第17話

第17のはなし
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2026/05/16 18:00 更新

境界は静かに揺れていた。

さっきまで安定しかけていた空間が、ばぁうの言葉ひとつでまた呼吸を変える。

「意味を持たないまま、受け入れる」

その言葉が、この場所では異物みたいに響いていた。

しょうが小さく呟く。

『意味を持たないって……じゃあ、僕は何になるの』

ばぁうはすぐには答えない。

代わりに視線を遠くへ向ける。

「何にもならない可能性がある」

しゆんが息を飲む。

「それって……消えるのと違うの?」

ばぁうは首を振る。

「違う」

「“誰かに定義されない状態”になるだけだ」

てるとは少し考える。

「それってさ、自由ってことじゃないの?」

ばぁうの目がわずかに細くなる。

「自由はそんな綺麗なもんじゃない」

「ここではただの“空白”だ」

空間の奥で、ひびがもう一度走る。

今度は映像ではない。

声だった。

ばぁうの声。過去のばぁうの声。

『救えなかったなら、見なきゃいい』

『関わらなきゃいい』

『そうすれば壊れない』

しゆんが振り向く。

「これ……」

ばぁうは静かに言う。

「昔の俺だ」

空間に過去が流れ込む。

ばぁうが誰かを見捨てた瞬間。
助けられなかった選択。
背を向けた記憶。

そのすべてが、この境界に記録されている。

てるとは眉をひそめる。

「ここって……人の後悔が集まる場所?」

ばぁうは否定しない。

「後悔だけじゃない」

「選ばれなかった選択の残り全部だ」

しゆんが小さく呟く。

「じゃあ僕たち、ずっと“残り”の中にいたんだね」

しょうがゆっくり顔を上げる。

『残り……』

その言葉を反芻する。

でも、そこに拒絶はない。

ただの理解だった。

ばぁうは続ける。

「しょう、お前は“祈られすぎた残り”だ」

「しゆんは“期待されすぎた残り”」

視線がてるとへ向く。

「お前は」

少し間。

「“背負おうとしすぎる残り”だ」

てるとは一瞬固まる。

「それ、褒めてる?」

「事実だ」

即答。

空間がわずかに歪む。

でも崩れない。

むしろ整理されていくように揺れている。

しゆんが一歩前に出る。

「じゃあばぁうは?」

全員の視線が集まる。

ばぁうは少しだけ黙る。

そして静かに言う。

「俺は“切り捨てた残り”だ」

沈黙。

その言葉だけが妙に重かった。

てるとは小さく息を吐く。

「それ、全部同じ場所に集まってるってこと?」

ばぁうは頷く。

「だから境界だ」

「全部が途中のまま混ざってる」

しょうがゆっくり言う。

『じゃあ……ここから出るには』

ばぁうは視線を上げる。

「一つだけ方法がある」

空間が静かになる。

ばぁうは続ける。

「“誰かの意味で生きるのをやめること”」

しゆんが小さく息を飲む。

「それ、さっきの続きだね」

ばぁうは頷く。

てるとは少し笑う。

「じゃあさ」

全員を見る。

「もう答え出てない?」

しょうの目が揺れる。

しゆんが静かにうなずく。

ばぁうは何も言わない。

でも、否定もしない。

境界が大きく揺れる。

ひびが走る。

今度は崩壊ではない。

再構築の兆し。

ばぁうが低く言う。

「決めるのは俺たちじゃない」

視線がしょうに向く。

「お前だ」

しょうは静かに息を吸う。

そして初めてはっきり言葉を選ぶ。

『僕は……』

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