玄関の引き戸が音を立てると同時に、桑島さんの
声が屋敷中に響き
という獪岳の健気な声も聞こえてきた。
私も一応顔を出した方がいいのかと思ったのだが、
肌着のまま出る訳にもいかず自分一人で着られる
上、湯汲みをしたあとの清潔な体という点を活か
して、たまにしか着ない外行きの洋服に着替える
ことにした。
袖を通したそのブラウスはやはり室内で着るには
相応しくないようなつくりになっていて、これな
ら肌着で出ていった方がマシなのではと思ってし
まうくらいだった…
服装を隠すように顔をひょっこり覗かせる。そん
な私に桑島さんは大層不思議そうな眼差しを向け
てきた。
一方で獪岳はというと、彼の方からだと私の服装
は丸見えらしく、案の定嫌そうな表情を浮かべ私
のガラスメンタルを容赦なく粉々にしてきた。
それに追い打ちをかけるように桑島さんが核心を
突いてくる。私は返す言葉に困りつつも今説明し
なきゃ今後の生活に支障が出ることは目に見えて
いたため、何かに縋るように経緯を話す
そんな優しい言葉に粉々だったガラスのハートが
くっついていくような気がした。
前言撤回だ。
オーバーキルもいいとこで獪岳によって砕かれた
ガラスのハートは、桑島さんの言葉によって修復
不可能レベルに破壊された。
名指しされた獪岳は当然私と桑島さんの顔を交互
に見てから、先ほどの百倍嫌な表情を浮かべてい
た。恐らくここに桑島さんがいなかったら暴言と
舌打ちのパレードだったろう…
私の遠回しの断りが一蹴されたと思ったら、事は
あれよあれよと決まっていき、桑島さんに忠実な
獪岳は二つ返事で了承した。
夕飯のときに人に頼りすぎないと決めた私にとっ
て、今回の件は矛盾甚だしい出来事ではあったが
一人で生きていくという立派な事は、生活の基盤
がある人の特権だ。
この機会を逃したら次は善逸が来るまで時間が空
いてしまう…それだけは避けたかった
こうして裏の顔一つ知らず、仲睦まじいとでも言
いたそうな桑島さんを前に、私たちは互いに愛
想笑いの応酬を繰り広げた。
私は無事に自立できるのだろうか……













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!