第2話

ヤクザの抗争 の巻
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2024/11/22 17:22 更新



「坊、暫くコッチには近づくな」

臣のスクランブルエッグのふわふわと優しい匂いに包まれる朝。

朝食を食べていた莇にオッサンが一言。

毎日のように誰かに注意する口調ではなく、スマホを操作しながら焦った様子で言った。

その声に、俺を含めてその場にいた誰もが違和感を感じる。

「………、分かった」

莇も莇で、いつもは「あ?なんだよ?」なんてすぐに突っかかるくせに、素直に頷いた。

「アニキィ!!」

「ったく、、、朝から騒がしいな....、様子はどうだ」

「割とヤバイっすよ。なんでも、今回は会長を狙っているとかで………」

「そうか、組には顔出さずにそのまま直行だ。行くぞ」

「アイアイサー!」

意味ありげな会話をしながら出ていく左京さんへ、臣が言う。

「左京さん、行ってらっしゃい」

届いたのか届いていないのかは分からないが、やがて玄関の戸を閉める音が聞こえた。

「なあ、莇。今の何なの?」

気になった俺は目の前の莇に話しかける。

他の奴らも興味があると言わんばかりにこちらを見ていた。

「組同士の抗争」

「抗争?!」

莇以外の劇団員の声が一つに重なり、眠そうだった莇も流石に驚いた表情だ。

「なんだよ………そんな大きい声出すなよ………」

「組同士の抗争ってなんだよ」

「あー、えーと、例えばほら、タイマンアクトとかあるじゃん。あれのヤクザバージョン。どっちかから喧嘩吹っかけてドンパチするんだよ」

「ヤクザが演技対決すんのか?」

蜂蜜をたっぷりかけた見ているだけで胸焼けする甘いトーストを食べながら、興味ありといった様子で兵頭が聞く。

「バカ兵頭!演技じゃなくて喧嘩だっつの!」

けっ、と馬鹿にするように言ってやると、そうかと言ってまたトーストを頬張る。

「それってその、危ないやつなんじゃないのか?」

珈琲を飲む綴さんが聞くと、莇は食べ終わった皿を片付けながら頷く。

「当たり前。本物のチャカなんかを使うからな。だから抗争が始まると、俺は組に近づくなって言われて家追い出される。家まで襲われることはそうそう無いけど念の為ってことで」

本物のチャカ………。

当たり前だけど実際に触るどころか、見たことすらない。

俺たちがピカレスクの時に使ったのは所詮おもちゃの拳銃だ。

ふと目の前を見ると、兵頭も意味ありげな顔をしてこちらを見ている。

こいつも旗揚げ公演を思い出してるのかもしれない。

「....なんだ、お前にこのトーストはやらないぞ?」

「兵頭、てめぇ…………そんなトーストいらねえよ!!」

やっぱりこいつは馬鹿だ。

「それって人が撃たれたり刺されたりして傷とか負うことあんの?」

スクランブルエッグをつつきながらLPを減らしていた至さんが顔をあげて聞く。

「まあ、多少は。組の頭は抗争の表舞台には出ないから基本は下っ端だけど。中には重体で病院送りになるやつもいる。俺の知っている奴では死んだのもいる。相手によって変わるけど」

