乾 side
「夏祭り、やってるらしいよ。」
昼休憩。
スマホを見ながら何気なく言うと、向かいで弁当を食べていたあなたの下の名前が顔も上げずに返した。
そう言って麦茶を一気に飲み干す。
まあ、正直分かってた。
「一緒に行こう」なんて流れになる相手じゃない。
そもそも今日は二人とも残業確定だ。
祭りなんて、最初から縁がない。
午後九時過ぎ。
ようやく提出用の資料がまとまり始めた頃。
ドン、と低い音が社内に響いた。
もう一発。
今度は窓が一瞬だけ白く光る。
パソコンに向かっていたあなたの下の名前が「あー?」と気のない返事をする。
キーボードを打つ手は止まらない。
1秒くらい。
折角見えるんだから。
立ち上がって窓際まで歩く。
ほら、と指を差した。
あなたの下の名前も「はいはい」と椅子を鳴らして立ち上がる。
そのまま俺の隣まで来た。
……近い。
思ったより近い。
肩が触れるか触れないか。
こんな距離になるつもりじゃなかった。
自分で呼んだくせに、急に心臓が忙しくなる。
窓の向こうでは、大輪の花火が夜空いっぱいに広がっていた。
赤、青、金色。
音が少し遅れて届く。
あなたの下の名前がようやく空を見上げる。
その一言に、少しだけ嬉しくなる。
そう言って笑う。
俺は花火の光に照らされた横顔を見つめていた。
なんで絵になるんだよ。
ロマンも情緒もない癖に。
視線に気付いたあなたの下の名前が首を傾げる。
即答。
その言葉だけで。
花火より顔が熱くなる。
夏の暑さのせいには、できそうになかった。
👉🏻 次回「イタズラ学概論③」











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。