの断りが一蹴されたと思ったら、事は
 あれよあれよと決まっていき、桑島さんに忠実な
 獪岳は二つ返事で了承した。

 夕飯のときに人に頼りすぎないと決めた私にとっ
 て、今回の件は矛盾甚だしい出来事ではあったが
 一人で生きていくという立派な事は、生活の基盤
 がある人の特権だ。

 この機会を逃したら次は善逸が来るまで時間が空
 いてしまう…それだけは避けたかった
あなた
 それはとても頼もしいですね。
 獪岳さん、今後とも宜しくお願い 
 いたします
獪岳
 ええ、わからないことがあったら 
 なんでも聞いてくださいね

 こうして裏の顔一つ知らず、仲睦まじいとでも言
 いたそうな桑島さんを前に、私たちは互いに愛
 想笑いの応酬を繰り広げた。

 私は無事に自立できるのだろうか……




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