夏の光がこれでもかと言わんばかりに煌々と地上を照らし、歩くだけで倦怠感が取り払えない日だ。
それが転入初日に迷子になってしまい、歩き回って30分もするとすれば尚更だ。
この赤い屋根のお家を見るのはこれで5回目。
あと10分で学校に着かなければならないのに
辿り着ける兆しは全然見えない。
暑い。疲れた。そんな弱音をため息と共に吐き出してしまいたかったが、そんなのは情けない。
下腹に力を入れ、背筋を痛いほど伸ばし、大股で確証のない道をずんずん進む。
遅刻なんてありえない。きっと彼なら……彼なら…
思い出すだけで頬が赤くなり、鼻腔の奥から彼の香りがして、無意識に口元が緩んでしまう。
早く会いたいなぁ…
キキィッ
突然耳障りな音が後ろから聞こえた…と同時に体に衝撃を覚えた。
自転車と…ぶつかった?反動で少し飛ばされ地面に座り込む。
どさっ
不幸中の幸いか、自転車の人が急ブレーキをかけてくれたおかげでぶつかった腕は打傷程度ですみそうだった。
……“さーせん”?人を撥ねておいてさーせんだって?
自転車に乗っていた人はかなりの高身長で圧があったけど、立ち上がり、物怖じすることなく言い放った。
その人は一瞬ぽかんとしたけど自分が加害者である責任を感じたのか大人しくイヤホンを取った。
言いたいことを言い終え、早速湘北高校に向かおうとしたが、道がさっぱりわからない。
….散々説教した相手に聞くのは癪だったがこれ以外に選択肢はない。
恐る恐る振り返る
聞いたあとその人の顔を見ると“この人バカなのかな?”みたいな顔をされて羞恥心に押しつぶされそうだったけど、耐えた。
そう言い顎で荷台を指す。
そんな、そんなの優等生のすることじゃ…!
…でも時間がない。
…やむをえん。乗せてもらおう。
顔が赤いのを必死に隠して荷台に跨った。
ぐん、と進んだ瞬間清々しい風がスカートを揺らし背徳感も相まってすごく、すごく…楽しかった
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。