中学に入学して約1ヶ月。慣れない学校生活に少々疲れてしまったのか、兄ちゃんの体調が不安定だった。低血圧なため朝起きて頭痛を訴えてきたり酷い時はそのままトイレに行って戻したり。ストレスと寝不足に加え栄養不足でそろそろ倒れてしまうんじゃないかと心配になる。
親のこともあり今はあまり学校に行けていないため勉強も遅れてるし、入学早々1ヶ月の半分くらいは休んでる。一応先生たちはこの事を把握しているので『来れる時だけでいいから無理しないでね』とだけ言ってくれた。宿題やプリント類は1週間に1回郵送で送ってくれるので特に困ってることはなく、念の為保健室登校も許可されているので今のところ学校に行くのがやだとかは無いかな。人が少なかったらだけど…。
兄ちゃんが自分から行くって言うのは珍しかった。今日はなんかあるのかな、。とりあえず俺たちは制服に着替えたり学校に行く準備を進めた。数分後、着替え終わったのか兄ちゃんが部屋から出てきて俺のとこに来た。きっと髪結んで欲しいの合図だろう。櫛を取りに洗面所まで行って戻ってくると兄ちゃんは椅子に座って待ってた。いつも通り三つ編みにして結び軽く食べれるものを用意した。昨日買ったフルーツを小さく切って1口サイズにした物と牛乳を温めただけのホットミルクを出した。真っ先に食べるのはいちごとマスカット。みかんやグレープフルーツと言った柑橘系は好きじゃないのかいつも残ってる。
食べ終わったのを確認してから俺はリビングにある兄ちゃん専用の箱を取りだした。その中には病院で出された薬とリストバンドが入ってる。薬は色々出されてて睡眠薬(睡眠導入剤)、栄養剤、精神安定剤が主に量が多いやつかな。1週間に2〜3回精神科に通院してて、不足してる栄養を補うために検査ついでに点滴してもらってる。リストバンドは分かると思うけど兄ちゃんは普通の人よりも癖がつきやすくてリスカし始めて1週間程で癖になってしまった。それを隠すために学校行く日は付けてるんだけど、嫌みたいで授業中とか外しちゃうんだよね。てことで薬飲ませて準備も終わったのでバンドつけていざ出発。おじさんに連絡して迎えの車を手配してもらったので下まで降りて乗って学校行く。
あの最低な親たちから解放されて兄ちゃんも安心したのか凄い甘えてくるようになったと思う。前までは強がりだったけど今は全然違う。何かが切れたみたいに幼くなって俺に愛を求めてくる。こっちが本当の兄ちゃんなのかもな、親から愛されなくて、愛されるどころか暴力振るわれて、それから俺を守らないとって責任感でストレス溜まって。愛を知らずに育った俺たちはお互いでお互いを愛して大切にするしかない。大人は愛してくれないって思い込んで怖くなる。みんなが皆暴力振るってくる訳じゃないってことは分かってる。けど、それでも、兄ちゃんの中の恐怖は無くなることがなかった。何年経った今でも人を怖がり誰とも話そうとせず助けを求める。そんな兄ちゃんがいつか消えてしまうんじゃないか、限界突破して俺の前から居なくなっちゃうんじゃないかって不安が毎日のように襲ってくる。
こんな状態にした親は今も刑務所の中。いつになったら出てくるのか、いつになったら謝りに来てくれるのか…。いや、謝られるだけじゃ無理だな。精神的に追い込んで兄ちゃんを壊した、そんな親を誰が許すのか。死んでも許すつもりはないけど。逆に死んで償って後悔して欲しいくらい。
だってさ、一時期入院までさせられたんだよ?いや、的確に言えば『入院させた』が正解かな。
某日、通院の日。
いつも通り病院に行って検査してもらって兄ちゃんが点滴してる間のこと。担当医から、
『このままだと悪化してく一方だから1回入院させて少しでも症状軽くした方がいいと思う』
って言われた。今なら寝てるし手続きすればすぐ個室に移動出来るよって、いきなり言われたら誰でも理解出来ないじゃん。毎日一緒に居た兄ちゃんが居なくなるって思うと心細かったけど兄ちゃんの為だって我慢して手続きした。もちろん兄ちゃんの意思は聞いてない。一応精神科なのでその手続きの書類の同意欄に『もし暴れた場合の対処法』として、拘束器具の使用に同意しますかってのがあった。こんな同意書あるなんて初めて知ったよ。どちらにせよ兄ちゃんには関係ないけどね
まぁそんなこんながあり1、2週間くらいで退院した。
なんて事があってちょっと後悔してる。もしここで入院させなければ兄ちゃんと居れる時間増えてたのにな、とか。でも俺にも学校生活があるし友達も居るし、兄ちゃんが1番なのは変わらないんだけど友達も大事にしたいって気持ちが少しあった。
とか考えてると時間が経つのは早く学校に着いた。
