第48話

悪魔の薬
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2026/07/19 14:04 更新
誤字脱字あったら教えてください!
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side ゾム


ある日の午後、俺たちの端末に一斉に連絡が入った。


それは、ぺ神からの直接のメッセージ。


【大至急、全員会議室へ集まって。リオくんも一緒にね】

普段は飄々としていて、どこか掴みどころのないあのぺ神が、わざわざ幹部全員どころか、副隊長のリオまで名指しで召集をかけるなんて、これまで一度だってなかった。
何かとんでもない事態が起きたことだけは、その短い文面からでも痛いほどに伝わってきた。

会議室の扉を開けると、室内にはすでに異様な緊張感が満ちていた。

トントンは険しい顔で腕を組み、グルッペンはいつもの総統席で深く椅子に腰掛け、細められた瞳の奥に冷徹な光を宿している。
シッマもショッピくんも、いつもの軽口を完全に封印して静かに席に着いていた。隣に座ったリオを見ると、徹夜の疲れが残っているはずなのに、背筋をピンと伸ばしてどこか緊張した面持ちで正面を見つめている。

俺たちの視線の先───ホワイトボードの前に立つぺ神は、いつもの穏やかな笑顔を完全に消し去っていた。
手元にある厚いバインダーに挟まれた書類を、まるで国家の命運が書かれた機密文書でも見るかのような真剣な眼差しで見つめている。

全員が席に着き、室内のざわめきが完全に静まり返ったのを見計らって、ぺ神がゆっくりと口を開いた。

「───よし、みんな揃ったね。急に集まってもらってごめん。でも、どうしても今すぐ全員に共有しておかなきゃいけない、極めて深刻な報告があるんだ」

ぺ神の声は、驚くほど低く、そして冷えていた。

「今日みんなを召集した理由はね、数週間前、軍内部でリオくんが『先越し』とは違う正体不明の侵入者に嗅がされた謎の薬物。それと、この前の任務帰りにゾムが医務室に来た時に言っていた、『指先の痺れ』。その二つの解析がようやく終わったから、その結果を伝えようと思ってね」
ぺ神はそう言うと、手元の端末を操作して、壁の巨大なスクリーンにプロジェクターの映像を映し出した。
そこには、複雑に絡み合う無数の化学式のデータと、見たこともないような奇妙な波形を描くグラフが表示されていた。
「まず、最も重要な結論から言うよ」
ぺ神はバインダーを机に置き、全員の顔を真っ直ぐに見据えた。

「リオくんの体内から検出された、微量すぎて特定できなかった未知の薬物成分。それと、数日前にゾムが『ちょっと手が痺れてる』って医務室に寄ってくれた時、念のために検査用として少しだけ貰っておいたゾムの血液……その二つのサンプルから検出された異常な成分が、完全に『同一の物質』であることが証明されたんだ」
「───っ!?」
その言葉が室内に響き渡った瞬間、会議室にいた全員が、一斉にハッと息を呑んだ。
隣に座るリオの身体が、目に見えて大きく強張るのが分かった。ショッピくんの目が鋭く見開かれ、トントンが机を叩くようにして身を乗り出す。
「同一の物質、やと……!? 待て、ぺ神。リオくんがやられたのは、この軍の内部に侵入してきたどこかの工作員が使ったガスやぞ。そんで、ゾムがそれを吸い込んだのは、遥か遠くのF国にある怪しい秘密施設の中のはずや。……なんでその二つが、全く同じ成分で繋がるんや!?」
トントンの驚愕と疑問が混ざった声に、ぺ神は静かに首を振って、説明を続けた。
「うん、トントンの疑問は当然だよ。俺も最初は目を疑った。……みんなも知っての通り、リオくんが襲われた時は、現場に残されていた成分が本当に少なすぎて、俺の『異能』がどうしても発動できなかったんだよね」


ぺ神の持つ異能───『精査』


それは、対象の肉体的な状態や、体内に入り込んだ毒物・薬物の効果、成分、構造に至るまで、あらゆる情報を極限まで詳細に分析し、看破することに特化した、医療における究極のサーチ能力だ。

けれどその発現には、ある程度の「サンプルの量」が必要不可欠という絶対的な条件があった。

「リオくんの時は、あらかじめ薬物の性質を知っていた侵入者が、証拠を残さないように極めて揮発性の高いガスとして使ったみたいでね。俺の異能の基準に達するだけの量がどうしても集まらなかった。……だけど、数日前にゾムが血を提供してくれたおかげで、状況は一変したんだ」
ぺ神は画面のグラフを指し示した。
「ゾムの血液の中にはね、まだその成分がしっかりと、分析に十分な量だけ残っていた。だから、まずは簡単な化学検査でリオくんの時のデータと照合して、同じものだって確信を得た後、俺の異能を全開にしてその中身を徹底的に調べ上げたんだ。……そしたらね」
ぺ神は一度言葉を切り、喉を詰まらせるようにして、信じられないほど不気味なトーンで告げた。

