前の話
一覧へ
次の話

第1話

気づいたら、空が二つあった
12
2025/10/19 05:26 更新
第1話「気づいたら、空が二つあった。」

 放課後の教室は、夕焼けに溶けるような光で満たされていた。
 机に頬をつけたまま、りとはぼんやりとスマホの画面を見つめている。

 「……あと30分でイベント終わる……!」
 心臓がどきどきしていた。
 ゲームの中では、仲間たちが魔物と戦っている。だが、現実のりとはただの高校生。テスト、部活、そして日常の中のほんの少しの自由が“原神”の時間だった。

 指をスライドして祈願ボタンを押す。
 金色の光が画面いっぱいに広がった——その瞬間、世界がふっと暗転した。

 「……え?」

 耳がきーんと鳴る。
 風の音。鳥のさえずり。
 顔にあたる冷たい空気。

 目を開けたとき、そこには広がる青空と、二つの太陽のような光。
 足元の草が風にそよぎ、遠くに湖と街並みが見える。

 「……モンド……?」

 思わずつぶやいた。
 でも、それはゲームの中の風景じゃなかった。
 風がリアルに肌を刺すし、草の匂いまで感じる。
 まるで——本当にこの世界に“落ちた”ような感覚。

 「ねぇ、パイモン。あそこに誰かいる!」
 明るい声がして、丘の上から誰かが駆けてくる。
 白い髪の少年と、小さな浮遊する少女。

 「もしかして、また別の世界から来た旅人?」
 「わわっ! ほんとに!? 空(そら)、どうするの!?」

 りとは混乱して立ち上がる。
 「……俺、本当に……原神の世界に……?」

 ポケットの中のスマホを取り出すと、画面は真っ暗。
 その中央にだけ、金色の文字が浮かんでいた。

 > 『ログイン完了。テイワットへようこそ。』

 風が吹き抜け、背中に何かがぶつかる。
 落ちてきたのは、一冊のノート。
 表紙には古代文字のような金の文字が刻まれている。

 > 「旅人候補:りと」

 「……旅人……候補?」

 目の前の空とパイモンがゆっくりと近づいてくる。
 空が手を差し出し、やさしく微笑んだ。

 「ようこそ、テイワットへ。」

 その一言で、りとの現実が静かに崩れ落ちていった。
 風神の都の鐘が鳴り響く。
 ——りとの“旅”が、今、始まった。

プリ小説オーディオドラマ