最終的に治ればどんなに怪我をしても良いのか?
__違う。
本人が平気そうであれば見逃しても良いのか?
__、違う。
明らかに干渉を拒む妹を放置しても良いのか?
__違うッ!!
例え本人が拒絶したとしても、それを無視するなど出来るわけがなかった。
何故ならパトは兄だからだ。
仲間を、家族を、妹を、専属神を__穂花を、何よりも大切に考えていたからだ。
監獄塔での一件の後、パトは全てを諦めそうになった。己の無力さを思い知らされ、期待もプライドも何もかも捨ててしまいたくなった。
『そうやって一人で全部背負わないでよ!
私にもパト君の辛い気持ちを背負わせてよ!』
そんな時、自身の気持ちに寄り添ってくれたのがハクだった。
自暴自棄になりかけたパトを救ってくれた。弱いところも、醜いところも受け入れて、絶望のドン底から引き上げてくれた。
何もかも背負う必要は無いと教えてくれた。
…なら、穂花には誰がいるのだろうか。
両親である礼花や凍夜?
穂花は実家にあまり帰って居ないと言っていた。
数ヶ月前一度帰ってきたらしいがそれも1.2日の事で、沖縄で何か事件に巻き込まれたあとますます連絡が減ったらしい。
姉である月花や桜花?
月花は世界中を旅しているため気軽に話せなかったであろう。桜花に関しても同様に、幻想郷で修行をしていた。
双子の姉である芦花?
同じ学校にも関わらずあまり関わるが無く、それどころか意図的に避けられているようにも感じたと、WCBTの前日に聞いていた。
先輩 兼 友人である琴歌?
悪信教討伐の後からあまり顔を合わせなくなっていたはずだ。それに、メリアから 「あまり会いたくない」と言っていたと聞いた。
__なら、メリアを筆頭とする専属神?
…当然、不可能に決まってる。メリアや四季家の人間はともかく、ソフィアや四神達は穂花と深く交流をしたことが無い。
家族も、友人も、誰も寄り添えないのなら、穂花はずっと孤独に不安を抱え続けなければいけないのだろうか。
___違う。
__まだ俺がいる。穂花は一人じゃない。
「どうして放っておいてくれないの」
パトが一歩足を踏み出せば、それを拒絶するように穂花は一歩距離を開ける。
先程から目線は合わず、けれど俯くわけでもなく行き場をなくして左右へと目が泳いでいる。
なるべく実力行使は控えたい。そのため無理強いをすることも出来ず、中々話が進まない。
穂花の状態もあまり分からない中時間をかける訳にはいかず、パトに焦りが見え始めていた時だった。
突然、バッと勢いよくパトの方を見やったかと思うと歪な笑みを浮かべ、目に見える困惑はそのままで穂花の口から止めどなく言葉が紡がれる。
__これ以上は本当にマズイ。
これは穂花の身体的にも、精神的にもだ。
届かない。
パトの言葉は、穂花に届かない。
どれだけ違うと言っても、どれだけ穂花に寄り添おうとしても、彼女の心を動かすことは叶わない。
初めて、穂花が声を張り上げた。
パトの心臓が、一瞬跳ねる。
ジトリと嫌な汗が頬を伝って地面に落ちて行く。
つらつらと並べられる言葉は、いずれも一瞬パトの脳裏を過った言葉だった。
_それも、穂花を説得するための言葉だ。
穂花の言う通りだった。
一年前、穂花に月花と共に専属神の座を狙っていると告げられて、パトは心から応援した。
恋愛感情こそ持っていなかったが、だからと言って嫌な気はしなかった。
穂花が専属神になる。もしもそれが実現すればきっと良いなと、若干パニックな脳内で他人事のように考えてパトは日本を旅立った。
__ただ、それだけだった。
パトからは何もアプローチをせず、WCBTのためにパトと専属神は修行を続け、穂花と月花の成長を待った。
連絡すらまともに取っていない。
穂花が沖縄で悪信教に遭遇したこともつい最近まで知らなかった。
今ここでパトがどれだけ伝えようとしても、穂花には伝わらない。それだけは確かで。
ぐらりと、糸の切れた人形のように穂花の体が傾く。
言葉は届かないかもしれない。
なら、せめて__
___せめて、この手だけは届かせてくれ。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。