……だんだんと明瞭になっていく意識。
目の淵から溢れていた涙は、いつのまにか乾いていた。
ぐっ、と体を椅子から起こして背伸びをしてみる。
背伸びをすると同時に目を瞑った時、ある景色がまた浮かんだ。
………見たことのない、幸せそうな十数人の人たちとの姿と住宅街だった。
楽しそうにゲームをする4人を横目に、隣のテーブルではある会話がされていた。
どろっ、とした重い空気が漂う4人の空間。
そんなものも知らないとでもいうかのように無邪気にゲームを楽しむ4人。
さっと珠奈は椅子から立ち上がり、
口を尖らせ、少し不満そうにしながらもゲームをやめる4人。
掛け声と共にさっ、とゲームを終了させると、
ゲーム機をテレビの下へと仕舞い込む。コントローラーなども直すと、
バラバラと風呂に向かう準備を始めた。
気づいた頃には、リビングには静寂が訪れていた。
……すごい痣だらけ……、
まぁ、そうだよね。毎日殴られ続けたら。
何となく、胸の辺りが少し痛い気がする。
………先ほどではない。しかし、最近はだんだん痛みが増しているような、
…何というか、締め付けられる、そんな感じだ。
……心なしか、手も震えている気がする。
思い出してはいけない、そう言っているような気もする。
…………まぁ、いい。と、勝手に自分の気持ちを片づけ、鞄を開けた。
一応、宿題だけでもやっておかないと。
どれだけ疲れて、しんどかったとしても、まだ大丈夫…。
大丈夫、だから…、
順調に減っていく生徒会に仕事。
ここだけは、僕が唯一家の中で安全でいられる場所だ。
みんなが風呂から上がるのは、10時過ぎくらい位になる。
今日も、10時過ぎぐらいにお風呂に入ることになるだろう。
……もし、誰かと鉢合わせすることになったら…、
……あぁ、思い出したくない。
やっぱり、ギリギリじゃダメだ。余裕を持って誰かと鉢合わせしないように、11時に入ることにしよう…。
next。→
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!