前の話
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人の目を見て話すのが怖くなった。
そこに映ってるのは、私じゃなくてただの"宝石"としか見られてないんじゃないかと思うと、どうしても臆病になってしまう。
きっと頭を撫でてくれようとして伸ばした手なんだろう。
それが、私には怖くてたまらなかった。
パシッと音がして気づけばお兄ちゃんの手を弾いていた。
信じれなかった、少しでも疑ってしまった。
傷ついたように歪んだお兄ちゃんの顔が見れない。
その場にいたくなくて、お兄ちゃんの声も無視して走り出す。
どうしたらいいの。私、ここにいてもいいの?
全部、全部が怖くて仕方ない。すれ違う人の目も、手も、声も。なにかされるんじゃ、何か言われるんじゃないかと思うと怖くて堪らない。
無我夢中で廊下を駆け抜けて、中庭に出る。園庭の誰も来ない場所にそっとしゃがみ込んだ。
お兄ちゃんはずっと私を信じてくれた。なのに、私は………。
また涙が出てくる。
幹部、なのに示しが付かないな。カラン、と音を鳴らして床にこぼれ落ちる涙は、まるで自分の居場所を知らせているようだった。
全部全部が嫌なる。泣いている自分も、こうなった元凶のフィオちゃんも、信じてくれないみんなも、全部全部。
すぐ後ろで声がしたと思ったらすぐ見つけられてしまった。
お兄ちゃんは私を見つけると、怒りも睨みもせず満面の笑みで私の名前を呼んでくれた。
私と目線を合わせるようにお兄ちゃんはしゃがむ。
あぁ、やっぱり幸せだ。
ほんとに、2人して幸せそーだな。
血の繋がってない家族?…大層なものね。
いいなぁ、私も欲しいなー、あんなに優しいお兄ちゃん。
記憶の中の家族は、怖くて、汚くて、恐ろしい。
全部全部が嫌いだ。
何であの子はあんなに幸せそうなの?
許せないなぁ…。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!