ドアを開けた瞬間
いくつかの視線がこちらに向いた。
一瞬だけ。
すぐに興味を失ったように逸れていく。
何も言わず、空いている席を探す。
窓側、後ろの方。
人の出入りが少ない場所に腰を下ろした。
周囲では、
すでにいくつかのグループができ始めている。
笑い声、軽い自己紹介、どうでもいい会話。
――いつも通りだ。
関わらなければ、それでいい。
頬杖をつきながら、ぼんやりと外を見る。
春の光がやけに眩しくて、目を細めた。
前の席のやつが、くるりと振り返る
興味は薄い。
けれど、耳には入る。
軽く流す。
興味はない。
――少なくとも、その時は。
教室の空気に、少しずつ慣れてきた頃。
扉が開いた。
数人の生徒が入ってくる。
その中に、見覚えのある顔があった。
視界に入った瞬間、思考が止まる。
国見英。
変わらない、無表情。
周囲に合わせるでもなく、
淡々とした足取りで教室に入ってくる。
一瞬だけ、目が合った。
ほんの刹那。
すぐに逸らされる視線。
何もなかったかのように、夢主は顔を戻す。
関わらない。
見ない。
それだけでいい。
そう決めていたはずなのに。
足音が、近づいてくる。
一歩、二歩。
そして――
低い声が、すぐ横から聞こえた。
思わず顔を上げる。
そこに立っていたのは
さっきまで教室の入口にいたはずの国見だった。
当たり前のように、夢主の隣の席を指す。
空いている席は他にもある。
わざわざここを選ぶ理由はないはずだ。
拒否する理由を探す方が面倒で、視線を逸らす。
椅子を引く音。
すぐ隣に、気配が落ち着く。
近い。
何もしていないのに、距離だけがやけに近い。
沈黙が続く。
話しかけてくるわけでもない。
けれど離れる様子もない。
ただ、そこにいる。
それだけで、落ち着かない。
小さく、吐き捨てるように言う。
一拍の間。
返ってきたのは、それだけだった。
あの頃と同じ、温度のない声。
けれど――
ほんの一瞬だけ、言葉を選ぶような間があった。
それ以上、聞く気もなかった。
窓の外に視線を戻す。
関わらないと決めたはずなのに、
視界の端に入る存在が邪魔をする。
何も変わっていない。
そう思いたいのに。
小さく舌打ちして、目を閉じた。
――視界に入るな。
そう思うほど、隣の気配は消えなかった。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。