第9話

やっぱり愛おしい III
707
2024/05/28 04:47
それからというもの彼女が私の家に来て、


料理を振る舞う1週間に1回の恒例行事は始まった。


定番のカレーから、


おしゃれなアヒージョ、


どこか懐かしい味の肉じゃがまで


種類は様々で、


今日はなに作るの〜と聞く私に


秘密です〜と言う恒例の茶番も板についてきた。
Kokoro
Kokoro
ん〜!これ美味しい!
Momona
Momona
これは私のママの特製シチューですよ

生まれた時からずっと変わらない味です
Kokoro
Kokoro
レシピ貰ったの?
Momona
Momona
はい!でもやっぱママみたいにはいかないですね
Kokoro
Kokoro
いいんじゃない?そのままで
Momona
Momona
へ?
Kokoro
Kokoro
桃奈ちゃんは桃奈ちゃんが作る味のままでいいと思う

私はこの味が好きだよ、ホッとする
Momona
Momona
心ちゃんがそういうならこれも悪くないですね
って嬉しそうに笑う彼女との会話がどんどん増えて、


来週はあれ作ってとか、


今週のパスタはなんか気合い入ってるねとか、


でもきっと楽しいのは食事だけじゃない。


例えここにスーパーの安いカップ麺があったとしても


共に食べるのなら晩酌と呼べてしまうような


そんな輝く彼女の笑顔があるからで。


それは紛れもない私と彼女だけが知る、


私と彼女だけの幸せな時間。
Momona
Momona
じゃあまた来週来ますね!
Kokoro
Kokoro
うん、気をつけて帰ってね?
そう言って私に背を向け、出て行く瞬間が


どうしようもないくらい寂しくなったのは


きっと私が彼女に抱く、溢れんばかりの感情のせいで


それでもなんだか心地がいい、誤魔化せるわけもないそれは私の本音。


Kokoro
Kokoro
なんか手伝おうか?
Momona
Momona
大丈夫ですよ

心ちゃんは座って待っててください
Kokoro
Kokoro
えぇ〜でも
Momona
Momona
だめです、心ちゃん怪我しちゃうかもだから
Kokoro
Kokoro
えっ?

それ遠回しに不器用って言ってるでしょ?
Momona
Momona
まぁ、ちょっと?
Kokoro
Kokoro
あっ、こら〜

私は不器用じゃないの!料理しないだけ!

やれば出来るんだから
Momona
Momona
はいはい、分かりましたよ笑
今週もやってきた彼女との楽しい夕食の時間。


いつもやらせてばかりは申し訳ないと隣に立つものの、


私が手伝ったら逆に邪魔してしまいそうで、


結局、彼女と他愛のない話をし始めるのが


いつものルーティーン。


美味しそうな匂いが充満するキッチンで、


私はふといつも疑問に思っていたことを


彼女に聞いてみたりする。 
Kokoro
Kokoro
ねぇ、桃奈ちゃんってさ、

なんでそんなに私のことが好きだったの?
ずっと聞いてみたかったけれど聞けなかったこと。


彼女なら私なんかよりも


もっと可愛くて、器用で、優しくて、素直な


そんな子と付き合えるはずなのに。


なんで私なんだろうって
Momona
Momona
なんで過去形なんですか?笑笑
そんな疑問に返ってきたのは予想もしなかった質問で。


彼女は当たり前とでも言うかのように笑って、


驚く私を横目に料理を進めている。
Kokoro
Kokoro
それって、、、
Momona
Momona
はい、今でも好きですよ

てか好きじゃない時なんてないです
Kokoro
Kokoro
、、、、
Momona
Momona
でも困らせたくなかったから言わなかっただけ

あぁでもこうやって料理してるのは

ただ単に心ちゃんに健康な食事を的な

深い意味はないですからね?
言い訳するように言葉を並べる彼女は


私の方を見てはくれない。


包丁を持つ手が震えてるような気がするのは


私の勘違い?


それともほんとはあなたも怖いの?
Kokoro
Kokoro
じゃあ、なんで今も私のことなんか好きなの?
そう聞くと彼女は顔をあげ、包丁を置く。


しっかり私に向き合うと、


今までにみたことないほどに優しい顔をしていて、


冷蔵庫にもたれかかりながら彼女を見る私は


そっと彼女から差し伸ばされた手を取って、


彼女からの言葉を待っていた。

プリ小説オーディオドラマ