第9話

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2026/02/20 12:00 更新






1日目

正式に付き合い始めた、その翌日。

昨日の夜のことが、夢みたいで、でも確実に現実で。

あなたの下の名前は朝からずっと落ち着かなかった。

スマホの通知が鳴るたびに、心臓が跳ねる。

画面を開く。

柔太朗:
「おはよ。」

たった三文字。

それだけで、こんなに顔が熱くなるなんて。

あなたの下の名前は深呼吸してから返信する。

あなたの下の名前:
「おはよ。今日は撮影?」

数秒後、すぐ既読。

柔太朗:
「昼から。今ちょっと時間ある」
「会える?」

突然すぎる。

昨日“彼氏”になったばかりの人からの「会える?」。

胸がきゅっと締めつけられる。

でも。

――距離、置かなきゃ。

そう思ったはずなのに。

あなたの下の名前:
「午前中なら…少しだけ」

送ってしまった。

既読がついて、すぐ電話がかかってくる。

「ちょ、ちょっと!」

慌てて出る。

柔太朗:
「もしもし?」

声、近い。

昨日より近い。

あなたの下の名前:
「…なに?」

柔太朗:
「今から迎えに行く」

あなたの下の名前:
「え、来なくていいよ」

柔太朗:
「やだ。彼氏なんだから」

その言い方、ずるい。

黙ってしまったあなたの下の名前に、柔太朗は笑う。

柔太朗:
「顔見たい」

一瞬、言葉が出なかった。

「…勝手に来れば」

強がり。

電話を切ったあと、ソファに顔を埋める。

(好きになりすぎないようにしなきゃ)

そう決めたのに。

もう無理かもしれない。


---

午前10時

家の前。

車から降りてきた柔太朗が、軽く手を上げる。

「おはよ」

昨日と同じ言葉なのに、まるで違う。

距離が近い。

目が合う。

少し照れたように視線を逸らす柔太朗。

柔太朗:
「…なんか、変な感じ」

あなたの下の名前:
「何が」

柔太朗:
「昨日までとは違うっていうか」

同じことを思ってた。

二人とも少し笑う。

歩き出す。

指が、少し触れる。

触れただけで、体温が伝わる。

柔太朗がふっとこちらを見る。

柔太朗:
「手、繋ぐ?」

心臓、爆発しそう。

あなたの下の名前:
「……人いるし」

柔太朗:
「気にしすぎ」

そう言いながら、自然に指を絡める。

ぎゅっと。

逃げられない。

いや、逃げたくない。

「…柔太朗」

無意識に名前が出る。

柔太朗が一瞬止まる。

柔太朗:
「今、呼んだ?」

あなたの下の名前:
「え?」

柔太朗:
「柔太朗って」

今まで苗字だった。

彼氏になった瞬間、変わった。

あなたの下の名前:
「嫌?」

柔太朗:
「嬉しい」

その顔、反則。


---

カフェに入る。

向かい合わせに座る。

でも距離が近い。

テーブル越しなのに、近い。

柔太朗:
「なんかさ」

あなたの下の名前:
「うん」

柔太朗:
「昨日からずっと考えてた」

不安が一瞬よぎる。

(いつか終わるのに)

胸が痛む。

柔太朗:
「これから、どんな1年になるんだろうって」

その言葉。

心臓が止まりかける。

――1年。

彼はただの未来の話をしてるだけ。

でもあなたの下の名前にとっては、“終わりのカウントダウン”。

あなたの下の名前:
「…1年?」

柔太朗:
「いや、なんとなく。1年後も一緒にいられたらいいなって」

視線を逸らす。

見ていられない。

あなたの下の名前:
「…どうだろうね」

柔太朗:
「え、なにその反応」

笑いながらも、少し不安そう。

その顔を見ると、胸が苦しい。

(嫌いにならなきゃ)

(好きになったら、もっと辛くなる)

なのに。

手を握り返してしまう。

あなたの下の名前:
「今日、何するの」

話を逸らす。

柔太朗:
「散歩して、撮影行く」

あなたの下の名前:
「私も仕事戻る」

柔太朗:
「夜、電話していい?」

間髪入れずに答えてしまう。

あなたの下の名前:
「いいよ」

柔太朗が嬉しそうに笑う。

「よかった」

その笑顔が、まっすぐすぎる。


---

1日目の夜

電話越し。

「今日、楽しかった」

「うん」

「なんかさ、ちゃんと彼氏彼女って感じだった」

その言葉に胸が熱くなる。

でも同時に、どこかで時計の音がする。

――残り、364日。

(ごめんね、柔太朗)

言えない言葉を飲み込む。

柔太朗:
「明日も会えたらいいな」

あなたの下の名前:
「…うん」

柔太朗は、未来を疑っていない。

あなたの下の名前だけが、終わりを知っている。

それでも。

今日だけは。

「おやすみ、柔太朗」

「おやすみ、あなたの下の名前」

その呼び合いが、胸に残る。

こうして、
幸せなカウントダウンの1日目が終わった。









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