第11話

自覚するエゴ
1,422
2022/02/16 04:00


 真緒くんは心を開いてすべてを話してくれたのに、私は最初の頃から何一つ変わらず臆病なままだった。

 純粋な真緒くんにちゃんと私の心の内を話すことで答えないといけない。
 そう思っていたのに、補導されたことで私たちにはそんな時間も残っていなかった。


警察官
じゃあ、君の鞄から出てきた包丁が凶器で間違いないね?
佐野 立佳
佐野 立佳
はい。私が真緒くんのお母さんを刺しました
警察官
はぁー、そろそろやめてくれないか?


 ここに真緒くんはいない。

 私たちは個別の部屋で詳しく話を聞かれ、もうそろそろ1時間経とうとしていた。


警察官
2人とも自分がやったなんて言って、大人をおちょくるのも大概にしなさい。
人が1人死んでるんだ。捜査を難航させて一番困るのは君たちだからな?
佐野 立佳
佐野 立佳
……


 こんなことをして何になるんだろう?
 そんなこと私自身もわからない。
 真緒くんのためとか、自分のためとか。

 本当に私は警察官の人をおちょくってるだけなのかもしれない。

 話す時間もくれなかった腹いせ?

佐野 立佳
佐野 立佳
(もう自分が何を言ったのかも、覚えてないや)


 けど、そんな時間もまたすぐに終わりを告げる。




    コンッ コンッ




 ノックの音でドアが開くと、座っていた警察官は外へ出ていった。




 琉花ちゃんは私たちよりも先に補導されていたらしい。
 黙り続ける彼女を警察官は家出少女と勘違いして保護していた。
 けど、そこにいた警察官の無線で真緒くんが捕まったことを知り、全部話したという。

 真緒くんが庇ったこと、家を出たあの明け方に「逃げることになった」というメールが届いたなど。

 私はそれら全てを聞かされ、嘘をつくのをやめて真実を話した。

 まだ生きていた真緒くんのお母さんを自分のエゴで見捨てたことも、全て。





 ここまで来てやっとわかった気がする。

佐野 立佳
佐野 立佳
(私これを待ってたんだ。真緒くんが犯人だって決まっちゃうのが嫌で……)
佐野 立佳
佐野 立佳
(だって、あんな話を聞いたら本当に助けたいって思ったんだもん)


 それから事はとんとん拍子で進んでいき、やっぱり家になんて帰れなかった。


 真緒くんに会えない苦痛を抱えて1日1日を過ごし、やっと少年院へ行くことが決まる。



 けど、私が来た施設には真緒くんも琉花ちゃんもいなくて、その後の話を私はなにも知らない。

佐野 立佳
佐野 立佳
(2人はどうなったんだろう?
私のあんな時間稼ぎも無意味だったのかな?)


 今は、本当に2人の安否を心配している。

 けど……。

佐野 立佳
佐野 立佳
(やっぱり、真緒くんに本当のことを話せなかったのは心残りかも)
佐野 立佳
佐野 立佳
(これも自分が満足していないだけの、エゴなんだろうなぁ)







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