「死ぬの?!」

怖っ、と呟いて顔を歪ませる至さん。

俺はごちそうさま、と言って談話室を出た。









もう二十日ほどは寮に帰っていないだろう。

思ったよりも長く続いた抗争は、未だに終わる気配が無い。

監督さんには稽古に出れないことを伝えたし、伏見には飯を作らなくていいと言った。

丁度秋組公演が終わり、イベントも何もない時期だったから劇団に関しては忙しくない。

それでも時々、無性に寮に帰りたいと思ってしまう日がある。

ちゃんと稽古はしているか、監督さんに迷惑はかけていないか、質素倹約節制をしているか…

考え始めたらきりがない。

けれど今は劇団のことに気を取られている場合ではないようだ。

今までより長く続く抗争。

親父さんが腰を上げる前に、早く片付けないといけない。

あの年の親父さんがシマに出るのは危険だろう。

最悪の場合、命を落とす可能性だってある。

親父さんはそれを覚悟で組長をやっているようだが、俺はそんなことにしたくはない。

拾ってくれた恩をまだ返せていないのもそうだが、一番は坊のためだ。

早くに母親を亡くしているのに、親父さんまで喪ったらと考えると、絶対にあってはならないことだ。

そんなことを考えながら面倒くさい輩を始末していく。

少し経ってから、別の場所に行っていた迫田が焦った様子で戻ってきた。

「アニキぃ!」

「なんだ」

「大変なことになりやした!」

青褪めた表情に、俺と共に雑魚どもを始末していた槙田も緊張した面持ちになる。

「すぐそこの廃ビルでドンパチが!!」

「銃か……?!」

腰に手をかける槙田を制して、迫田に聞く。

「銃だけか?」

「違いやす、他にもいろんなものが持ち出されて……」

それはマズい、咄嗟に槙田と顔を見合わせた。

廃ビルで爆発なんか起こされたら、何十人と死者が出る。

他のところまで被害が及ぶかもしれない。

「迫田、車を回せ」

組へ用意しに行こうと歩き出す俺を、迫田は止めた。

「それだけじゃないんす!今夜、今夜………」



"会長が出てくるって"



「……おいおい、それはヤベェぞ」

笑い事にならないとでも言うかのように槙田の顔が歪む。

「迫田、とにかく急いで車を回せ。槙田は先にビルに行って状況を見てきてほしい」

黙って頷くと全員がバラバラに散らばる。

それにしても大変なことになった。









「これで十八日目か………」

夕食当番の書かれたカレンダーを見つめながら、臣が呟く。

「なあ、左京さんまだ帰ってきてねえの?」

宿題をする莇にそう聞くと、黙って頷かれた。

「左京にぃ、ちゃんとご飯食べてるかな………」

「重症でも負ってないといいが……」

太一も兵頭もここのところ元気がない。

それもそのはず、もう二十日ほどオッサンの顔を見ていないからだ。

寮にも帰ってきていないみたいで、今のところ目撃情報は全く無い。

いつもは小言を言われると苛々しているくせに、いざ静かになってみると嫌なもんだ。

「………こんなに長く抗争が続くのはおかしい」

「は……?」

「銀泉会はこの辺りじゃ強い方だ。そこまでのことがない限り抗争なんてすぐに始末する。一日のときもある。こんなに長く続く抗争は俺が知っている中では初めてだ」

莇の言葉にその場にいた秋組全員が息を呑む。

「もしかしたら…………殺られてるかもしれねぇ」

静かな談話室に莇の声が響いた。

そんな、と太一が声を震わせる。

「いや、もしかしたらの話だ。第一、そんなことになったらケンさんが俺に伝えに来るだろ。どうせクソ左京のことだ。殺しても生き返ってきやがる。それに、この劇団を残して死んでいくほど頭ぶっ壊れてねぇだろ」

不安になりながらもそうだよな、なんて少し安心してしまった。

あのオッサンのことだ。

死んでも質素倹約節制を掲げて生き返ってくるだろう。

夕食の支度を始めた臣の手伝いをしながら、どうか無事で帰ってきてほしいなんて、柄にもなく思ってしまった。




夕食を食べ終え、8時からやっていたTV番組を太一と見ていると、誰かの携帯が鳴った。

「あーちゃんの携帯じゃないっすか?」

「ああ、わり」

スマホを覗き込んだ太一に、雑誌を読んでいた莇が返事をする。

ケンさん……と呟いて雑誌を置き、電話に出る。

談話室にいた全員が左京さんの舎弟の名前に反応した。

何かあったのか、そう思った。

「ケンさん、どしたの?クソ左京?あいつがどうした…………は、?」

目を見開いて俺を見つめる莇にどうした、と声をかける。

数秒置いて、莇の手からスマホが落ちた。

ゴトン、となったスマホを拾い上げ、スピーカーモードにした。

『莇?!おい、聞いてるか?!』

「迫田さん、俺。摂津万里。なあ、何があったの?」

『あぁ、それが…………』





"アニキが撃たれて病院搬送されて………!"





