それからというもの彼女が私の家に来て、
料理を振る舞う1週間に1回の恒例行事は始まった。
定番のカレーから、
おしゃれなアヒージョ、
どこか懐かしい味の肉じゃがまで
種類は様々で、
今日はなに作るの〜と聞く私に
秘密です〜と言う恒例の茶番も板についてきた。
って嬉しそうに笑う彼女との会話がどんどん増えて、
来週はあれ作ってとか、
今週のパスタはなんか気合い入ってるねとか、
でもきっと楽しいのは食事だけじゃない。
例えここにスーパーの安いカップ麺があったとしても
共に食べるのなら晩酌と呼べてしまうような
そんな輝く彼女の笑顔があるからで。
それは紛れもない私と彼女だけが知る、
私と彼女だけの幸せな時間。
そう言って私に背を向け、出て行く瞬間が
どうしようもないくらい寂しくなったのは
きっと私が彼女に抱く、溢れんばかりの感情のせいで
それでもなんだか心地がいい、誤魔化せるわけもないそれは私の本音。
今週もやってきた彼女との楽しい夕食の時間。
いつもやらせてばかりは申し訳ないと隣に立つものの、
私が手伝ったら逆に邪魔してしまいそうで、
結局、彼女と他愛のない話をし始めるのが
いつものルーティーン。
美味しそうな匂いが充満するキッチンで、
私はふといつも疑問に思っていたことを
彼女に聞いてみたりする。
ずっと聞いてみたかったけれど聞けなかったこと。
彼女なら私なんかよりも
もっと可愛くて、器用で、優しくて、素直な
そんな子と付き合えるはずなのに。
なんで私なんだろうって
そんな疑問に返ってきたのは予想もしなかった質問で。
彼女は当たり前とでも言うかのように笑って、
驚く私を横目に料理を進めている。
言い訳するように言葉を並べる彼女は
私の方を見てはくれない。
包丁を持つ手が震えてるような気がするのは
私の勘違い?
それともほんとはあなたも怖いの?
そう聞くと彼女は顔をあげ、包丁を置く。
しっかり私に向き合うと、
今までにみたことないほどに優しい顔をしていて、
冷蔵庫にもたれかかりながら彼女を見る私は
そっと彼女から差し伸ばされた手を取って、
彼女からの言葉を待っていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!