そう呟いた彼女の目には、
俺以上に光がなかった。
やっぱり俺は浅はかだったのかもしれない、と思う。
それ程に彼女の瞳は喜怒哀楽を映しておらず、
あまりに退廃的な様相を呈していた。
俺が死のうとしていたのが馬鹿馬鹿しくなるぐらい、
彼女は俺以上に痛みを感じているように
見えてならなかった。
俺が高校生の時は、こんなのじゃなかった。
同級生と、メンバーと馬鹿騒ぎして
はしゃいで遊んで、たくさんの夢を抱えていた。
けれど、彼女にはそんな青春の雰囲気は微塵もなくて。
何が彼女をそうさせたのか。
......そして、俺はいつの間に
あの頃の感情を見失ってしまったのか。
ふと考え込んでしまっていた俺に
彼女はそう声を掛ける。
彼女は残念そうにそう呟いた。
その表情からは、
家に帰りたい、友達と会いたい、といった
高校生らしい感情は少しも見受けられなかった。
そのぶっきらぼうな言葉で理解した。
彼女は孤独なのだ。
彼女の心はきっと、
俺なんかとは比べ物にならないほど、
ずっと暗くて深い、深海みたいな場所に居る。
俺は、そんな彼女に
この短い時間で興味を持っていたのかもしれない。
或いは、彼女の昏い瞳に惹かれていたのか。
とにかく、俺は普通ならしないような
今思えば随分気の狂った発言をした。
誘拐犯が何を言っているのだろうか、といった感じだが、
彼女はあっけなく首を縦に振った。
こうして、俺と彼女の
奇妙な共同生活は幕を開けた。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!