うるさかった談話室が、水を打ったように静まり返った。

「は………?冗談っすよね…………?」

聞き返した俺の声は震えていて、自分ではないかのようなか細い声を出していた。

『とにかく、〇〇病院に搬送されたから!』

そのままブツッと電話は切れて、プープーと無機質な音だけが残った。

「ヤダ…………ヤダよ……………左京にぃ、」

ふるふると首を振りながら目に涙を溜める太一。

臣や兵頭もグッと唇を噛み締めている。

何もかもが止まったかのような談話室。

呆然と立ち尽くす莇に、俺は何も声をかけてやれなかった。









廃ビルに近づくと、すぐに銃の音が聞こえてきた。

腰に挿した銃を2本とも取り出して中の弾を確認する。

「行くぞ」

後ろに連れてきた組の奴らの先陣をきり、階段を登って音のする方へ向かう。

血飛沫が広がる薄暗い部屋に、生々しい怒声と乾いた発砲音が響いていた。

唖然とするのも束の間、気づいたときには相手に向かって走っていた。

何時間かした頃、後ろがザワザワとうるさくなった。

何事かと思い振り向くと、そこには親父さんが立っていた。

「クソっ、来ちまったか…………」

わっとうるさくなる相手に、親父さんが一言。

「静かにせいっ!!」

鶴の一声とはまさにこのことだろう。

一瞬で静かになってしまった。

「黒松の野郎は何処におる」

有無を言わせない声にその場にいる全員が凄む。

親父さんが何かを話していたとき、斜め前でカチャッと小さな音がした。

見ると相手の組の奴が銃を構えようとしている。

誰も気がついていない。

俺は咄嗟に駆け出した。

劇団で鍛えた大声を出す。

「親父さん、!!!!!!」

前に出たときには既に腹部に痛みが走った。

膝から力が抜け、崩れ落ちる身体をどこか他人事のように感じた。

埃っぽい床に肩がつく前に、槙田の腕に支えられる。

鈍い痛みがする腹部を抑えると、生暖かい液体がじわりと広がるのが分かった。

迫田が駆け寄ってくるのも、組の幹部が会長を守るように銃を構えるのも、全てがスローモーション。

ふらっと意識が遠のいて、視界がぼやけていく。

「アニキぃ、アニキぃぃいいいいいいいいいいぃ!!!!!!!!!」

迫田の馬鹿でかい声で一瞬現実へ引き戻されるも、依然として意識は朦朧としたままだ。

「あい、つら………秋組のや、つらに………………つた、えとけ……………俺は、……………」

体がふわっと宙に浮いたような感覚を覚え、ガクンと意識が途絶えた。

「迫田、電話だ!救急車呼べ!」

「槙田さ、ん……………」

「泣いてる場合か!早く呼べって!」

「わ、分かりやした………!!」

耳に残る最後の声は、震えた迫田の声だった。







「………左京…返事、しろって………」

気味が悪いほどに真っ白なベッドに寝かされた顔は青白く、まるで人形のようだった。

声をかけても起きないことは来たときから分かっていたこと。

それなのに未だ声をかけ続ける莇。もうここに来てから30分も経っている。

初めて病室に入ったとき、涙を流して病室を出ていった太一。

それを追いかけた臣。二人とも何処へ行ったのやら帰ってこない。

看護師さんが用意してくれた秋組の人数分の椅子は二つ空いたままだ。

椅子に座ったまま、微塵も動かずに俯いている兵頭。

そして俺は左京さんの冷たい手を握ったまま動く気配のない長い睫毛を見つめていた。

迫田さんからの電話が来たあと、時が止まっていた談話室を動かしたのは紬さんだった。

「……行かなきゃ」

涙のせいか、はたまた恐怖のせいか、震えた声でそう言った紬さんに丞さんが頷いた。

「俺が車出す」

そう言って立ち上がると、談話室から出て行った。

「でも、俺…………見たくないよ、フルーチェさんが、、」

いつもの談話室なら確実に聞こえないだろう声で一成が言った言葉に、誰もが返す。

「俺も」

「ぼ、僕も…………」

「、、ワタシもだ……」

賛成していく声が多い。そして太一が声を発したときだった。

「お、俺っちも……」

「俺は行く」

その声は一際大きく、そして誰よりも震えていた。全員の視線を一気に集めたソイツ……

莇は、真っ暗な画面のスマホを手にして立ち上がった。

「このまま死なせられっか。あいつは、……左京はこの劇団を捨てて旅立つことはない」

さっきまで過呼吸だった最年少が立ち上がったことに、俺は内心嬉しくなった。

「………だよな。まだ左京さんに認めてもらえてないことがある」

「このまま終わらせられるわけねぇ」

「……………流れ者銀二の再演、左京さん以外となんて出来ないしな」

