彼は、身体を預けるようにして倒れ込んだ。
先生が教室を飛び出した後も、俺は彼の名前を呼び続けた。
倒れ込んでからも声を掛け続けるが、返事はない。
やっぱり、無理をしてしまっていたのだろうか。
俺は体温計を取り出して、体温を計った。
彼の顔色は悪く、辛そうな表情をしている。
なんですぐに気付いて、行動できなかったんだろう…。以前と同じミスをしてしまった自分が醜くて仕方がない。
心身のストレスは命に関わるかもしれないのに、、。
彼は、虐待や命令、そして…周りからの期待を受けている。
1番苦しんでいるはずだ、なんで彼の事を気遣ってあげられないのだろうか…。
‐ピピピッ🤒‐
自己嫌悪を遮るように体温計が鳴った。
体温計には、いい意味でもあり、悪い意味でもある事を示していた。
発熱はしていない。だが、顔色は悪いことに変わりはない。
原因が不明。どう対応すればいいか分からない…。
もう一度、彼の身体を観察する。すると…
手に刻まれた紫色の斑点に気が付いた。所々、細胞が濃くなって見える。しかし、この症状には見覚えがある。
原因は恐らく毒。
俺は、クラスメイトに飲まされた事がある。その時と全く同じ症状が彼にも出ていた。
では、何故彼に毒の症状が出たのか?
朝食に混ぜられた?いや、だとしたら症状はもっと早い段階で酷くなるはずだし、彼は少食だ。
毒による症状はすぐに現れる。だが、少量の毒なら症状は浅い。
つまり…彼は、複数回に渡って毒を摂取した可能性が高い。
なら、普段から口にしているものといえば…?
普段から口にしているもの。ふと、水ではないか、という候補が浮かび上がった。
すぐに彼の水筒を取り、蓋を回して中身を確認した。
‐カチャッ‐
案の定、水筒の中には花びらがあった。
きっと、この花びらが毒の成分なのだろう…。
‐ピーポーピーポー🚑‐
救急車が近づいてきた事を示す高い音。先程までは遠ざかっていたため、低い音に聞こえた。この現象はドップラー効果によるものだろう。
‐数分後‐
医師は救急箱を手に持ち、教室に倒れ込んでいる彼の様子を伺った。
俺は、彼の水筒に混入していた花弁を取り出した。
医師は薬を取りに、駐車場に停車してある救急車へ向かった。
幸い、今日は付き添いで薬剤師の方がいるらしい。
なので、薬の処方はすぐに終わった。
‐またまた数分後…‐
彼は本当に目覚めるのだろうか。この薬だけで。
少し不安を感じながらも、彼に薬を飲ませた。
‐パチッ👁️🗨️‐
彼は目覚めた。本当に効果はあった。
俺は喜びのあまり、彼を抱きしめた。
彼は医師の方を向き、疑問を投げた。
彼の表情は、驚きと申し訳なさが五分五分くらいだった。
医師と教師は教室から去った。
先生も教室から去っていった。
教室はリラとレオの2人きり。ほぼ空白の教室には緊張が張り詰めていた。
緊張で少し声のトーンが下がってしまった。彼は動揺を隠しきれない返事をする。怖がらせてしまったかな…。
ずっと疑問だった。水筒の中に入れられた毒。何故毒を飲んでしまったのか。
…自殺のため…?嫌な疑問が頭をよぎる。
答えは『分からない』。
想定外だった事もあり、驚きを隠せなかった。
彼がどれほどの苦労を抱えてきたのか、どれだけ辛い環境に置かれているのか、イタズラを仕掛けたやつには到底分からない。
この短期間で、彼は苦しみや苦労を独りで抱えていた。
『禍福は糾える縄の如し』じゃないのかよ…!
腹の底から沸き上がる怒りをなんとかこらえて、返事をする。
彼は、淋しげに瞳を揺らした。
‐キーンコーンカーンコーン🔔‐
チャイムが鳴り、時計に目をやる。時刻は午前11時30分。
忘れかけていたお楽しみが蘇った。
僕達は顔を合わせて喜びを示す。















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!