死ネタ 長いです
up side
いつも通りの日曜日の昼下がり
きっとltの部屋からは花壇に咲くパンジーが見えるだろうなと思いつつ315号室をノックする。
返事を聞いて入ると、いつも通りのltの姿が見えた
羊羹1本ですっかり笑顔になるltが愛おしい
他愛もない話をしつつ、ゆったり時は過ぎていく
直接は聞けないけどやっぱり、病状は良くないらしい。
様子の節々から伝わってくる疲労がなんだか移った様だった
日がゆっくりと暮れ始める
面会時間の終了まであと5分。
いつも通りに別れて、家に帰ろうと思った
いつも通りに小さく手を振って
エレベーターに乗って1階へ降りて。
最早当たり前になった帰り際の行動が、ltの言葉で止まった
頭が真っ白になる
未だ概要が分かっていない俺にltは淡々と伝え続ける
後2ヶ月しかないと。
昨日ltも始めて知ったと。
もう家に帰れないかもしれないと。
2ヶ月。突然の別れではないが、気持ちの整理にはあまりにも短すぎる時間しかltには残されていなかった。
lt side
いつも通りに返事をしてみる。
でもやっぱりいつも通りにはできなくて少し語尾が震えた
見上げるといつも通りの貴方。
あんまり落ち込んでいないようで安心した
あまり明るくても悲しかったけど。
気まずい沈黙の時間が続く
申し訳ないと思ってる。
わざと帰り際に伝えたのは私。
どんな言葉を言われても受け入れる覚悟はしている。
―沈黙を破ったのはupだった。
正直、思ってもいなかった言葉だった。
あんなに狡い私でいいのか
傷つけるだけ傷つけて、死んでお別れなんてことにならないだろうか
何より、upに甘えたくない
それでも頭のなかで喜んでる私がいて、思わず頷いていた。
4月5日
あれから毎日315号室に通っている
今日は桜の写真を持ってきた
ltの通っていた学校の木。
嬉しそうに笑うltはとても綺麗だった
4月10日
今日は新クラスの写真をltに見せた
ltと仲が良かった人もいて、なんだか嬉しそうだった
4月18日
週末に行った海の写真と動画を見せた
よく一緒に遊びに行ったねと言うと、
と少し膨れてしまった。
左手の管が段々増えていっている
4月29日
GWは旅行に行くと伝えると、少し淋しげに
と言っていた。
心苦しくなって、更に行くのが憂鬱になった
5月6日
旅行のお土産をltに渡した
ltが好きな猫のマスコットと、特産品のお菓子
ltは
なんて言っていた。冗談じゃない
5月17日
余命まで後2週間。
段々細くなる腕や、やつれていく顔を見ると
もう長くないんだなと痛感させられる。
まだはっきり言えてないことがあるのに
5月18日
ltがICUに入った
急にltの余命が現実味を帯びてくる
今までの絶望は何だったんだろう
5月20日
ltとようやく会えた。
なんて笑っていたけど、ltはもう自分の死を受け入れている
ltはますます綺麗になっていく
5月22日
ltに思いきってどんどん綺麗になってくね、と言うと、
と言った。
今日も伝えたい言葉は言えなかった
5月27日
今日は久しぶりにltに写真を持っていけた
去年一緒に見た夜空を、今年は病室で。
後何回こうしていられるんだろうか。
5月30日
言えないままここまで来てしまった
心無しかいつもより空気が重い。
他愛もない話をいつも通りして、面会時間が終わった
ltの余命まで後1日
5月31日
学校で授業を受けた
家に帰った
家族が騒いでいた
それだけでltの死を理解できた俺の察しの良さに、酷く腹が立った
結局最期まで言えないままだった。
棺の中で見たltは女神のように綺麗で
でももうその躰に魂はないと分かる空っぽな存在だった
ltと猫のマスコットが燃やされていく
そんなときですら涙が出ない俺に、酷く腹が立った
未だ俺は外に出れていない
やっぱりltともう会えないという事実が心を蝕んでいく
朝起きて、ltのことを考える
ご飯を食べつつ、桜の写真を思い出す
部屋に籠もって、死後の世界の妄想をする
そんな日々が終わったのは快晴の日だった
朝起きると、机の上に2枚の紙が置いてあった
1つは親からの連絡
2つ目はltからの手紙だった
突然のことに思考が追いつかない
それでもltの好きな猫の柄のレターセット
誕生日プレゼントに贈ったガラスペンのインク
それら全てからこの手紙はltからのものだと嫌になるほど理解してしまった
震える手で中身を読む
upへ
これを読んでるってことはもう私は死んでます。知ってると思うけど。
本題、今落ち込んでるはずのupへ
いつもありがとう。色んな写真、動画や面白い話をしてくれて。この2ヶ月と少しで大切な物が沢山増えました。
迷惑かけてごめん。わざわざ毎日来てくれて、好きなものとか猫柄のものとか持ってきさせちゃって。でも、私はupがそこまで私の事を好いてくれてることが何より嬉しかったです
だから、あんまり落ち込まないでね
私はもう死を受け入れているし怖くないけど、
upを置いて逝くのが1番の心残りです。毎日upが帰った後にもし今日の夜死んだらupはどうなるのかな、って不安でした
でも、これを読んでるってことはupは少しずつ前をむけていて、悲しみを乗り越える準備ができているはずです。
だからさ、私のことは忘れて欲しいです。私の死がupの傷になって欲しくないんです。
でもやっぱり、言えなかったことだけは言わせて下さい
大好き。ありがとう。またね。
ltより
ltが遺した言葉が見えなくなっていく
少し右上がりの癖のある丸い字。端に書かれた俺のイラスト。その全てが愛おしかった
便箋とインクの色の区別がつかなくなって、始めて今、泣いていることに気付く。
じんわり温かい言葉と抱えきれない喪失感がごちゃ混ぜになって、気付けば泣きつかれて寝てしまっていた。
6月5日
ltとのツーショットに手を合わせて学校に行く
ltのお願いを1つ破ることになってしまうけど、きっと許してくれるだろう。
今日もltに言えなかった言葉が伝わっていますように
今日も天国に花が届く
水色の花がずっと舞い降りてくる
やっぱり忘れてくれなかったけど、愛しい彼のことなら許してしまう
後何十年かかるかな、
そんな小さい問は、初夏の風のなかに優しく溶けて消えた














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。