現在、金曜の夜6時半。
僕はぺいんとの家にお邪魔させてもらっていた。
まだ晩御飯の時間でもないのにリビングには2人分の布団が敷かれている。
早めに敷かれた布団の上に座りながら、僕はやけにテンションの高いぺんちゃんに少し引いていた。
トランプの束をくくっている輪ゴムを取り外そうとしている時にそう言うと、ぺんちゃんは驚いたような顔をした。
ぺんちゃんとキッチンに到着した後、僕らは顔を見合わせた。
僕らはまるで双子のように苦笑いをした。
今、この家には誰にも料理ができる人が存在していないことが判明。
なら今からコンビニで何か買ってくるか…
そう思って財布を探しにリビングに戻ろうとすると、ぺんちゃんが声を上げた。
戸棚を開いてカップ麺を取り出したぺんちゃんは、目をキラキラさせて僕の目の前に見せつけている。
久しぶりに見たカップ麺は神々しい光を放っているようだった。
戸棚の中の奥を見ると、様々な種類のカップ麺が並んでいた。
学生にとっての楽園すぎる。
ぺんちゃんは一瞬顔をしかめたがすぐに顔をもどし、ソースが濃いと有名なカップ焼きそばを手に取った。
カップヌードルの選択肢にすぐ決まったが、チリトマトかカレーで悩む。
そもそも、久しぶりのカップ麺なのもあって誘惑が多い…
ぺんちゃんの言葉に後押しされながらも、僕は結局、カレー味を食べることにした。
現在ぺんちゃん家のリビングの机には、
濃厚なソースの匂いを立ち込めたカップ焼きそばと、刺激的なスパイスの匂いを持つカップ麺カレー味が置かれている。
ちゃんと3分経ったことを確認したのち、僕たちは手を合わせた。
絶賛成長期の僕たちは、一旦よだれを飲み込んだ後に食べ始めた。
THEインド感があるスープが麺と絡まってズズッと口に運ばれていく。
僕の口にピリッとした辛味がやってきた後にカレーらしい旨味が襲ってきて、ポッポと体を熱くさせる。
謎肉やポテトなどの具材も忘れずに麺の上にのせて啜ると、肉の感触と味、ポテトのホクホクさもプラスされてさらに美味しい。
すると勝手にぺんちゃんの箸が乱入、まあまあな量をかっさらっていった。
すかさず、僕もぺんちゃんの焼きそばをすくって啜る。
正論を突きつけつつも、焼きそばの味にも舌が反応する。
一口でもわかる、ソースの濃厚さ。
キャベツの甘さや肉の存在感もソースに助け舟を出して、これがまた良いハーモニーを奏でている。
こうやって楽しく食べていたが、カップの中にスープのみが取り残されたことが分かった途端、夢の時間は終焉を迎えたかに思えた。
そうやってしばらくしょげていたが、ぺんちゃんが冷凍ご飯をチンして持ってきてくれた。
遠慮なく、麺がいなくなったスープにご飯を入れて混ぜるとカレー風雑炊の出来上がり。
口の中に運ぶと辛旨なスープを吸ったご飯とまだ残っていた謎肉が、これでもかと言うほど美味さを叫んでいる。
ホントはチーズも入れたらさらに美味いんだが…人様の物を頂いているためわがままになってはいけない。
ぺんちゃんの方を見ると、味変としてマヨネーズをかけて食べていた。
最後の一口を啜った後、ぺんちゃんはそう呟いていた。
現在、午後11時。
晩御飯の後、僕たちは交互に風呂に入り、約3時間ほどゲームに勤しんだ。
大乱闘系ゲームではぺんちゃんの圧勝だったが、ぷよテットでは僕の頭脳が光った。
普通の学生のように笑い、いじりつつも楽しく遊び…
まるで明日の深夜に館に行くことが無かったことにされているように、僕は満喫していた。
電灯が消え、一瞬にして部屋の空気がしんと静まり返る。
そっか、僕ただお泊りしにきただけじゃなかったな……
ぺんちゃんが隣で寝ているはずなのに、何故か一人で寝ているような感覚。
不安は拭えているはずだ、けれど……
やっぱり覚悟というものが出来ていないのだろうか。
一つ小さくため息をついた後、僕は瞼を閉じた。
それではスィーユー
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!