「似合わないと知っている」
その日は、やけに距離が近かった。
樹と京本。
隣に立って、顔を寄せて、
同じ画面を覗き込んで、
小さく笑い合ってる。
なんてことない光景。
仕事の延長。
いつもの空気。
ただそれだけなのに。
慎太郎の胸の奥だけが、
ひどくざわついてる。
———
慎太郎side
(……俺なんかより、きょもの方が似合うよな)
自然に浮かんでしまう言葉。
京本は華奢で、線が細くて、
隣に立つとバランスがいい。
樹の横に並んだときのシルエットが、
ちゃんと“絵”になる。
自分はどうだ。
背もあって、がっしりしてて、
笑えば声もでかい。
(樹はきっと、華奢な子の方が好きなんだろうなぁ…)
勝手な決めつけだって、分かってる。
でも、その勝手さが止まらない。
———
京本が樹の腕に軽く触れる。
樹は嫌がらない。
むしろ普通に笑ってる。
胸が、じわっと熱くなる。
嫉妬だと認めたくない感情。
(そもそもさ)
慎太郎は視線を逸らす。
(俺、恋愛対象じゃないだろ)
樹はきっと、女の子が好きだ。
普通に。
自然に。
自分みたいなのは、
きっと“仲間”で、“友達”の中の一人。
それ以上でも、それ以下でもない。
———
些細なこと。
ほんの些細な距離。
肩が触れただけ。
笑い合っただけ。
名前を呼び合っただけ。
なのに。
その全部が、
心に刺さる。
(こんなことで落ち込むとか、だせぇな)
自分で自分を笑う。
でも、笑えない。
———
jr「慎太郎?」
不意に樹の声が飛んでくる。
反射で顔を上げる。
目が合う。
それだけで。
それだけで、胸が跳ねる。
(やめろよ)
こんなふうに、
一瞬で希望を持たせるな。
どうせ特別じゃないのに。
———
好きだ。
嫌になるくらい、好きだ。
諦めようとするたびに、
逆に増えていく。
抑えようとするほど、
濃くなる。
(きょもみたいに細くなれたら)
(もっと静かで、上品だったら)
(せめて、女の子だったら)
意味のない仮定が、頭の中を回る。
でも結局。
どれだけ比べても、
どれだけ自分を下げても、
樹を目で追うのを、やめられなくて。
———
樹がまた笑う。
その横に京本がいる。
胸が痛い。
でも。
(それでもいいから)
そばにいたい。
恋人じゃなくていい、なんて嘘だ。
本当は。
恋人になりたい。
触れられたい。
選ばれたい。
隣に立ちたい。
届かないと分かってるのに。
分かってるのに。
今日もまた、
樹の背中を目で追ってしまう。
好きな気持ちだけが、
静かに、確実に、
増えていく。
止められないまま。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。