「これ、めちゃくちゃ危険な代物だってことがわかったんだ。……ハッキリ言って、異能持ちが中枢を占めている我々国にとっては、国家を揺るがしかねないレベルの、最悪の『脅威』になるかもしれない」
「……どういうことだ、ぺ神。具体的に、それはどんな効果を及ぼす薬物なんだ?」

グルッペンが、机の上で組んだ手に顎を乗せ、地の底から響くような低い声で問いかける。

ぺ神は画面を切り替え、さらに細かな構造図を映し出した。

「この薬物の本質はね、一言で言うと『異能の回路への強制的な攻撃』なんだ。普通、人間が異能を使う時って、脳や体内の神経を通じて異能のエネルギーを循環させて発現させるものでね、この成分は、体内に取り込まれると、その異能の循環システムに直接へばりついて、回路を狂わせ、内側から激しく暴走させるように作られているんだよ」
画面に映し出された図は、まるで健康な神経細胞が、未知の黒いトゲのような物質によって次々と侵食され、破壊されていく様子を克明に表しているようだった。


「吸い込んだ量が少なければ、リオくんみたいに一時的な昏睡や、ゾムみたいに神経の伝達が阻害されて『指先がピリピリと痺れる』程度の一過性の症状で済む。……だけど、もしこれをあのF国の施設みたいに高濃度に満たされた空間で、ガスマスクもつけずに大量に吸い込み続けたらどうなるか───体内の異能が完全に制御を失って暴走し、最悪の場合、自身の異能の負荷に肉体が耐えきれなくなって、内側から自滅することになる」


会議室の中を、これまでにない冷たい戦慄が駆け抜けていった。
異能持ちにだけ作用し、その最強の武器である異能を逆手にとって内側から自滅させる薬。
だからこそ、あのF国の施設にいた、普通の研究員や一般の警備兵たちは、あの奇妙な蒸気の中にいても何の影響もなく普通に歩いていたのだ。
あいつらは最初から「異能を持たない一般人」だったから、あの薬物が充満した空間にいても、これっぽっちも身体に異常が出なかったというわけだ。

「つまり敵は、我々国(うち)の強力な異能持ちの幹部たちをピンポイントで無力化し、抹殺するためだけに、その薬物を開発し、実戦に投入し始めてるって可能性が高いめう……」
いつの間にか会議室の後方に立っていたオスマンが、糸目を微かに開いて、ゾッとするような冷徹な声で呟いた。

敵の目的、そしてあの施設を満たしていた謎の蒸気の正体が、最悪な形で繋がっていく。
誰もがその恐るべき事実に圧倒され、これからの防衛方針をどうすべきか、思考を巡らせて押し黙っていた。
そんな、重苦しい静寂が部屋を支配した、まさにその時、ふと、俺の中で疑問が湧いた。

「───なぁ、ぺ神」


俺は、ずっと胸の中で引っかかっていた、あまりにも致命的で、あまりにも奇妙な『最大の矛盾』について、どうしても確認したくなって、ゆっくりと右手を挙げた。


全員の視線が、一斉に俺へと集まる。トントンも、グルッペンさんも、そして説明を終えたばかりのしんぺい神様も、俺が次に何を言うのかをじっと待っていた。

俺は、包帯の巻かれた自分の右手のひらをじっと見つめ、それからぺ神の顔を真っ直ぐに見据えて、こう言った。
「……説明はよく分かったし、それがめちゃくちゃマズい薬やというのも理解できたわ。……でもな、それやとしたら、俺にその効果が出るのって、おかしない?」

俺のその一言に、ペ神以外の幹部は一瞬だけ、言葉を失ったように目を見開いた。

「だって、その薬が『異能持ちの回路を暴走させて攻撃するもの』なんやとしたら、俺には話が通らへんやん」

俺は肩をすくめ、ここにいる全員が知っている「俺の絶対的な事実」を、いつも通りのぶっきらぼうな調子で口にした。










「──────俺、異能なんて持ってないやん」










そう、俺には異能がない。
この軍の最高幹部たちや、総統であるグルッペンは、俺が一切の異能を持たず、ただ純粋な体術と、野生じみた戦闘技術と勘だけで幹部の座に上り詰めた「無能力者」であることを、全員が最初から知っているのだ。


異能持ちにだけ作用し、異能の回路を攻撃するはずの悪魔の薬。



それなのに、なぜ、異能を一切持たないはずの俺の身体が、あの蒸気をほんの少し吸い込んだだけで、現にこうして『指先が痺れる』という明確な薬物の影響を直接喰らってしまっているのか。



俺の放ったそのあまりにも鋭い一言によって、会議室の空気は、先ほどまでの恐怖とはまた全く質の違う、底の知れない奇妙な謎の深淵へと、再び静かに引きずり込まれていくのだった。









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えー……まず土下座で謝らせてくださいorz

本当に投稿遅れてすみません……模試やらテストやら講習やらでめちゃめちゃ立て込みまして……疲労でそのまま寝落ちすることも多くて……ハイ…


無理ない程度に投稿するので!!すみませんでした!!




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