私と結衣が歌ったので、今は元貴が歌う番だ。何を歌うのか、気になった私は液晶画面を見る。すると、そこにはANTENNA、Soranji、ケセラセラと元貴が歌うであろう3曲が表示されていた。
私は、元貴がなぜ3曲も1人で歌うのか理由が分からなかった。正直、この際理由なんかはどうでもいい。
しかし、無性に気になってしまった。人は、人の考えていることを正確に把握することは出来ない。よって、
私はとりあえず、元貴が3曲も歌うのは彼が歌が好きだからという理由を勝手に脳内で作り上げ、自分を納得させた。私は、納得いかないことが嫌いなのだ。その面倒な性格のお陰で病気だとわかったときは随分大変な思いを自分にさせた。ちょっとくらいは申し訳ないと思っているが、同じ様なことはこれからも続いていくと思う。
歌が始まって私は息を呑んだ。…こんなにも、力強くて、優しい声があるんだ。なに?この声ののびは。私はただ、元貴の凄まじい声量と、歌っているときの元貴の楽しそうな顔に驚いていた。
衝撃すぎて、乗ることも出来ない。ふわふわと浮いているような気持ちになる。そして、元貴がとても輝いていた。そして、あっという間にANTENNAは終わってしまった。
やり切ったー!という顔の元貴が言う。涼ちゃんは 久々のANTENNAだった、と凄く嬉しそうにしている。
ずっと黙っていた結衣が顔をあげた。少しだけ結衣の目が赤い。
結衣の言ったことは本当だった。自分では全く気づかなかったが、私は泣いていた。
泣いていたことに気がついて、一緒だねと目で会話をしたら、もっと泣けてきてしまった。そんな私たちを見て、涼ちゃんがオロオロし始める。
すると、元貴が私にハンカチを差し出してくれた。結衣の方を見ると、滉斗と結衣も同じようなシチュエーションだった。
私たちは、微笑みあった。
ここで速報です!!
大森元貴氏は、切り替えの鬼であったと判明しました!
実は私、大のハンバーガー好きなのだ。両親と外出すると、食べるのはいつもハンバーガー。そういう具合である。特に、私が好きな夏に食べるハンバーガーはたまらない。
最悪だ。まさに、これは悪夢。そうとしか言いようが無い。ハンバーガーが、無いなんて!!!
すると、そんな私を察したのか滉斗が声をかけてきた。
結衣は、男子に呆れるとため息をつく。それも、凄く独特な。本人に自覚はないと思うが、私にはわかるのだ。
私たちはそのあと、ファミレスで昼食を食べて解散した。 途中で涼ちゃんが水を零して元貴の服にかかり、「うぎゃー!」と元貴が叫んだり、なぜかじゃんけん大会をして負けた滉斗がダジャレ10連発を披露したりして楽しく過ごした。
そう元貴に問われて私は頷く。まだ、頭の中では今日の思い出がグルグルと回っている。
そう言った元貴は、正面を真っ直ぐに見ていた。そう、ただ真っ直ぐに。つられて私も視線をむける。すると、そこには雲1つない青空が広がっていた。綺麗だ、と思った。同時に、その果てしない青さに圧倒された。わざわざ声には出さない。
元貴も同じだろう。きっと。
私たちは、ただその青い空と、今日という日を噛み締めていたかったのだ。
あぁ、今日も生きたんだ。
今も、生きているんだ。
容赦ない夏の日差しと、青い空。汗はかくけど、やっぱり私はこんな夏が好きだ。私は、そう改めて思った。


















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!