雷side
なぜ俺は…なぜこの男におにぎりを買ってきたのだろう。
なぜ食わせた?なぜあのとき引き留めた?
…少し、声が“推し”に似ていたからだろうか。
そうだ。
最近俺は推しができたんだ。
口が悪くて、態度もデカくて…
でも、リスナー達のコメントは実はちゃんと見ているし根は優しいとライバー達からも声が上がっている。
そんな“あなた”に、こいつは…
…そういえば、名前が一緒だ。
今じゃ“あなた”という名前は少し珍しいかもしれない。
現代では少しキラキラネームのほうが通りやすいのかもしれない。
すると昆布おにぎりを食べ終わった円堂が「あの〜…」と声をかけてきた。
短く返事を返せば、円堂はなぜか慌てたように「アッ、や、そうっすよね!今流行ってるし…」と早口になった。
そう言って目が点になる円堂を見て、やはり少しライバー“あなた”に似ていると思ってしまう。
俺は円堂の目の前にあるおにぎりを一つ取り、袋を破いてまた差し出す。
円堂は「えぇ〜……」と言いながらしぶしぶ受け取り、おにぎりを食んだ。
何を考えているのか分からない表情で、口を動かしている。
俺はそんなことを考え、円堂を見つめながらふと疑問に思っていたことを聞いていた。
この前ある講義の前に、教室の端っこで折り紙を折っていたことを思い出す。
円堂は「なんで見てるんすか…」と言わんばかりに滝汗を流している。
円堂は「あ〜〜えっとぉ……」と何か言い訳を探しているようだったが、何もなく諦めて白状した。
こんなに質問攻めされるとは思っていなかったのだろうか。
目があちこちに泳いでいる。
なぜ疑問形なんだ。
俺は黙ってそれを聞いていると、沈黙に耐えられなくなったのか残りのおにぎりを口に詰め込んだ。
円堂がお茶で米を流し込むと、円堂のスマホから「ピピピ」とアラームが鳴った。
俺は残りのおにぎりを袋に戻し、円堂に渡す。
俺はあれだけを言い残し、教室から出た。
そして気づけば家に辿り着いており、俺は自分の部屋の机に突っ伏していた。
ぶつかられて、キーホルダーを拾って渡して。
「礼を忘れていた」と言われ、引き留めて。
なぜか自分からあの教室に行き、おにぎりを食わせた。
あの酷い隈と細い腕からまともな生活はしていないというのは見て取れた。
俺はここで考えるのをやめた。
何にしろ、今まで関わりのなかった円堂のことを俺はなぜか気に入っているらしい。
どこでそう感じたのかは全く分からんが。
するとスマホからポコンと通知が。
▷ あなたが配信を始めました。「ゴミ溜り配信:KA…」
俺の推しが配信を始めたようだ。
しかも今日はツクヨミでの「KASSEN」配信。
あの自由で楽しそうなあなたが見られると思うと、スマコンを探す手が少し早まる。
ふとあの男のことを思い出す。
しかしスマコンに手が当たると、少しの気の迷いもすぐに消え去ってしまった。
『_____太陽が沈んで、夜がやってきます』












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!