翌日の2時限目──
今日は体育でドッチボールだ
風の噂によると、勝ったクラスのMVPには星……特待生になるための証が授与されるらしい
そのため、皆気合が入っている
アーニャがハチマキをギュッと結び、気合を入れていると例の3人が絡んできた
色々言っていたのを要約すると、「同じチームだから、よろしく!お互い頑張ろうね!」という様な感じだ………たぶん違うけど
そうこうしている内に開始時間となり、集合がかかった
「ピーッ」という笛と同時にヘンリー先生がボールを上げる
それをキャッチしたのはダミアンで、他の子から「頑張れダミアンくーん!」と声援が聞こえた
ダミアンが全力でストレートを投げる
それを相手チームは避けて行き、やがて1人の生徒の正面まで飛んでいった
ボールはその子に当た────
──る代わりに、その子は片手でバシッと容易くキャッチしてしまった
他の子より並外れたガタイのその子は、人民軍陸軍司令部少佐の息子であるビル・ワトキンス君だった
同じ6歳とは思えない迫力がすごい
そう言ったビル君が勢い良く投げると、ドカッという音が続き、一気に4人も当ててしまった
怒りを乗せて投げられたボールは軽々と取られ、流れるようにそのままベッキーにぶつかった
その後も彼によって次々と当てられ、こちらのチームは早くも少数になってしまった
だが久々で、尚且つ女子の私が現役の男の子に勝てる訳が無い
遺伝子の父親譲りなのか分からないが負けず嫌いが発動し、たまたま転がってきたボールをビル君に向って投げた
…………フリをして、他の子に向って投げる
察したビル君が後ろにボールが向かう方向の子に「避けろ!」と指示を出すが、反応が遅くて当たってしまった
ボールは跳ね返って外野の子がキャッチする
たがいくら名門校の生徒と言っても6歳………バカ正直にビル君に向って投げ、軽々とキャッチされてしまった
1人脱落させた所でこちらが何か変わることはない
未だこちらが劣勢のままだ
ビル君がダミアンに向けてボールを投げると、エミールとユーインがそれぞれ盾となって守る
その都度ボールはビル君の元に戻ってくるため、恐らくボールの回転や角度等を計算してやっているのだろう
改めて、本当に6歳なのか疑いたくなってしまう
再度ビル君はダミアンに向ってボールを投げた
───ハズだった
ダミアン君は避け、その隣に居た私も少し横に移動
その瞬間、ボールの起動が変わって私に向かって来た
──〝味方にボールを渡せ!〟
私は反射的に右手でボールを弾く
ボールは綺麗に放物線状を描き、向こうの味方の外野にギリギリで届いた
瞬間、「ピッ」と笛がなる
ヒットした合図だ
右手の甲がじんじんと痛む
外野に移動する直前、ビル君が話しかけてきた
「フェイントをかけられた気分」つまり──
あの時、球は確実にダミアンの方に向かっており、彼の視線もダミアンを見ていた
だがそれはフェイントで、私の方は一切見ずに軌道を変える投げ方をして、私に当てたのだった
本当に、彼は6歳なのだろうか
初めてこの学校で大人に近い思考をする子に出会えて、少し嬉しくなってしまう
子供に合わせている私にとっては、始めての感覚だった
それ故に自然と口角が上がる
私が外野に行くと、ベッキーが私の右手を見てギョッとした
内野の方を見ると、丁度ビル君がアーニャに投げようとしている所だった
アーニャの足元を狙ってボールを投げるが、アーニャはその前に飛んで避ける
ボールが回ってきてノールックでキャッチしたビル君は次にアーニャの右側を狙うものの、軽々と避けられてしまう
「ならば左……」と左を狙っても、それも簡単に避けられてしまった
それもそのはず、アーニャは心を読める超能力者
恐らく、彼の思考を読んで避けているのだろう
そうとも知らず、ビル君は特殊な投球をするが、アーニャが取った行動はは直立不動
ボールは逆にアーニャを避ける様に曲がって、別の生徒に当たった
私の時とは違い、綺麗に決めれなかったのが余程悔しかった様で………ビル君は目に涙を浮かべている
先程のボールは敵の外野がキャッチし、投げる
ベッキーの声でアーニャは移動しようとするが、足がもつれて転倒してしまった
外野からのパスを受け取ったビル君は、転倒したままのアーニャに向って勢い良く投げる
手加減という事を知らないボールはかなり強い勢いのまま、身構えたアーニャに直撃───
──する前に、ダミアンがボールを捕えた
だが勢いに負けボールを離してしまい、ボールはそのまま重力に従って床へと落ちた
直後、笛が鳴り、先生の「ヒット」という声が響く
おっと、私としたことが……
アーニャがすくっと立ち、足元のボールを拾う
アーニャの投げたボールは相手の内野に届いて……
なんてことは無く、足元に強く打ち付けられた後床を転がり、ビル君が拾ってアーニャに当てたため、ゲームは終わりとなった
相手の子たちが次々にビル君の星ゲットを喜んでいるが………
だそう
先生はそう言って私の右手を指さした
ビル君は私の手を見ると、しゅんと落ち込んでしまった
見た目ほど痛くないんだけどなぁ……
こうして、ドッチボールは終わりを迎えたのだった
すいませんでした…………(土下座
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!