第42話

エピローグ
263
2023/10/03 10:21
桜の花がひらひらと舞っている。そのひとつが、来夏の髪にふわりと乗った。
そのキューティクルにはしっかりとした髪のツヤがあり、桜の花びらはするりと滑り落ちていった。

高校2年生の始業式。
私と来夏は、校門の脇にある桜の木の下にいた。
去年の入学式ではこれからのことが不安で、ゆっくり桜を見る気分にもなれなかったのを思い出す。
柊木 来夏
キレイだなぁ。桜ってなんだか夢瑠のイメージがあるよ
田中 夢瑠
桜は好きだから嬉しいです。
あ、そうだ。以前「桜」をテーマにしたメイクをしたことがあったんですが、今度はイエベにも合う桜メイクしてみたいです!
柊木 来夏
それいいな! 最近夢瑠のメイクレッスン系動画のメイク役はほぼ取り合いだからなー。わたしに予約させてくれよ
田中 夢瑠
はい、わかりました
あれからもずっと、私と来夏、あやちゃん、リカ、ミカ、ハナとは協力しながら動画投稿を続けている。

チャンネルの登録者も順調に増え続け、今はもう80万人目前だ。
生徒
あ、あれ夢瑠さんじゃない?!
生徒
隣に来夏さんもいるし! うち、この高校来て良かった~
生徒
ね、写真お願いしてもいいのかな
新入生が私たちに気づいたようで、人だかりができはじめた。
柊木 来夏
気づかれちゃったか
らいかそう言うと、新入生の方に手を振った。
私はぺこりとお辞儀をする。

すると「きゃー!!」と黄色い声があがった。
氷室 彰
もうアイドルだな
田中 夢瑠
氷室くん!

振り返ると、氷室くんがいた。相変わらずメガネの奥の瞳は涼し気だ。
だけど、その視線が優しいことを、私は知っている。
氷室 彰
おはよう。彰って呼ぶ約束でしょ
田中 夢瑠
……そうでしたね
天ヶ崎 翔
……どうやらオレらは邪魔者みたいだね
柊木 来夏
そうだな
田中 夢瑠
ちょっと、ふたりとも茶化さないでください!
笑い合いながら、校舎へと向かう。
教室には、あやちゃんやリカが待っていることだろう。
――ふと、不思議に思った。

地味子なんて言われていた私が、こんなにもたくさんの大切な人たちに囲まれていることを。
もしかしたら、これは夢なのかもしれない。そんなことが頭によぎる。
柊木 来夏
どうした?
来夏は振り返ると、いつもの笑顔を私に向けてくれた。
田中 夢瑠
来夏、私たちって……親友ですよね
柊木 来夏
はぁ? 当たり前のこと聞くなよ。最高の親友に決まってるじゃん!!
私の不安をかき消すような、眩しくて、力強い笑顔がそこにあった。
柊木 来夏
早く行くぞ?
田中 夢瑠
――はいっ!!
春の風が吹く。

その風はまるで私たちを応援してくれるように、背中を優しく押してくれていた。











≪END≫

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