昼、目が覚めるとお兄さんが目と鼻の先にいた。
お兄さんはふっと笑って俺の頭を撫でる。
俺に背を向け出ていこうとしたお兄さんがふと振り返る。
お兄さんのインナーが赤だったから、とかは、
今の俺には言えなかった。
お兄さんが辺りをきょろきょろとしている間に、
俺も棚を見上げる。
見たこともないような数の靴が、俺の視界に飛び込む。
お兄さんと出会ってから、俺は沢山の”初めて”を経験した。
温かいコーヒー缶。
カップラーメン。
靴屋。
…1人じゃない夜。
お兄さんと出会えて。
そんなことを独りごちていると、
手に一足の靴を持ったお兄さんが話しかけてくる。
その靴は黒色でありながら、
横に赤とピンクのラインが入っていた。
じっとそれを見つめる俺に、可笑しそうに話すお兄さん。
レジの方へ向かっていったお兄さんを見送り、
近くにあった椅子にぼふっと腰掛ける。
俺の足元は、ぶかぶかなサンダル。
相変わらず履きにくいけど、これはこれで結構気に入っていた。
そんなことを考えながら足をぶらぶらさせていると、
お兄さんが帰ってくる。
差し出された一足の靴。
又もやじっとそれを見つめていると、上から声が降ってくる。
どう解釈されたのか分からないが、
お兄さんは俺の足元に跪いてゆっくりとサンダルに手をかける。
お兄さんの手つきは何処までも優しくて、
壊れ物を扱うかのようだった。
何となく名前だけ聞いたことはあるものの、
詳しくは分からなかったため首を縦に振った。
あちゃーなんて言ってから俺の靴を履かせ終わると、
すくっと立ち上がって手を差し伸べてくる。
何だか気恥ずかしくなって、
お兄さんの手を引っ張る形で歩いていく。
繋がれた右手は変わらず温かく、
後ろから聞こえてくる笑い声が、俺を包んだ。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。