第2話

Episode1 消えた足跡
9
2026/06/27 15:00 更新





朝。


境界管理局。


第二調査課。

リゼル
レイ、遅いね


リゼルは壁の時計を見上げた。


時刻は九時二十分。


始業から二十分が経過している。

レヴィ
寝坊じゃねぇの


レヴィが椅子を回しながら言う。

リゼル
レインさんが?


セラフィナが眉をひそめた。

セラフィナ
考えにくいですね


それは全員同意だった。





レインは時間に正確だ。


むしろ五分前には来る。


そんな男が連絡もなく遅刻する。





珍しい。

リンネル
まぁまぁ


リンネルが机に頬杖をつく。

リンネル
レインだってたまにはあるでしょ

レヴィ
ない

セラフィナ
ない


レヴィとセラフィナが同時に言った。

リンネル
息ぴったり

レヴィ
黙れ

セラフィナ
黙ってください


また同時だった。





リンネルが吹き出す。


リゼルも苦笑した。





しかし。


その笑いは長く続かなかった。

コンコン


扉が叩かれる。

セラフィナ
どうぞ


入ってきたのは受付課の女性だった。


顔色が少し悪い。

受付課
第二調査課の皆さんに確認したいことが

リゼル
どうしました?


リゼルが立ち上がる。


女性は少し迷うように視線を泳がせた。

受付課
レインさん、
こちらに来ていませんか?


空気が変わった。

レヴィ
来てないけど


レヴィが答える。

リンネル
どうかしたの?

受付課
昨夜から
連絡が取れないそうなんです





沈黙。


誰もすぐには言葉を返せなかった。




レヴィ
…は?


最初に口を開いたのはレヴィだった。

レヴィ
何言ってんだ

受付課
昨夜の二十三時以降
通信記録が途絶えています

セラフィナ
通信機の故障なのでは


セラフィナが言う。

受付課
確認済みです


女性は首を振った。

受付課
自宅にも…戻っていません


リンネルから笑顔が消える。

リンネル
………え


リゼルも違和感を覚えた。





おかしい。


レインは連絡を入れる。


絶対に。


何も言わず消えるような男じゃない。

リゼル
何か事件に巻き込まれたとか?

受付課
それを調査中です









受付課
ただ……

リゼル
ただ?

受付課
現場で少し妙なものが見つかりまして


リゼル達は顔を見合わせる。

リゼル
妙なもの?


女性は小さな袋を机に置いた。


中には黒い灰が入っていた。

リゼル
…これが?

受付課
はい


リゼルにはただの灰に見える。


しかし。





カタン。





小さな音がした。


全員が振り向く。





ヴェルンだった。





いつも穏やかな男が。


珍しく笑っていない。


その琥珀色の瞳は袋の中の灰を見つめていた。





まるで。


見覚えがあるかのように。

リゼル
ヴェルさん?


リゼルが呼ぶ。


ヴェルンは数秒遅れて顔を上げた。

ヴェルン
失礼いたしました


いつもの笑顔。





けれど。





リゼルは気付く。


ほんの少しだけ。


声が硬かった。

ヴェルン
その灰を、どちらで?

受付課
レインさんの居住です

ヴェルン
そうですか


ヴェルンは目を伏せる。


その表情を見て。


リゼルの胸に嫌な予感が生まれた。





そして。


ヴェルンは静かに呟く。









ヴェルン
………間に合いませんでしたか









リゼル
え?


聞き返した時には。


もう彼は微笑んでいた。


何事もなかったかのように。





だが。





誰も知らない。


その灰が。










異形の核が崩壊した時にだけ残る


痕跡だということを。





そして──





これがアルカディア全体を巻き込む


『異形消失事件』


最初の被害者発見報告になることを。






































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