リアムは目の前の男に対し驚きを隠せなかった。
何故自分の名前がこの男に伝わっているのか。…この男は何者なのか。
こいつに近づいたのは元はと言えば自分がこいつに対し見覚えを感じたからだ。
それなのに、今では全く立場が逆転してしまっている。
リアムは聞いてもないのにぺらぺらと喋り出す男の長台詞をなんとか遮ろうとした。
リアムが少し語気を強めて言うと,その男は目が覚めた様な顔をし,それからそこの読めない笑顔を向けた。
兄….…?
『ねえ、リアムさん!!』
『なにか好きな曲ない?わたしひくよ!』
『はは、仮に曲を頼まれても、お嬢様には難しいかもしれませんよ。』
『あ、えっと…』
『ジェイ・ステイサムです。お嬢様。』
『実は私には弟がいましてね。その弟も音楽をやっていたので,なんとなくわかるんですよ。』
『弟が警備隊に入れたら,いつか引き合わせましょう。』
耳に残るピアノの旋律。
それで思い出した。
ステイサムさんの…弟の話を。
スティーブは屈託のない笑顔を向けて話し続けた。
知っていたというか,話に聞いていた程度で名前すら知らなかったが,リアムはあえてそれは言わなかった。
まさかアカユ家から派遣された警備隊員にステイサムさんの弟がいるとは思わなかった。
名簿を見たとき何故気づかなかったのだろう、と言う疑問は頭からすぐに消えた。
…それが後になって,とても大切な疑問になると言うことには気づかずに。
そう言うと,スティーブはきょとんとした顔をし、直ぐにさっきまでの笑顔に戻った。
そこまで話してからリアムは突然自分の仕事を思い出した。
あの忌々しい許婚のことを。
こんな所で時間を潰して,何か企んでいるのを見逃す訳にはいかない。
あなたの下の名前も、自分を待っているだろう。
立ち去ろうとしたリアムにスティーブは近寄り,こそっとリアムに耳打ちした。
距離感の近い男だ、と思った。
リアムは顔をしかめたが、その場では何も言わずに去っていった。
庭に取り残されたスティーブは欠伸をすると、誰にも聞こえない声で呟いた。
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応接室には三人の人物がいた。
1番奥の席には領主であるミレーユ。その左手には孫娘であるあなたの下の名前が座っている。
そして、あなたの下の名前の向かい側には本日の客人が座っている。
誰もがはっと目を見張るような精悍な顔立ちをした男、それがシャルルだった。
この男に近寄られれば、どんな娘も簡単に落ちてしまうだろう。
…この場にいる1人の娘を除いて。
その微笑みを見て,微笑み返すでもなく微かに顔をしかめたあなたの下の名前は、いかにも生意気な娘のように目を逸らした。
そんな孫娘を見て,ミレーユは申し訳なさそうにシャルルを見る。
その言葉に,あなたの下の名前は顔を上げ怒りの色を示した。
それだけ言うと,あなたの下の名前は部屋を早足で出ていき,バタンと音を立てて扉を閉めた。
シャルルは苦笑してミレーユを見た。
ミレーユは、世間一般で見ればシャルルより上の立場である。
彼女が彼に謙る必要は全くなかった。………………何もやましいことがなければ。
ミレーユの顔は蒼白だった。シャルルが横目で見つめてくる視線を感じ,やっとの思いでそちらに顔を向ける。
その顔には汗が浮かんでいた。
シャルルはにこりと笑うと,席を立ち窓に向かった。
そう言うとシャルルの笑みは爽やかなものから妖艶なものに変わっていた。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。