「ヒョンジナ、聞いてる?」
『ん?何だったっけ、もう一回』
ヒョンジンはスマホの画面を見ていることが多い。
最近の話ではない。
ヒョンジンと私が付き合い始めたのは1年前。ヒョンジンを知ったのは3年前。
“しっかり者”、“堅実”、“倹約家”が3年前までの周りからの評価だった。
ふとしたキッカケからアイドルをしていた彼と出会って、夜職や他のかけもちをしてもお金が足りないほど貢いだ。
ハイタッチ会やサイン会などのオフイベにも必ずと行っていい程、顔を出していたので、太客としてネットにも少し取り上げられ、彼への承認欲求は日に日に溜まっていった。
そんなとき、幸運が訪れた。
ヒョンジンからオタ活専用のインスタアカウントからDMをされ、トントン拍子で交際が決まった。
交際直後は、極秘ではあったが夢のような時間の連続。
ときめいた回数なんかは数え切れない。
半年程経過したときから、想いが私の一方通行になった。
やけにスマホを見つめている時間が多くなったのも、その少しあとくらいだったと思う。
異変は感じていたものの、指摘した後の反応が恐怖で言い出せないまま、今に至る。
「そこまで大した話でもなかったから大丈夫」
「そういえばお風呂湧いてるけど、入ってく?」
ヒョンジンと私は同居はしていない。
ディスパッチの心配は勿論のこと、本人曰く‘あなたの家もメンバーとの寮も好きだから、両立したい’とのことらしい。
私の家に来るのは、日帰りで1ヶ月に1回ほど。昔と比べたら少なくなったほうだ。
カムバ後の長期休みには泊まりだってしていた。
『そうしよっかな。あ、お風呂上がったら送迎車で帰るね』
「今日も早いね、お風呂だけでもゆっくりしていって」
ヒョンジンとの時間が減っていくこと、ヒョンジンからの愛情表現が少なくなっていくこと、それらの悩みの種は時間が解決してくれると信じたい。いや、私がヒョンジンを信じないといけないのかもしれない。
そう懸念する理由—、
たった1つの理由。
『ありがとう、あなた。じゃあ、いい子でね』
浴室や洗面所の方に行くヒョンジンに手を降って、ヒョンジンが座っていたソファに腰掛ける。
ふと側に目線をやると、ヒョンジンのスマホが置かれている。向きは画面が見える状態。
普段ヒョンジンは自分の居る空間にスマホを持っていく癖のようなものがある。
無論、お風呂の際も洗面所まで持っていく。
今日は気でも抜けていたのだろうか、そう自分の中で結論づけたその時だった。
ピロン♪
軽やかな通知音が鳴った。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!