第1話「気づいたら、空が二つあった。」
放課後の教室は、夕焼けに溶けるような光で満たされていた。
机に頬をつけたまま、りとはぼんやりとスマホの画面を見つめている。
「……あと30分でイベント終わる……!」
心臓がどきどきしていた。
ゲームの中では、仲間たちが魔物と戦っている。だが、現実のりとはただの高校生。テスト、部活、そして日常の中のほんの少しの自由が“原神”の時間だった。
指をスライドして祈願ボタンを押す。
金色の光が画面いっぱいに広がった——その瞬間、世界がふっと暗転した。
「……え?」
耳がきーんと鳴る。
風の音。鳥のさえずり。
顔にあたる冷たい空気。
目を開けたとき、そこには広がる青空と、二つの太陽のような光。
足元の草が風にそよぎ、遠くに湖と街並みが見える。
「……モンド……?」
思わずつぶやいた。
でも、それはゲームの中の風景じゃなかった。
風がリアルに肌を刺すし、草の匂いまで感じる。
まるで——本当にこの世界に“落ちた”ような感覚。
「ねぇ、パイモン。あそこに誰かいる!」
明るい声がして、丘の上から誰かが駆けてくる。
白い髪の少年と、小さな浮遊する少女。
「もしかして、また別の世界から来た旅人?」
「わわっ! ほんとに!? 空(そら)、どうするの!?」
りとは混乱して立ち上がる。
「……俺、本当に……原神の世界に……?」
ポケットの中のスマホを取り出すと、画面は真っ暗。
その中央にだけ、金色の文字が浮かんでいた。
> 『ログイン完了。テイワットへようこそ。』
風が吹き抜け、背中に何かがぶつかる。
落ちてきたのは、一冊のノート。
表紙には古代文字のような金の文字が刻まれている。
> 「旅人候補:りと」
「……旅人……候補?」
目の前の空とパイモンがゆっくりと近づいてくる。
空が手を差し出し、やさしく微笑んだ。
「ようこそ、テイワットへ。」
その一言で、りとの現実が静かに崩れ落ちていった。
風神の都の鐘が鳴り響く。
——りとの“旅”が、今、始まった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!