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第1話

'01
70
2026/03/01 14:04 更新
あなたs.




























 東京の夜は、いつも少しだけ明るすぎる。


















 窓の外に広がる灯りの海を、










 私はぼんやりと眺めていた。






















 高層階の部屋。磨き上げられた床。整いすぎた空気。

 




















 ここで過ごす夜にも、もうすっかり慣れたはずなのに。
























 それでも、時々。













 胸の奥に、名前のつかない余白が落ちる。







































 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
 … あなた 

























































 低く呼ばれて、肩がわずかに揺れた。




















 振り返ると、ソファに腰を下ろした鉄朗くんが、












 こちらを見ていた。


























 ネクタイはすでに外され、










 シャツの第一ボタンが緩んでいる。












 仕事終わり特有の、少しだけ気の抜けた大人の空気。



























 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
 そんなとこで突っ立っ 
  てると風邪ひくぞ 〜
(なまえ)
あなた
 ひいてないよ 、 まだ 






































 小さく笑って答えると、鉄朗くんは肩をすくめた。






























 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
    まだって予防線張る 
 あたりが 、 もう怪しい 
 











































 揶揄うような口調。












 けれど視線だけは、いつもより少しだけ柔らかい。



















 —— この人は、ずるい。
















 踏み込みすぎない距離で、きちんとそばにいる。













 初めて会った夜から、ずっと。



























 芸能関係者の集まるパーティーだった。

















 人の多さに少し疲れて、









 壁際でグラスを持て余していたとき。








































 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
 テレビより 、 実物の方がいいっすね 


























 軽い第一声。











 けれど、目だけが全く笑っていなかった。

















 あの時から、もう。










 この人は、きっと本気だったのだと思う。

















































 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
 … 何考えてんの  ? 































 いつの間にか、すぐ傍に来ていた。













 鉄朗くんの指先が、私の髪に触れる。














 整えるような、確かめるような、静かな仕草。





























(なまえ)
あなた
 … 別に 
 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
 嘘つけ 










































 低く笑ってから、不意にそのまま引き寄せられる。





















 背中に回された腕は、強すぎないのに逃げ場がない。


































 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
 今日 、 やけにぼ ー っとしてる 
(なまえ)
あなた
 してないよ 
 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
 してる 




































 言い切る声は、穏やかなのに揺るがない。












 こういうところが、少しだけ苦手で。



















 —— 少しだけ、安心する。




































































 付き合って、二年半。












 外では、並んで歩くことも、ほとんどない。


















 もし出かけるとしても、私は必ず変装をするし、










 鉄朗くんは人目のある場所では一定の距離を守る。

















 完璧な、大人の恋。

















 何一つ、不満なんてないはずなのに。










































 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
 … ねぇ 









































 耳元で、低い声が落ちた。

















 首筋に触れる吐息が、さっきよりも近い。











































 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
 分かってるけどさ … 

































 肩口に額を預けたまま、鉄朗くんは小さく息を吐く。



































 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
 今日の番組見た 。  
(なまえ)
あなた
 … 仕事でしょ 
 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
 … うん 。 仕事 。 分かってる 
 

































 肯定は、やけに素直だった。














 その分だけ、声の温度が低い。
































 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
   分かってるよ 。 あれがあなたの 
 仕事で 、 ああやって笑うのも全部 
  ちゃんと意味があるってこと









































 指先が、髪を梳く。











 優しいのに、逃がさない触れ方。


























 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
    分かってるけど 、 ああやって 
 何百人の前で笑ってんの見るとさ 
 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
 俺の彼女可愛すぎるだろって思うわけ 
 

































 初めて聞く種類の声だった。













 鉄朗くんは、滅多に弱音を混ぜない。

































 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
 国民的女優とか 、 好き勝手言われて 
 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
 国民の前に 、 俺のだろって思うわけ    
































 どくん、と胸が鳴る。














 背中に回された腕が、ほんの少しだけ強くなる。
































(なまえ)
あなた
 … 鉄朗くん 
 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
 俺だけのあなたなのに 。  





































 ほとんど、息みたいな声。










 ふざけも、余裕も、もう混じっていない。














 静かに、まっすぐに、重い。





























 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
 … なぁ 、  



























 耳元で、もう一度。

























 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
 分かってるけどさ 、  
 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
   俺の彼女 、 って周りに
 言えねぇのが一番むかつく 












































 低く、確かに落とされた本音。










 飾らない、ただの独占欲。














 息が、止まった。
















 数秒遅れて、鉄朗くんは小さく息を吐く。


































 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
 …… 悪い 。 今の忘れて 
 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
 完全に 、 余裕ない男の愚痴 
(なまえ)
あなた
 … 忘れないよ 
 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
 ほんと 、 そういうとこ律儀 
(なまえ)
あなた
 鉄朗くんが言ったんでしょ 
 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
 そうだけど 






































 一度、言葉が切れる。














 そして、いつもよりほんの少し低い声で。



































 黒 尾 鉄 朗
 黒 尾 鉄 朗
 … 分かってて我慢してんの 、 俺だから   














































 胸の奥が、静かに、深く揺れた。

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