第89話

踏ん切りつけて
26
2023/11/26 00:39
ナナ
今日は壊れたスマホ買い直すんだよな、カルノ
ナナ
…いや、壊された?
カルノ
…………うん。これで4回目。僕のお父さん荒いからさー
僕はナナと一緒に街に出てきていた。

父に壊されたスマホを買い直すため、
そしてナナがどこまで知っているのかを探るためだ。

ナナは鋭い。それから読みにくい。

中身がないように見えてつつけば溢れ出す。そんな奴。

暫く僕らは歩きながら話し続けた。

他愛のない話、取り留めもない話、革命軍の話。

不意にナナが話題を変えた。
ナナ
…………何か、変わったね
カルノ
え?
ナナ
いや、気のせいかな。前は結構俺のこと立てたり自分のこと卑下したり
どっか諦めてたみたいな感じだったじゃん
カルノ
えっマジで?うわ僕キモ…ていうか言えよ
ナナ
うーん、まぁプレッシャーとかストレスに潰されさえしなけりゃ
別に俺は良かったから…。ほら、カルノって結構
抱え込むタイプだし
カルノ
あ…そう……
外に本当の自分を出すのは怖かった。

本当は捻くれた根性無しだなんて、
あってはならないから。
カルノ
…………ま、成長ってことで
僕は顔合わせ後を思い出す。

暫く忙しかった僕らが初めて対面で話した日。

僕が僕になれた日。
頬を叩く音が響く。

僕は少しよろけて後退する。

父は呼吸を荒げて僕を見下ろした。
ケイ
なんて事をしてくれたんだカルノ!
あれはお前がお前である理由だ!お前の存在意義だ!!
ケイ
これではネルのところに遅れをとるじゃないか!!
この失態をどう埋める!?
カルノ
っ……話し合おうよ、父さん
僕がそう呼びかけると父は不服そうに席についた。

それから圧のかかった声で呼び方を改めろ、と言った。
カルノ
………僕は貴方が怖いから…上手く言えないけど
腕が震えた。何かを言うのは怖かった。

また昔みたいに折檻されたりするんじゃないかと。
カルノ
…………僕は辛かった。貴方の言う事を聞いて、
革命長になって、ルスヴンと結婚した将来に、
…………幸せなんて見えなかった
ケイ
っ……?
カルノ
僕は地位なんて望んでない。
…………それはずっと、貴方の押し付けだ
ケイ
だが他の道ではお前は生きられない。
私がこの道でここまで来たんだ。お前だって
決めつけないで。


何かが震えた。

貴方に1番、

“僕”を見てほしかったのに。
カルノ
…まるで貴方は成長しない子供だ…!
自分がそうだから相手もって、ずっと我儘ばっかりで!
カルノ
僕は僕だ…!貴方は僕から全部奪っていった!!
母さんも将来も好きな人も選択肢も!
ケイ
私は全て与えてやった。まだわからないのか?
地位も財産も未来も力も。何故わからないんだ?
……………………そうか、そのお前の好きな人間か?
そいつのせいでお前は歪んだんだ
カルノ
っ…ちが
革命長
違います
空気が凍った。

いつの間にかそこには鍵を持った革命長がいた。

_____________その後ろには母がいた。
ケイ
っ…ネル…………?
革命長
ケイ、お前は歪んでしまった。これ以上は許容できない。
………私は結果が大切だと貴方に教えたが。
しかしお前は駄目にしすぎだ
革命長
…………まるで子供の頃から変わっていない
父は青ざめた顔で革命長を見た。

父は何も言えなかった。
革命長
………ノーマさん、あちらへ。カルノもどうぞ
ノーマ
…………はい
ケイ
っ……何故
僕らは父を置いて部屋を出た。

父の顔は、お気に入りの玩具を
取り上げられた子供みたいだった。



カルノ
………母さん
言い終わる前に、母さんは僕を抱きしめた。

小さい頃何度もしてくれたみたいに。
ノーマ
ごめんなさい…、カルノ…!
ノーマ
もう一度、こうしたかったのに…私
ノーマ
貴方を置いて逃げたの…母親失格なの…!
カルノ
っ……
熱い何かが喉を焼いた。

今では僕の方が大きくなってしまって、
かつての感触が思い出せなくなってしまった。

でも、あぁ、これが__________
カルノ
っ…………ずっとほしかった
彼女はずっと泣いていた。

簡単には許せなかったけど、
ずっといてほしいという気持ちが絡まって

僕はまた泣きそうになった。

結局僕は一人で暮らすことになったけど
後悔はしていない。

やっと僕は“僕”になった。
ナナ
うーんiPhone15…羨ましい
カルノ
やっぱどうせなら良いやつだよねー
買い物も終わり僕らはゲーセンに入る。

ナナも乗り気らしい。
ナナ
ん………あれ、ルイとライナじゃね?
カルノ
え?
ナナが指を差す。

その先にはアイスを食べている二人がいた。

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