第7話

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2026/02/28 07:00 更新





 雷side

なぜ俺は…なぜこの男におにぎりを買ってきたのだろう。
なぜ食わせた?なぜあのとき引き留めた?
駒沢 雷
駒沢 雷
(なぜ…?)

…少し、声が“推し”に似ていたからだろうか。


そうだ。
最近俺は推しができたんだ。
口が悪くて、態度もデカくて…
でも、リスナー達のコメントは実はちゃんと見ているし根は優しいとライバー達からも声が上がっている。
そんな“あなた”に、こいつは…
駒沢 雷
駒沢 雷
(少し…似ている。)

…そういえば、名前が一緒だ。
今じゃ“あなた”という名前は少し珍しいかもしれない。
現代では少しキラキラネームのほうが通りやすいのかもしれない。


すると昆布おにぎりを食べ終わった円堂が「あの〜…」と声をかけてきた。
駒沢 雷
駒沢 雷
なんだ。
あなた
…駒沢さんって、以外と…ツクヨミとか見たりするんですね…?
駒沢 雷
駒沢 雷
…まぁ多少な。

短く返事を返せば、円堂はなぜか慌てたように「アッ、や、そうっすよね!今流行ってるし…」と早口になった。
駒沢 雷
駒沢 雷
なぜそんな事を聞く。
あなた
いやえっと…昨日俺が持ってたアクスタ見て「乃依ちゃん」だって分かってたぽいから…デス
駒沢 雷
駒沢 雷
…ちゃんと人の話を聞いていたんだな。
あなた
…え。俺今めっちゃ馬鹿にされてる?

そう言って目が点になる円堂を見て、やはり少しライバー“あなた”に似ていると思ってしまう。
俺は円堂の目の前にあるおにぎりを一つ取り、袋を破いてまた差し出す。
駒沢 雷
駒沢 雷
もう少し食え。
あなた
え、いやもう十分食べ___
駒沢 雷
駒沢 雷
腕を掴んだとき、骨過ぎて折れるかと思った。2つくらいは食え。

円堂は「えぇ〜……」と言いながらしぶしぶ受け取り、おにぎりを食んだ。
何を考えているのか分からない表情で、口を動かしている。
駒沢 雷
駒沢 雷
(……乃依よりもデカいが乃依のほうが重そうだな。)







俺はそんなことを考え、円堂を見つめながらふと疑問に思っていたことを聞いていた。
駒沢 雷
駒沢 雷
…お前は、鶴を折るのが好きなのか。

この前ある講義の前に、教室の端っこで折り紙を折っていたことを思い出す。
円堂は「なんで見てるんすか…」と言わんばかりに滝汗を流している。
あなた
な、なななんでそんなとこ見てるんすか…
駒沢 雷
駒沢 雷
珍しいだろ、大学に折り紙持ってきてる奴。

円堂は「あ〜〜えっとぉ……」と何か言い訳を探しているようだったが、何もなく諦めて白状した。
あなた
…俺、乃依ちゃんが好きでして…1日1枚の折り紙に乃依ちゃんの好きなところを書いて鶴を折ろうかな〜と…千羽鶴、的な…
駒沢 雷
駒沢 雷
なぜ鶴なんだ?
あなた
え"…えっとそれは…

こんなに質問攻めされるとは思っていなかったのだろうか。
目があちこちに泳いでいる。
あなた
の、乃依ちゃんが…幸せになったら、いいなって思って…?

なぜ疑問形なんだ。
俺は黙ってそれを聞いていると、沈黙に耐えられなくなったのか残りのおにぎりを口に詰め込んだ。
駒沢 雷
駒沢 雷
おい、そんなに一気に詰め込んだら詰まるだろう。
あなた
い、いや…モゴ大丈夫っす…

円堂がお茶で米を流し込むと、円堂のスマホから「ピピピ」とアラームが鳴った。
あなた
やっべぇ遅れる〜……
駒沢 雷
駒沢 雷
すまない、何か大事な用事があったのか。
あなた
あいや別に…大したことじゃ…汗

俺は残りのおにぎりを袋に戻し、円堂に渡す。
駒沢 雷
駒沢 雷
お前はロクな食生活をしていなさそうだからな。今日の夜はこれを食べろ。
あなた
え、いいんすか。…あ、てかお金払いますよ流石に。
駒沢 雷
駒沢 雷
いや、金はいい。俺が勝手にしたことだ。じゃあな。
あなた
え、あ、はい…ありがとう、ございます…







俺はあれだけを言い残し、教室から出た。
そして気づけば家に辿り着いており、俺は自分の部屋の机に突っ伏していた。
駒沢 雷
駒沢 雷
(なぜ、俺は円堂に構う。)

ぶつかられて、キーホルダーを拾って渡して。
「礼を忘れていた」と言われ、引き留めて。
なぜか自分からあの教室に行き、おにぎりを食わせた。


あの酷い隈と細い腕からまともな生活はしていないというのは見て取れた。
駒沢 雷
駒沢 雷
(…餌付け…雛鳥のような感じか…?俺は母性を抱いているのか…??)


駒沢 雷
駒沢 雷
(…いや。)

俺はここで考えるのをやめた。
何にしろ、今まで関わりのなかった円堂のことを俺はなぜか気に入っているらしい。
どこでそう感じたのかは全く分からんが。


するとスマホからポコンと通知が。


▷ あなたが配信を始めました。「ゴミ溜り配信:KA…」

俺の推しが配信を始めたようだ。
しかも今日はツクヨミでの「KASSEN」配信。
あの自由で楽しそうなあなたが見られると思うと、スマコンを探す手が少し早まる。



駒沢 雷
駒沢 雷
(…あの時、円堂の用事ってなんだったのか…)

ふとあの男のことを思い出す。
しかしスマコンに手が当たると、少しの気の迷いもすぐに消え去ってしまった。



『_____太陽が沈んで、夜がやってきます』


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