第55話

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2023/03/22 13:27
潔世一
ッあぁっ!!クッソ…!
あなた
おっしぃ~っ!!
五十嵐栗夢
はい潔 外したからこうたーい






潔は下唇を噛む。
蜂楽はポストに当たって弾かれたボールを追いかけた。
「わりっ…ありがと蜂楽」「いえいえ~♪︎」と長い距離を挟んで言う。
もう終わるが、今は潔が中心の練習中だ。










雷市陣吾
やっぱりあのゴールはまぐれだったんだなッ!
久遠渉
はいはい 練習続けるよー









久遠は雷市の嫌味のような挑発のような言葉を流すようにして声をかける。
あなたはフィールドから出た潔の後を、ボトルを持って追った。








あなた
よいち~っ!水っ!
潔世一
さんきゅあなた…
あなた
んも~っ ショック受けすぎっ!






「ほらほらっ!笑って世一っ」と潔の頬をぐいっと斜めに引っ張る。
潔は水が飲めないからやめろ、と言うように怒ったように、けれど嬉しそうに 楽しそうに笑った。








潔世一
(やっぱみんな…俺より全然サッカー上手いよな…)
潔世一
(体力も半端ねえ…)
潔世一
あなた








何かを考えながら水を飲む潔を、あなたはジーッと見つめる。
潔の横顔は美しかった。
美を追求してきた者から見れば、潔の顔は特別綺麗な訳じゃない。
かと言って、不細工なわけでも決してない。
潔だからこそ美しい。
日本人らしい健康的な肉のつき方も、キリッとした眉も、飲み込む度に上下する喉仏も、大きく惹かれる目玉も。
何もかもが美しい。
きっと、あなたには存在しないものだから。
作られていない、自然なままの美しさ。
あなたはその上下する喉仏に吸い付く。





潔世一
ひゅ"っ…?!





変な声が潔の口から出る。
潔はバッと口を押さえると同時にあなたから退ける。







潔世一
お、おまッ…!な、何してッ……?!
あなた
分かんない…キレイだったから…
潔世一
ハァッ?!






潔は顔を真っ赤にして叫ぶ。
それから自分の喉仏を擦る。









あなた
ご、ごめんっ…!ホントに深い意味とかはないんだけど…
潔世一
お、おう…まぁあなたならなさそうだけどな…
あなた
待ってそれは聞き捨てならない








潔はまだ顔を赤く染めたまま俯く。
するとモニターに明かりが点いた。







絵心甚八
やぁやぁ 才能の原石共よ
潔世一
絵心甚八
やっぱソースとマヨネーズって合う~
五十嵐栗夢
焼きそばうまそ…!
我牙丸吟
(旨そ…)
あなた
(げっ…添加物の塊じゃん…)
絵心甚八
只今、第6試合が終了しました
絵心甚八
結果と順位表 はいどーん







絵心は焼きそばを食べたまま喋り、ホログラムの表を出す。








久遠渉
1勝1敗で3チーム並んでる…?!
五十嵐栗夢
チーム「V」ぶっちぎりじゃん!!
久遠渉
ってことは…次のチーム「W」戦は勝っとかないとマズいな…






絵心は焼きそばを啜る。
すると食べていた割り箸をこちら側に向けて言った。







絵心甚八
ここでスパイス
絵心甚八
これまでの成績とプレーに応じたBLブルーロックランキングの順位変動を行いまーす






あなたは一瞬身構える…が、自身にランキングが存在しないことを思い出しすぐ身体を脱力させる。









絵心甚八
ストライカーたる者 ゴールで己の価値を証明すべし
絵心甚八
つまり、現在のチーム「Z」のトップランカーは…
絵心甚八
お前だ







あなたは絵心から目線を外す。
そして、トップランカーを見た。
今、ここで、最も「世界一」に近い男。
最も「エゴイスト」である男。








絵心甚八
──────────潔世一







その名前を聞いて自然と笑みが溢れる。



その後絵心は、次の試合のやり方だったり、己の武器の在り方だったり、その武器を突出させるやり方だったりを話していたが、そこまで興味はなかった。
モニターが切り替わり、第7試合まで残り24時間と書かれている。








久遠渉
今日はここまでにして、チーム「W」の映像見よっか







ゾロゾロとロッカールームに歩いていくも、トップランカーは1人でポツンと座っている。
どうやら考え事をしているようだった。







あなた
よい…






声を掛けたそのとき、潔は急に走り出した。
肩をビクッと震わせる。
なにが起きたのか分からなかった。
けれど、潔のその背中を見て、また勝手に笑みが溢れた。







あなた
んも~っ!急に1人で練習しないで~っ?
國神錬介
そうだぞ!抜け駆けの走り込みすんな!







横から声が聞こえる。









國神錬介
チームランキングトップのお前にそれやられたら!やらないわけにはいかないっしょ!!
潔世一
國神…
蜂楽廻
ズルいよ~?俺も混ぜてよ!
潔世一
蜂楽まで…!?
蜂楽廻
ありゃ 時間ないんだね潔!
蜂楽廻
このチーム「Z」はもう─────







潔は後ろを振り返る。








蜂楽廻
潔世一お前を中心に回ってる!





雷市陣吾
お前なんかにゼッテー負けねェッ!
成早朝日
俺もっ!
我牙丸吟
あ"ークソ…風呂入りたかったのに…
久遠渉
明日!絶対勝つよ!
伊右衛門送人
っシャア!!
今村遊大
世界一になるのは俺だ!
五十嵐栗夢
潔ばっか目立ってずりぃぞ!







「青春だなぁ」なんてことを思う。
でも、不思議と嫌な感じはしない。
むしろ、清々しくて、心地よい。
この瞬間が永遠に続けば良いのに。



でも、それを世界は許してくれない。
許してくれるワケがない。




強く願った。
どうしようもないものだけれど、強く、強く。
感情の海の底のそれを、どうしようもなく望んだ。









『普通でありたい。』
『普通に学校に行って、普通に友達と遊んで、普通にご飯を食べて、普通に暮らしたい』
『普通に"幸せになりたい"』







そんな願いは、周りはおろか、自分すらも気付かないまま、泡沫のごとく遥か彼方へと消えていった。













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