第14話

14.防波堤の解釈
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2026/06/29 14:06 更新
北信介
……これからは、本当に俺のそばにおり。俺が、君の能力の防波堤になるから

 夕暮れの体育館の入口で、北信介さんは至極真面目な顔をしてそう言った。


 三白眼の奥にある光は、冗談を言っているようには到底見えない。
あなた
お、俺のそばにおり……!?


 私は驚愕のあまり、声が裏返った。

 能力の暴発を防ぐため、物理的に盾になってくれるという意味なのは分かっている。
分かっているけれど、推しからそんなセリフを生で聞かされたら、心臓のメーターが振り切れてしまいそうだ。



 私がフリーズしていると、背後から「ヒューッ!」という下品な口笛が聞こえてきた。
宮侑
聞いたかサム!? 北さんが『俺のそばにおれ』やて! あのお堅い北さんが、女子相手に公開プロポーズかましとるで!
 案の定、宮侑がニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて茶化してきた。
宮治
ほんまやなツム。北さんも男やったんやな。あのロボットみたいに完璧な北さんが、あなたの苗字さんを前にしたらただの雄(おす)や

 治くんもおにぎりを口に放り込みながら、失礼極まりない相槌を打つ。


 二人の発言に、私はヒッと息を呑んだ。



 ...怒られる。



あの二人は絶対に、北さんの無慈悲な『正論』の刃でズタズタにされる。

 案の定、北さんはゆっくりと振り返った。その瞳には、一分の感情の揺らぎもない。
北信介
侑、治
宮兄弟
「「ひっ」」
北信介
お前らは、言葉っちゅーものを安易に使いすぎや
 北さんの、静かな、しかし有無を言わせない声が響く。
北信介
俺が『そばにおれ』言うたんは、白石さんの特殊な体質——緊張して人に触れると相手の語彙力を幼児化させてしまうという、偶発的な事故のトリガーを、俺が身を挺して防ぐという意味や。
北信介
お前らみたいに語彙力の低いアホの子が量産されたら、部活動のプロセスに多大な支障が出る。それを防ぐための、極めて論理的で効率的な配置の提案や


 ……長っ!!

 そして、なんて夢のない、血も涙もない完璧な正論なんだろう。

宮侑
な、なるほど……!
 侑が、北さんの圧倒的な情報量と迫力に押されてコクコクと頷いた。

宮侑
つまり、北さんはあなたの苗字さんを『好き』とかやなくて、単に『これ以上アホが感染らんようにするための隔離壁』として、自分の横に置くっちゅーことか!
尾白アラン
お、おいツム……それ、言い方を変えただけで、あなたの苗字さんに対してめちゃくちゃ失礼なこと言うとるぞ
 アランくんが背後からすかさずツッコんだ。
宮治
せやな! あなたの苗字さん=危険なウイルス、北さん=防護服ってことやろ!?
 侑が私の肩に(能力を恐れてギリギリ触れない距離で)手をかざした。
宮侑
明日からの部活、北さんの真後ろが君の定位置や! 北さんを盾にして、俺らに絶対に触れんように監視するんやで! いわば、北さんの『警護対象』や!
あなた
け、警護対象……?
宮侑
せや! なんか格好ええやろ! 稲荷崎バレー部主将直属の、最高機密や!
 侑はすっかり乗り気になって、楽しそうに笑っている。







 こうして、私のポンコツ能力のせいで、私は明日から部活中、ずっと北さんの後ろに張り付くという、ファンから見たら暗殺されかねない『特別ポジション』を与えられてしまったのだった。



(第14話 完)

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