兄ちゃんが手握ってきたから握り返して車を降りる。丁度登校時間だったため他の生徒も多く入りずらかったけどずっと外にいるより保健室の方がマシなので少し遠回りだが裏庭を通って保健室まで行った。
今日は色々と兄ちゃんが珍しい。誰かに脅されてるんじゃないかとか凄い不安になるけど、自分から行くって言ってくれるのは嬉しいからちょっと難しい。先生と話しながら教室に向かう途中で今度は担任の先生と会った。
兄ちゃんが担任と話してる時はなるべく口出さないようにしてる。兄ちゃんが唯一話せる先生だから。そして先生が言ってた『優羽』とは、兄ちゃんと同じクラスの『瀬川優羽(せがわ ゆう)』
生憎、俺と兄ちゃんは違うクラスなので兄ちゃんが1人でパニックにならないように、と傍に居てもらうよう頼んだ。優羽は小学校の同級生で兄ちゃんとも顔見知りなため話せない相手ではない。まぁ変な奴ではあるけどな、先生と話し終わったのか兄ちゃんが袖掴んできたので再び足を進める。教室に近づくにつれ兄ちゃんの顔が怖ばって少し呼吸が荒くなるけど、大丈夫って声掛けながらなるべく足を止めないようにした。教室の前に着くと俺たちの存在に気づいたのか優羽が走り寄ってきた。
『あいつ』とは、多数いる先生の中で1番兄ちゃんの事を理解してくれない、まぁ嫌ってる先生。毎回先生の授業で何かしら指摘されて追い込まれて保健室に逃げ込む。そろそろ限界が近いんじゃないかなとか思ってるけど俺じゃどうにも出来ないからその時は俺も途中で抜けて保健室に行き、落ち着くまで "ぎゅっ" ってしてる。担任の先生も養護教諭の先生も一応知ってるんだけど注意しに行ったり説得しようとすると『私の教育方法に何か問題でも?』って言われてそれ以上は言えないらしい。兄ちゃんが学校に行きたがらないのはこれが理由でもある。
そう言って兄ちゃんと別れた後俺は教室に行った。いつものように授業が始まってその間時間が過ぎるのは遅い。早く兄ちゃんのところに行きたい、そんな気持ちで受けてた授業はいつの間にか3限目になってた。その3限目の途中に事件は起きたんだ。
ガラッ
予想はしてた。またいつもみたいに言われるんだろうなって、優羽の叫び声を聞いた俺は色々察して兄ちゃんがいる屋上に向かった。
屋上に着くと、兄ちゃんはフェンスに登り死にたいってことを訴えてるようだった。それを優羽が止めて引き摺り下ろす。俺はすぐに兄ちゃんの元へ行き抱き締めた。呼吸が荒く、状況が分かってなくて涙が止まらない兄ちゃんを優しく抱き締めて落ち着かせる。
数分経ってから落ち着いて泣き疲れた兄ちゃんはすやすや寝てて恐らく休憩時間に入ったんだろう、先生達が来た。兄ちゃんの生存確認と何があったのかって言うのを優羽に質問してる間に俺たちは退散。
この事が問題となり例の先生は要注意人物として監視される事に。だけど今までの事と今回の事で兄ちゃんは学校自体に恐怖を覚え行かなくなった。体調は改善しつつもやっぱり朝は駄目なようで、起きてからすぐトイレ行って戻すことが多くなり食欲も減って体重が大幅に減少した。病院行く度に点滴の量が増えて医者からこのまま体重が減り続けると入院は避けられなくなるよって…。出来るだけ傍に居てあげたい、もう1人にしたくない、俺は兄ちゃんにとって辛い事でもそれ以上辛い思いをさせたくないから無理矢理でもご飯を食べさせるようにした。最初のうちは胃がびっくりして戻さないように少量から初めて少しずつ量を増やす。案の定、兄ちゃんは嫌がって泣いてたけど慣れてくと自分から食べてくれるようになった。
夜中、兄ちゃんが寝てる間に溜まってる宿題を終わらせて休憩がてら兄ちゃんの所に行く。気持ちよさそうに寝てる兄ちゃんの頭を撫でてやって自分が癒される。学校行ってないにしても成績は大事なので昼間兄ちゃんと宿題やっては散歩ついでに郵便局行ってその宿題と提出しないといけない書類とかを纏めたものを郵送して届ける。生憎兄ちゃんも俺も馬鹿では無いのでオール4は当たり前。テストも兄ちゃんと2人で時間通りにやって送って点数つけてもらって返してもらうって感じだから一応カウントはされてる。お小遣いも月一で貰ってるし不便なことは無いかな。
兄ちゃんの寝顔見てると俺も眠くなって来たのかさっきから欠伸が止まんねぇ。今日の宿題終わってないけど明日でいっかな。もう寝よ。
兄ちゃんの横に寝転がって抱きつき寝る体勢に入る。一日の疲れは大体これで取れるかな、だって大好きな兄ちゃんと寝れるんだもん。
早く兄ちゃんが良くなるといいな。
𝑒𝑛𝑑𓂃◌𓈒𓐍












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。