第4話

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2026/01/22 11:58 更新















  高嶺家の朝は 、規則正しく 、静かだった 。



  長い歴史の中で培われた生活のリズムは 、
  誰かの感情ひとつで乱れることはない 。

  それが 、名家というものだ 。





  朝の光がカーテン越しに差し込み 、
  控えめなノックが響く 。







執事
 あなた様 。
 お目覚めのお時間でございます 
 …… ええ 。ありがとう 、橘 












  静かな声 。
  寝起きであっても 、乱れはない 。



  ベッドから身を起こし 、窓辺に立つ 。






  整えられた庭 。


  昨夜と同じ景色のはずなのに 、
  胸の奥だけが 、まだ落ち着いていなかった 。









 …… あの音楽も 、…… あの距離も …… 






  思い出そうとする前に 、
  ゆっくりと首を振る 。



  ——考えるべきではない 。
  高嶺家の娘として 。
















  朝食の席には 、
  すでに両親が揃っていた 。






お父様
 おはよう 、あなた 




  低く 、穏やかな声 。
  威厳はあるが 、冷たさはない 。








お母様
 よく眠れた ? 





  柔らかな微笑み 。
  だが 、その目はよく見ている 。









 ええ 。おかげさまで 



  席に着き 、
  背筋を正す 。


  カトラリーの音だけが 、
  静かに響く 。








お母様
 …… 夜会 、お疲れ様 。 
 ありがとうございます 、お母様 
お父様
 問題はなかったか 
 はい 。大きな混乱は 
















  —— 言葉を選んだ 。





  そのわずかな間を 、
  お母様は見逃さなかった 。








お母様
 “ 大きな ” ということは 、 
 少しはあったのね 
 …… 個性的な方々が 、
 沢山いらっしゃいました 。 
お父様
 ほう 
お母様
 例えば ? 
 …… 大森家のご子息 
お父様
 名前を挙げたな 
 …… はい 
お母様
 あなた 







  優しい声 。
  だが 、逃げ道はない 。




お母様
 心が動いたの ? 











  あなたは 、
  すぐには答えなかった 。





  —— 正しく答えなければならない 。




 …… 分かりません 。 
お父様
 それでいい 
お父様
 高嶺の娘は 、
 誰かに急いで心を預ける必要はない 
お母様
 でも 、心が動くこと自体を 、 
 否定しなくていいのよ 



 … お母様 ? 
お母様
 恋は 、愚かなものよ 。 
お母様
 でも 、それを抱えたまま
 立っていられる人だけが 、 
お母様
 貴族になれる 






  あなたは 、
  胸の奥が 、静かに熱を持つのを感じた 。













  同じ頃 。






 …… あなた様 












  名前を呼ぶだけで 、
  喉が詰まる 。





  昨夜のダンス 。


  あの距離 。


  あの視線 。











 …… 近づきすぎた 
 …… それでも 、離れたくない 。 






  音楽よりも 、
  その想いの方が 、
  ずっと頭から離れなかった 。


















 あなた様 、かぁ …… 







  ソファに沈み込み 、
  指先で空をなぞる 。






 ちゃんと怒られるの 、久しぶりだな 



  楽しかった 。
  怖かった 。
  でも 。








 …… 見捨てられない 



  それだけで 、
  執着は深くなっていく 。





























 あなた様 、ね 。 





  湯気の立つ紅茶を前に 、
  静かに呟く 。









 あの距離感は …… 特別だね 






 僕 、…… 待つのは得意だから 











  柔らかな声の奥で 、
  確かな意思が固まっていた 。



























執事
 あなた様 
 橘 。風が心地よいですわね 。 







執事
 …… 昨夜の件ですが 
 ええ 
執事
 三名とも …… 
 簡単なご関係では終わらぬかと 
 存じております 
 ですが 






  歩みを止め 、
  真っ直ぐ前を見る 。





 恋をなさることまで 、
 咎めるつもりはありません 
 ただし 
 高嶺家と 、
 私自身を乱す行為は —— 許しません 
































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