朝。
境界管理局。
第二調査課。
リゼルは壁の時計を見上げた。
時刻は九時二十分。
始業から二十分が経過している。
レヴィが椅子を回しながら言う。
セラフィナが眉をひそめた。
それは全員同意だった。
レインは時間に正確だ。
むしろ五分前には来る。
そんな男が連絡もなく遅刻する。
珍しい。
リンネルが机に頬杖をつく。
レヴィとセラフィナが同時に言った。
また同時だった。
リンネルが吹き出す。
リゼルも苦笑した。
しかし。
その笑いは長く続かなかった。
コンコン
扉が叩かれる。
入ってきたのは受付課の女性だった。
顔色が少し悪い。
リゼルが立ち上がる。
女性は少し迷うように視線を泳がせた。
空気が変わった。
レヴィが答える。
沈黙。
誰もすぐには言葉を返せなかった。
最初に口を開いたのはレヴィだった。
セラフィナが言う。
女性は首を振った。
リンネルから笑顔が消える。
リゼルも違和感を覚えた。
おかしい。
レインは連絡を入れる。
絶対に。
何も言わず消えるような男じゃない。
リゼル達は顔を見合わせる。
女性は小さな袋を机に置いた。
中には黒い灰が入っていた。
リゼルにはただの灰に見える。
しかし。
カタン。
小さな音がした。
全員が振り向く。
ヴェルンだった。
いつも穏やかな男が。
珍しく笑っていない。
その琥珀色の瞳は袋の中の灰を見つめていた。
まるで。
見覚えがあるかのように。
リゼルが呼ぶ。
ヴェルンは数秒遅れて顔を上げた。
いつもの笑顔。
けれど。
リゼルは気付く。
ほんの少しだけ。
声が硬かった。
ヴェルンは目を伏せる。
その表情を見て。
リゼルの胸に嫌な予感が生まれた。
そして。
ヴェルンは静かに呟く。
聞き返した時には。
もう彼は微笑んでいた。
何事もなかったかのように。
だが。
誰も知らない。
その灰が。
異形の核が崩壊した時にだけ残る
痕跡だということを。
そして──
これがアルカディア全体を巻き込む
『異形消失事件』
最初の被害者発見報告になることを。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!