<時透side>
お館様様がいらっしゃると声がかかると、みんなは慌てて身だしなみを正す。
暑いことはお館様も一緒だから、少し着崩していても許されると思うけれど、やはりそういうことは僕たちにはできない。
お館様もまた、僕たちの前で着崩す気はないのか、夏用の薄い着物をしっかり着ていた。
柱合会議が始まってすぐ、僕は少し身体に違和感を覚えた。
来る前に短時間だけど鍛錬していたから、身体の内側に熱が籠っているのだろう。
だけど、お館様の話を遮ってしまうわけにはいかない。
まあ何とかなるだろう、と軽く考え、僕はそのままの状態で話を聞いていた。
だけど、それからしばらくして柱ひとりひとりからの近況報告辺りになってくると、だんだんと頭がぼうっとして考えられなくなる。
言おうと思っていたこともわからなくて、でもちゃんとしなくてはと思って、僕は唇を噛む。
手をキツく握って、爪を手のひらに刺す。
それでなんとか正気を保ち、頑張って話を聞いていたけれど、徐々に目の前が歪んできた。
まずいな、と思う。
前の人の姿でさえぐにゃぐにゃ歪んで、誰かすらもわからない。
───このままじゃあ、倒れるな。
そう思って、僕は片手を床につける。
さりげないその仕草に気がついた人は、恐らくいなかっただろう。
今からでも退室した方が良いのかもしれないけれど、そうなると心配をかけてしまう。
だが、このままにして倒れても、迷惑をかけてしまうだろう。
どちらにせよ、柱合会議を止めてしまう。
それならいっそ、そのまま我慢して我慢して、倒れても自分の屋敷に帰ってからにしよう。
病は気から。
倒れるかも倒れるかも、と思っていたら本当に倒れてしまいかねない。
俺は何とか声を出したが、その瞬間に酷い吐き気と眩暈に襲われ、言葉を止める。
僕の異常に気がついたみんなが、ハッとして僕を振り返った。
言葉を紡ぎたいのに、紡げない。
焦って、それでも体調はどんどん悪くなって、ふいに、ぐらりと僕の身体が揺らいだ。
甘露寺さんが驚いたように、胡蝶さんが僕を叱るように、僕を呼んだ。
身体が床に打ち付けられる。
全員に痛みが走って、、、僕は意識を手放した。
<胡蝶side>
時透くんの様子が変だと思ったのは、お館様が時透くんに近況報告をお願いする少し前だった。
時透くんの呼吸が少し荒くなり、時透くんはそれを必死に隠しているようだった。
時透くんはお館様に忠誠を誓い、柱合会議も大切に思っているから、止めてはいけないと思っているのだろう。
私が止めて時透くんの身体を診たかったけれど、それは流石に気が引けた。
もしもの時のために、薬の材料となる薬草をいくつか持っていることをこっそり確認し、私は時透くんの様子を気にしていた。
時透くんの反応が少し遅れたことが、私は気になった。
「はい」と言ったのに、時透くんからのそれからの言葉がない。
どうしたのだろう、と思って時透くんを振り返ると、時透くんは真っ青な顔をしていた。
声をかけようとした次の瞬間、時透くんの身体がぐらりと傾く。
私は叫ぶように時透くんを呼び、時透くんに駆け寄る。
私が時透くんを診ているうちに、伊黒さんがお館様に状況を説明する。
時透くんは、脱水症状を起こしていた。
じんわりと身体から熱が伝わってきて、熱を自分の中に溜め込んでいたことがわかる。
水も、飲んでいなかったのだろう。
私は自分の瓢箪を取り出したが、それは既に空になっていた。
そういえば、ここに来る途中に全て飲んでしまったのだったっけ。
私が瓢箪を投げるように置いて苛立っていると、悲鳴嶼さんが私を呼んだ。
振り返ると、悲鳴嶼さんは自分の大きな水筒を、私に向かって差し出していた。
私はそれを受け取って時透くんの口に飲み口を当て、ゆっくりと傾ける。
こくりと微かに時透くんの喉が動いて、口に含まされた水を飲み込んだ。
不死川さんと煉獄さんが、隠を2人呼んで来てくれた。
ほぼ同時に、どこかに行っていた宇髄さんと冨岡さんも帰ってくる。
みんなの協力もあって、時透くんは速やかに蝶屋敷に運ばれて行った。
柱合会議は中止、また今度の機会にやり直すことになった。
時透くんには少しの間の絶対安静令がお館様から出され、蝶屋敷の子達も時透くんを見張っている。
何か無理をしようとしたら、容赦なく隠の方に言いつけてお館様に鴉を飛ばしてもらえと言っておいた。
手早い処置のおかげもあり、時透くんの目が覚めたのは、倒れてから約半日後だった。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!