水道で顔を洗っていたのは三井先輩だった。
いくら嫌いとは言え、そんなに悲しそうな顔をされると胸が傷んでしまうじゃないか。
なるべく三井先輩の顔を見ないようにして、そそくさと蛇口を捻った。
瞬間、
ぶしゃぁぁあぁぁあぁっ
蛇口を捻ったら、水が噴き出た。
とてつもない勢いで。
束の間の静寂のあと、私の髪から滴る水が地面へ落ちた。
三井先輩が指さす先には、確かに故障中と書いてある紙が貼ってあった。
早くここを離れる一心だった私には見えていなかった。
途端に顔が赤くなった。
また、笑われてしまうだろう。
そう思っていたのに
バサっ
視界が白くなった。
ふわりと三井先輩の匂いがする。
タオルを被せられた…?
タオルの隙間からチラリと除くと、三井先輩が体育館に戻ろうとしていた。
気づけば三井先輩の腕を掴んで引き留めていた。
何だか照れくさくて、タオルで顔を隠した。
すると三井先輩はタオルを私の手から抜き取って意地悪な笑みを浮かべて言った。
三井先輩はもう一度タオルを私の頭に戻して、上からわしゃわしゃと頭を撫でた。
男性に免疫がない私にとって、頭を撫でられるのも初めてだったし、三井先輩の匂いで脳も、肺もいっぱいになってクラクラする。
思う存分に頭をわしゃわしゃした後、満足したように頭をポンポンして去っていった。
やばいやばいやばいやばい
なんか、ドキドキする…
『この胸の高鳴りは何…?』と聞くほど鈍感でもない。
ただ少しだけ、三井先輩の好感度が上がっただけ。
それ以上でも、それ以下でもない。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!