学校を飛び出してあてもなく走っていると急に雨が降り出してきた。
もちろん傘などもっているわけもなく、どんどん服が濡れていく。
でもそんなこと今はどうでもよかった。
自分が高見沢くんにしたことを思い出して唇を噛む。
彼はただ心配してくれていただけ。それなのに私はその気持ちを無下にしてしまった。
男の人というだけで自分が大嫌いな父親と重ねてしまった。高見沢くんとあの人は全然違うのに……
謝らないといけない。そう思っても行動に移す勇気がない。
結局私は何も変わってない。高校生になって少しは変われたと思っていた。嫌いな自分を少しは好きになれたと思っていたのに。
そんなものただの錯覚だった。
高見沢くんのおかげで自分が変わったと錯覚していた。
「私は、私が嫌い。」
口に出してしまったその言葉はもう取り消すことはできなくて。
だけど涙は出なかった。それはきっと私が私に失望してしまったから。涙を流す資格なんてないから。
雨が私の気持ちを代弁するように激しく地面に打ちつけられていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!