莇の次に俺、兵頭、臣が続く。止まることを知らない涙を拭って立ち上がった。

驚いた表情でこちらを見つめていた太一に手を差し伸べる。

「太一、このままお別れでいいのか。まだ言ってないことがあるだろ……?」

俺の手に、震えた右手が滑り込んだ。無理やり笑顔をつくって立ち上がる太一の頭を撫でる。

「俺ら秋組が、必ず左京さんを連れて帰ってくる」

心配が顔に表れたままの咲也に微笑みかける。

「咲也」

「……万里くん」

「天馬」

「………なん、だ」

「紬さん」

「うん、」

「俺らが左京さんを連れて帰ってくるから、それまで監督と全員のこと、よろしく頼む」

頭を下げた俺の横で、莇が深くお辞儀した。

「左京が迷惑をかけて悪かった」

「………行ってらっしゃい」

優しく微笑んだ紬さんに微笑み返し、しゃくりあげる咲也と天馬の背中を叩いた。

「行ってきます」









随分と懐かしい夢を見ていた。

小さなアパートから小学生くらいの男の子が出てくる。

切羽詰まった様子でアパートの階段を下りると、迷いなく右へと曲がった。

そのまま数分駆けていく。

止まることのないその少年の瞳はキラキラと輝いて、希望に満ち溢れていた。

そして大きな三角屋根の前で急ブレーキをかけて止まる。

転びそうになったところを誰かが支えた。 

「おいおい左京、また走ってきたのか」

「危ないから周りを見て歩いて来い!」

説教めいたことを言うが、少年を撫でる手は優しい。

「今日は秋組の稽古だ。見ていくか?」

そう聞かれると、紫水晶の瞳をギュッと細めて大きく頷いた。



場面は変わった。

さっきとは打って変わったように虚しい場所だった。

白と黒だけの世界のように、廃れた工場が立ち並んでいる。

そこに一人の青年が横たわっていた。

体中に傷を作り、雨に打たれている青年。

生々しい傷に似合わない金色の髪から雨が滴り落ちる。

息をしているのかしていないのかもわからない。

暫くして一台の大きな車がやってきた。

車は青年の前で急ブレーキをかけて止まると、やがてガチャっと音を立てた。

中から出てきたチンピラの格好をした男が傘をさしながら後部座席を開く。

チンピラがさした傘の中にゆらりと入ってくる大男。

バシャバシャと水溜りを蹴って青年の前に立ったそいつは、青年の胸倉を掴んだ。

立派な袴が雨水に濡れることも構わずにしゃがみ、青年にぐっと顔を近づける。

「おい、」

ドスの効いた声でそう呼ぶと、気を失っていた青年は薄く目を開けた。

大男に掴まれていたことに気がつくやいなや、その腕を払い除ける。

威嚇した動物のようにキッと睨みつけ、今にも飛びかかりそうな様子の青年に大男は一言。

「良い目をしている」

ただ、それだけ。



また場面は変わった。

次は割れんばかりの拍手がそこを包み込んでいた。

スポットライトが眩しく光るステージの上には、五人の役者が立っていた。

赤い髪のやつは手を振りながら泣いているし、顔に傷のあるやつはそれを慰めていた。

紫色の髪をした青年は大きな拍手に呆然としていたが、その顔はやがて笑顔に変わった。

薄い茶色の髪をした青年もまた、楽しそうに笑いながら客席にお辞儀をする。

そしてその中央に立っていた金髪のやつは、目に水の膜を張っていた。

黒い着物の袖に手を突っ込んだまま、その目は切なく笑っている。

観客席を見つめるでもなく、TVの取材のカメラを見つめるでもなく、どこか遠くを見つめながら、何か思いにふけている様子だった。



そして場面が切り替わった。

次に見たものは、真っ暗な部屋の片隅に座っている男性の姿だった。

あの少年と同じ瞳をしていて、

あの青年と同じ髪の色で、

あの役者と同じ、

切ない目をしていた。

その男は呟いた。

「また、あの舞台に立ちたい」

たった一言、その前にも後にも言葉は無かった。

俺はその男の目の前に立った。

顔を下に向けたまま黙っている男を見つめた。

そしてその男の顔をぐっと持ち上げ、涙に揺れている瞳を見つめた。

「劇団を置いて死ぬのか」

ぼわん、と紫水晶の瞳が光る。

何かを伝えようと口をパクパクとさせるその男を立たせ、その後ろに立った。

「お前には帰るべき場所があるだろう」

そう言ってその男の背中を押す。

俺の手に重なっていたのは、

希望と夢を握りしめた少年と、

苦しみと夢を握りしめた青年と、

叶えられた夢を強く、そして壊さないように、握りしめた役者の手だった。



「行ってこい」



お前の幼少期のように、夢を抱えた少年に会ってこい。

あの青年のように道を外したやつに手を差し伸べてこい。

拾ってくれた組長に感謝を伝えてこい。

