桜の花がひらひらと舞っている。そのひとつが、来夏の髪にふわりと乗った。
そのキューティクルにはしっかりとした髪のツヤがあり、桜の花びらはするりと滑り落ちていった。
高校2年生の始業式。
私と来夏は、校門の脇にある桜の木の下にいた。
去年の入学式ではこれからのことが不安で、ゆっくり桜を見る気分にもなれなかったのを思い出す。
あれからもずっと、私と来夏、あやちゃん、リカ、ミカ、ハナとは協力しながら動画投稿を続けている。
チャンネルの登録者も順調に増え続け、今はもう80万人目前だ。
新入生が私たちに気づいたようで、人だかりができはじめた。
らいかそう言うと、新入生の方に手を振った。
私はぺこりとお辞儀をする。
すると「きゃー!!」と黄色い声があがった。
振り返ると、氷室くんがいた。相変わらずメガネの奥の瞳は涼し気だ。
だけど、その視線が優しいことを、私は知っている。
笑い合いながら、校舎へと向かう。
教室には、あやちゃんやリカが待っていることだろう。
――ふと、不思議に思った。
地味子なんて言われていた私が、こんなにもたくさんの大切な人たちに囲まれていることを。
もしかしたら、これは夢なのかもしれない。そんなことが頭によぎる。
来夏は振り返ると、いつもの笑顔を私に向けてくれた。
私の不安をかき消すような、眩しくて、力強い笑顔がそこにあった。
春の風が吹く。
その風はまるで私たちを応援してくれるように、背中を優しく押してくれていた。
≪END≫