一緒に舞台に立った秋組の奴らに伝えたかった思いを伝えてこい。

監督や他の劇団員に伝えたかった思いを伝えてこい。

お前にはまだやるべきことがあるだろう。



もう一度、舞台に立ってこい。




































目を開ける。

ぼやけた頭にすーっと気持ちのいい風が入ってきたかのように、意識を取り戻す。

それと同時に、懐かしい夢も溶けていくような感じがした。

指を動かそうとすると、何かに押さえつけられていて動かせない。

俺の手を押さえつけているそれをぐっと握ると、人間の感触だった。

そしてその手がピクッと反応すると同時に、聞き慣れた声がする。

「……左京さん、?」

むくりと起き上がって俺の顔を覗き込むと、手元にあったナースコールを力強く押した。

「ふ、しみ………」

ナースコールの音で起きた奴らの顔を見ると、さっきの夢のように懐かしくなる。

「さ、左京…………」

「左京にぃ!!」

「おい、オッサン!左京さん!分かるか!」

「左京さん、俺です………兵頭です!」 

ズキズキと痛む脳に大きな声が響く。

「うっ、せぇ………ちったぁ………し、ずかにしろ………」

「左京にぃ!!!!!」

叱っているはずなのに嬉しそうに笑う七尾に呆れて笑みが溢れる。

看護師さん達がやってきていろいろと言ったあと、すぐに迫田と槙田が来た。

「アニキ……アニキぃぃいいい!!!」

泣きながら抱きついてくる迫田を宥めなる槙田も泣いていた。

「なん、で………泣く………?」

「左京さん、撃たれて病院に送られたんですよ」

「そのまま1週間目を覚まさなかった」

伏見と兵頭も目に涙を溜めながら嬉しそうに笑った。

その笑顔に劇団のことを思い出し、早く帰りたいと思ってしまう。

「そういえば、顔に傷…………」

役者として顔に傷がつくのはなんとしてでも避けたい。

起きて早々それかよ、なんて笑う摂津の隣で俯く坊が、やっと顔を上げた。

目を真っ赤に腫らし、涙で顔をグシャグシャにしながら俺に近づく。

「顔に傷がついても……、俺がいくらだってメイクで隠してやる………。だから、だから、もう二度と………自分の命を危険に晒すな………。お前の命は、今は劇団の命なんだよ……!!」

いつも反抗しかしない坊が泣きながら俺の手を強く握ってくる。

それにつられて、俺の目からも止めどなく涙が溢れた。

「お前、の………親父さんを死なせたくなかった………。もう、家族を亡くすのは嫌だろ…?母親も父親もいなくなったお前に、俺は一生合わせる顔がねぇ………。だったら俺が、死んだほうがマシだって………」

酸素マスクを曇らせながら喋る俺に、坊が叫んだ。

「いい加減気づけよ!!お前はもう、俺の親父も同然なんだ!!!大切な父親で、家族で、劇団員で…………俺の、俺の憧れなんだよ………」

「坊………」

「莇、」

「あーちゃん…………」

ガキみたいに大声を上げて泣く坊の頭を撫でてやる。

大きくなった背中は、今はあの頃の小さな少年のようで、まだまだガキじゃねぇかなんて、そんな当たり前のことに気がついてしまった。

暫くして親父さんに起きたことを報告しに行くと言って迫田と槙田が帰ると、

残った秋組の奴らは劇団の様子を話し始めた。

「あの日からお通夜状態っすよ」

摂津の言葉に俺が笑うと、笑い事じゃねぇと怒られた。

「密さんは3日間くらい失踪したと思ったら風邪ひいて帰ってくるし」

珍しかったなぁ弱った密さん、と伏見が笑う。

「俺っちを含めて、学生組なんて毎日学校行きたくないの連発ッスよ!」

「至さんはイベント中なのにゲームに手を付けてなかったな……」

七尾や兵頭も困ったように笑っていた。

「あ、そういえばオッサン」

思い出したように俺に顔を向けてくる摂津に、なんだと答える。

「迫田さんに言われたんだけど、俺らに伝えてくれって言われたことがなんだか分からねえって困ってたっけよ。なあ、あんたは何を伝えようとしたんだ?」

摂津に続いてきょとんとした表情で俺を見つめてくる五人に、ふっと微笑んだ。

「俺は………」





"俺は、お前らと芝居が出来て楽しかった
 お前らと出会えて、夢を叶えられて楽しかった"





「……ふっ、まだ言わねえよ」

「え、ちょ、さきょにい!!!」

「そこで止められると気になんだろクソ左京」

















爽やかな秋風に吹かれ、

柔らかい陽に照らされるその菊の花のように、

美しく咲き誇るお前を、

俺たちはまだ見ていたい。

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